貴女の娘はご貴族のご子息になったようです。
純粋な乙女を騙した背徳感と、乙女の胸の包容感の何ともいえないハーモニーになんだか禁断の扉から怪しげな光が。あわやもう少しで禁断の扉が開くという時、軽いノックのと共に「失礼します。カルル様」と渋いナイスな声が聞こえてきました。もしやこの声はナイスミドルなひつじ・・・ではなく執事様「マルクさん」では!
ラリサさんのお胸に後ろ髪を引かれつつ顔を上げると、やはり 老執事様の笑顔が目の前にありました。
「カルル様、夕飯をお持ちしました。すぐにご用意いたします」
ふわりと鼻孔をくすぐる甘く香ばしい香り、OHフレンチ〜と叫びたくなる様な夕飯さん達。この世界の食事が日本人に美味しいと思えるレベルでよかったです。いきなり見た目が紫やら蛍光ピンクだったり、どう見ても芋虫のようだったり。アレですよ、某冒険映画のように、目玉のスープやらサルの冷えた脳みそとかでてきたら、確実に食欲不振で衰弱死エンドを迎えてましたよ。
マルクさんが先ほどから、とても優雅な仕草でポンポンお皿を並べておりますが、あのウェーターさんがよくガラガラ引いている、サービスワゴンにはどれだけの食材が隠されてたんでしょうか。この量からすると、4人前強でしょうか。私、 マルクさん、そしてラリサさんと後もう一人・・・・やはりココはコスチャ王子の登場でしょうか。毒殺は私の完璧なる勘違いだったとはいえ、この異世界トリップが王子の陰謀である可能性が高い以上、できれば王子との接触は控えて現状把握したい所なんですが。
「さぁ、カルル様用意が整いましたのでどうぞ」
ラリサさんに手を引かれ、夕飯の用意された席へと連行されました。あれ、椅子が2脚しかないですよ?もしやこの量を王子と二人で食べろと!?フードファイトしろと?あのちび王子に負ける気はしませんが、何故ここでフードファイトを?もしや、フードファイトのために召還された?
「カルル様、さぁ、さめないうちにどうぞ」
ラリサさんは笑顔で恐ろしい事をいっております。マルクさんもにこやかな笑顔で給仕体制に入っているではないですか。 これを一人で食べろと?新手の拷問ですか?私、お二人に恨まれる事しましたか?おねしょですか?やっぱりおねしょのせいですか?いいえ、お二人を疑っちゃダメですよね。これはもしや、王子は遅れてくるのでお先にどうぞと、そうゆう事ですよね。では礼儀作法のお国、日本人らしくお待ちいたしましょう。
「あの、僕、コスチャ王子待ってる・・・です」
「おや、申し訳ございません。カルル様がいつお目覚めになるか分からなかったので、コンスタンティン様は先にお召し上がりになりました」
まじですか!やはりこの量を一人で食べろと?!無理です。死にます。あ、名案が浮かびました。一緒に食べようと誘えばいいのです。これなら、一人で食べないですみますし、可愛さもアピールできます(腹黒)。いけ〜斜めから見上げたウルウルパワー!しかし、このポーズばかりだとマンネリを招きそうです。あとで、新ウルルンポーズを考えないといけません。まぁ、とにかく今は、ツリー王女も陥落させたウルルン目線でおじさまたちをイチコロです!
「・・・僕、一人で食べるのさびいです。僕、ラリサお姉ちゃん、マルクおじさまと一緒にたべたいです・・・だめ、ですか」
「「え?」」
なんかお二人とも、ものすごく驚いています。もしや、この国は人と一緒に食事しちゃダメとか変な法律があるのでしょうか。そんなことないですよね、だって今朝、王子とツリー王女と食事しました。ここは、ちょっと涙目にして「ウルウルパワー」フルパワーでおねだりしましょう。優しいラリサさんなら陥落してくれます。え、なんですって?つい先ほどまで「罪悪感」感じてたのは誰だって?はて、だれでしょうね〜。深く考えたら世の中生き残れませんよ。
「お願い。ラリサおねえちゃん・・・・」
「え、・・・・で、でも」
な、何故?ラリサさんがものすごく動揺してます。助けを求めるるような目線をにマルクさんにおくってます。もしや、お顔が羊のラリサさんは、私と違うご飯をたべるのでしょうか?
「カルル様、ラリサは獣人でして」
「え?うん。知ってるよ」
そりゃ、羊のお顔が本物なのはさっきこっそり確認しましたよ。
「獣人が人間と同じ席、特に貴族の方と食事を共にすることはあまり褒められた事ではありません」
もしや、この世界ではは獣人差別とか、身分差別とかそんなものがあるのでしょうか。そもそも、私は異世界人、この世界に身分とかかないですし。老執事様の申し訳なさそうな声と、ラリサさんのとても辛そうな顔をみて、なんだか腹が立ってきました。営業にいた時散々、「お前は女性だから」とか言われたの思い出しちゃいましたよ。あぁむかつく!
「僕、貴族じゃないよ」
「いえ、カルル様は、ご貴族ということになっております」
『ということになっている』ってもしかして、老執事様は私の素性をしってるってことでしょうか?
「ということになってる?」
「はい」
やはりご存知のようです。
「詳しく教えて、僕は誰?」
「コンスタンティン様の母君カティア様の遠縁のご子息様です。ご両親が不慮の事故の為お亡くなりになり、コンスタンティン様が後見人に名乗りを上げられました。生まれつきお体が弱かったため、産後直ぐに山中の別宅で療養されていため世間をあまり知りではありません。また、手術あとがあるため人前に肌をさらす事を極端にきらっております」
さすが、コスチャ王子というんでしょうか。見事なまでの設定です。これだと、私が変な質問を使用人の人にしたって、あまり怪しまれないでしょう。それに、女だとバレないようにこそこそしてても「手術後が気になっている」と思われるだけ。完璧です。完璧過ぎて怖いです。コスチャ王子、あなたただのお子様じゃありませんね。
スラスラと話した、という事はマルクさんとここにいるラリサさんは事実を知っているってことになりますよね。しかし、どこまで事実を知っているんでしょうか?
「でも、本当は違うの、知ってるんでしょ?」
「はい」
「どこまで、知ってるの?」
「・・・それは・・・」
「僕の性別は?」
「存じております」
「そっか、僕が本当はどこから来たかは?」
「存じております」
「年は?」
たのむ!たのむから。それだけは知らないでおいてください〜27歳でおねしょは27歳でおねしょは・・・バレたらこの部屋から飛び降りますよ。本気と書いてマジで飛びますよ。
「5歳前後かと」
よし!バレてない!
「みんな知ってるの?」
「いえ、この事をしっているのは、私とコンスタンティン様そしてラリサのみです・・・カルル様、お食事がさめてしまいます。お話は後で、どうぞお食事を」
急に、話の矛先変えませんでしたか、ナイスミドルのマルクさん。もしや、この人、私が食事している間に逃げるのでは?喋りすぎたと、コスチャ王子に報告するのでは。どうにかココに引き止めて、尋問しなくてはいけません。
「マルクさんも、ラリサお姉ちゃんも、僕が貴族じゃないってしってるんでしょ?一緒にお食事しても問題ないでしょ?ね、おねがい。一緒にたべてよ」
ジッと瞳を見つめて「断固とした意思をもってます」アピールです。簡単に折れませんよ私は!営業は根気です。一度ダメと言われても引き下がっちゃダメです。根性みせちゃるです!
「・・・分かりました、席をもう一つ用意してきます。ラリサ、お前はそこに座りなさい」
マルクさんはあっさり折れました。なんだか、一人で空回りの気分ですよ、マルクさん。
「で、でも、お祖父様・・・・」
「カルル様が良いとおっしゃってるのだ、大丈夫」
「はい」
老執事様がどこからか椅子と2組のテーブルセットを持ってきてお食事開始になりました。美老人と美女に囲まれうふふふなお食事です。
とりあえず、一番疑問に思っていた事をぶつけてみましょう。
「どうして、僕、ラリサお姉ちゃんとお食事しちゃダメなの?」
「我が国は人間至上主義の思想が根強く、数年前、種族差別を禁止する法ができたのですが、まだ十分に浸透しておりません。特に、貴族の皆様は血筋を尊ぶ方ばかりですので」
あぁ、やっぱり・・
「・・・くだらない」
あ、思わず本音を言ってしまいました。ラリサさんを見るとなんだか寂しそうに微笑んでました。本当にくだらない。こんな優しい人が今まで「人間至上主義の思想」というくだらない思想のため、どんな苦労を強いられていたのか、考えるだけで腹が立ちます。
決めました。私、このラリサさんを守りますよ!かわいいラリサさんを全身全霊でお守りしますよ!可愛いは無敵ですよ!
「お姉ちゃんは私が守るからね。虐められたら僕が仕返しする!」
それは営業部長直伝のありとあらゆる、裏ゆすりテクニックでね!
「カルル様、大丈夫ですよ。コンスタンティン様は差別をされない方ですし、ここの使用人も、人、獣関係なく働いておりますから」
「ふ〜ん。じゃあなんで、一緒に食べようって言ったときあんなにビックリしたの?」
「そうですね。やはり、カルル様は貴族ですから・・・・」
「違うってしってるくせに」
「ええ。でも、これからは貴族ですから、お気をつけ下さいね」
「うぅ貴族ってなんだかめんどくさそう。平民になりたい」
「貴族の身分はきっとカルル様を守ってくださいます。あと性別も」
ラリサさんの心配そうな目。可愛いです。しかし、どうしてそんなに他の人に私の存在を隠さなきゃいけないんでしょうか?やはり生贄説が濃厚になってきました。異世界人の女は最高の供物、みたいなものなのでしょうか。もしや、グレーテル系?太らせてから生贄?さ、探りを入れないとです。
「うう、めんどくさいよぉ。そんなに僕の事、隠さなきゃダメなの?皆にバレたら酷いのなるの?」
「・・・・」
「ねぇ、どうして?隠さなきゃダメなの?」
「・・・」
「ねぇ・・教えてよぉ」
やはりラリサさんはウルルン泣きそうな上目遣いに弱いみたいです。後もう一押しで、ネタを履いてくれそうです。
「うぅ、ラリサおねぇちゃん。どうして?」
「そ、それは・・・」
ラリサさん陥落!寸前に目の前に白の手袋に覆われた手。その手の先には笑顔のマルクさん。
「それは、コンスタンティン様におききください」
マルクさんにスッパリ切られてしまいました。いい感じに、ラリサさんを追いつめていたのにぃ。っち、引き止めたのが仇になったか!ふて腐れた目でマルクさんを見つめても、笑顔バリアーで返されました。ラリサさんにいたっては目も合わせてくれません。ちょっとショックです。どうしましょうか、コスチャ王子が素直に話すとも思えません。でもこれ以上追求してもマルクさんがのらりくらりとかわして、深く教えてはくれないでしょうし・・・・
いいもん。明日から屋敷中回って色々情報収集してやるんだから。
無駄な闘志をもやしつつ。ラリサさんに促されながらほぼ一人で夕飯を完食。私の胃袋ブラックホールです。この小さな体にアレだけの量が入るなんて・・・なんてファンタジーな体なんでしょう。グレーテル化バクシン中な件は、見てみないふりする事にします。
・・・お母様、 見ていてください。 明日から貴女の娘は某英国諜報部員もビックリな諜報活動をお披露目しますよ。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
多恵子の辞書に「食べ物を残す」という言葉はない・・・
次からしばらく別視点予定です。