シマノ、目覚める
……眠い。目蓋が重く、目を開けようとすると少し痛い。
寝る前の記憶を蘇らせる。たしか、ほうきを作りにいって…。
「……少し良いかしら?あなた名前は?」
乱れた服をなおして、休んでいたらしい女にグレーテルは話しかけた。
「わたくしは、アスミと申します。」
「あなたがこの店の主かしら?」
「いいえ、ご主人様はとある用事がありまして、ただいま留守にしております。そのせいで結界が弱まって、敵の侵入を許してしまったのです……。大変、不甲斐ない…で…す……。」
そういって、アスミと名乗る少女は泣き出してしまった。
「…そ、そんなこと無いと思うよ。あんな凄い魔力を持った魔女にやられるなんて当たり前…だと思うんだけど…?」
コウは自信なさげに、グレーテルの方を見た。
「わかってるじゃない。その通りよ、コウ。この事件の犯人はヘンゼル……あなたも知ってるでしょ?」
「ヘンゼル…さ、ま?まさか、本当に?」
「そう、それが彼女の本性。コウにも一度説明しておくわ。ヘンゼル…そして私はただの魔女ではなく、貴族階級の魔女なの…。そして貴族の中でも私たちの家は三大名家の中の一つ、ユーリシュビッツ家。
だから、魔界ではちょっとした有名人ってわけ。
そして、ヘンゼルの野望は一つ。魔界を自ら支配すること。
それを阻止するために私が人間界にやってきたの。」
いつになく真剣な声でグレーテルは説明した。
志魔野も驚いたのだが、グレーテルが常に兼ね備えている優美さや、言葉遣いの美しさを感じ取っていたのか、当然のことのように思えた。
「…アスミさんも疲れたでしょうから、今日は帰ります。主人が帰ってきたら、伝えてくださる?その時にまた来るわ。」
…思い出した、そういって昨日は帰ってきたのだった。
ようやく目が覚めて、脳が覚醒してきたようだったので、目を開けた。
季節は夏。まだ本番と言うわけではないが、やはり暑い。
こんなボロアパートにはもちろんクーラーはない。それどころか、扇風機も……。
体はじっとりと湿っている。凄く気持ちわるい。
よく見るといつも寝ている場所ではなく、そこから少し離れた畳の上に、そのまま転がっていた。
そして、布団の布いてある場所には……、グレーテル。
やはり暑かったのか、彼女の横には誇りであるはずの、黒い服が脱ぎ捨てられていた。
……ということは…?
パッと反射的に上半身を起こし、グレーテルの方を見た。
期待通り、彼女は下着だった。しかも白。
外が黒いから、てっきり中も黒だと思い込んでいた。
グレーテルを起こさないように、志魔野は静かに移動した。
そして、寝ているグレーテルに馬乗りになり、手首を掴んだ。
…しかしまだ起きない。
このまま、彼女の胸でも……と思った志魔野だったが、その瞬間、背後から誰かに殴られた。
「いってぇ!!」
「コウの変態!」
声の正体はもちろん、グレーテルだった。
「…これからコウの家で寝泊まりするだろうから、試してみたの!…私を襲わないかね。」
「お、襲ったんではなくて…、えっと、触ろうと……。」
「一緒よ。信用ならないわ。」
「……そ、そうだ、これは誰なんだよ。」
そういって志魔野は下着姿のグレーテルを差した。
「それは、私の魔法で猫又を変化させてるの。でも、話逸らそうったって無駄よ。」
「そうじゃないで……ってもう8時20分かよ!」
「あら、どうしたの?」
「学校だよ、学校!」
「ふーん、それより朝ごはんは?」
「んなもん無いよ!」
志魔野は着替えながら言った。
「じゃあ、行ってきます!」
志魔野はそれから1分以内に用意をすませ、家を出ていった。
「……そんなに焦らなくても、私の魔法があるのに。今日はムカつくから教えてあげないけど。」