ヘンゼル、魔王に会いに行く
「こ・ん・に・ち・わ!だーれだ?」
「……ヘンゼル、…だろ?」
広く薄暗い部屋にこだます男女の声…。
部屋はモノトーンで統一され、床は大理石のようなものでできており、壁紙は黒い。家具らしきものはほとんどなく、真ん中に黒いベッドが置いてあるだけだった。…それにしても、生活感がない。
「当ったり~!もう、すぐ当てちゃ、つまんない!」
「そんなこと言われてもな…。」
男は少しわらうと、部屋に唯一置いてあるベッドから起き上がった。
「まだ完全に目覚めないの?」
「ああ、まだ準備は整ってない…。」
ヘンゼルは男に絡みついて、手を背中にまわし、口元を男の耳元に近づけ、挑発的に
「魔界の魔王様ともある人がこんなざまじゃね…。」
「…ったく、やめろよ。お前のよくない癖だ。頼みがあったらすぐ色仕掛け。今日の頼みはなんだ?」
男は呆れたように言って、頭を掻いた。
「そんなんじゃないわ!」
「ふーん。じゃあ、こういうことしに来たのか?」
そういって、男は彼女を押し倒し、手首をつかみ、グッとベッドに押し付けた。
「…それも違うわ!ばーか!」
「はいはい、わかってるって。別に俺、欲求不満じゃねーし。」
そういってグレーテルの手をあっさり放すと、ベッドのふちに座りなおした。
「今日は、ほんっとに、あなたに会いに来ただけなの!」
「ふーん、それだけか怪しいもんだ。」
「……ただ、聞きたいことが一つあるの。あなた、最近女を連れて歩いてるそうね。その子誰なの?」
「…っ、嫉妬か?」
男は笑いを押し殺したような声で言った。
「ちーがーう!」
「別に、あいつは、ただの人間だ。俺の玩具ってとこかな。」
にやにやして男は言った。
「……玩具?」
「別に、いかがわしいことはしちゃいないよ。」
「ふーん。」
「……なんか、嬉しそうだな。安心したか?」
「だから、違うって!自意識過剰男め!」
「はいはい。少なくても、俺はお前のこと特別だと思ってるよ。……こんな風に話せるのは、お前といる時だけだ。お前もだろ?俺以外にお前が動揺してるのは見たことないしな。」
「……はいはい、そうですよ。」
「ほらな!いつも外では余裕ぶりやがって、俺には弱いだろ?」
「はいはい。そうやっていい気になってるといいわ。じゃあ、私、忙しいから行くわね!」
「また来いよ!」
「絶対行かないから!」