シマノ、魔力を感じる
「あなたはそろそろ魔力が目覚めているから、きっと分かるはずよ。」
挑発的な目でグレーテルは言った。初めて師匠らしいことを言ったのではないだろうか。
「…魔力?俺は人間だぞ?いくら魔女の弟子になったとはいえ、そんなことあるのか?」
「いいえ、無いわ。でもコウは特別よ。ほら、ここに手を当てて。」
そういって、グレーテルは志魔野の手をとり、先ほど女性が倒れていた所に持っていった。
「目をつぶって……。さぁ、手に神経を集中させて……。」
白くて細長い、そして柔らかい手が志魔野の手の上で動く。
指示されたように目をつぶり、神経を集中させると、何か力が流れてくるようだった。
なにかに似ている。…俺の心臓から感じる力に似ているが、何かが違う。
邪悪で悪意のようなものが入りこんでいる感じ。
……思い出した。
俺が死んだときのあの感じに似ている。
ハッと集中の糸が切れた。答えたはわかった。…だが、そのとたん、手の方が気になって…。
綺麗な手……。
そこから目線を上にやると、細くすらりと伸びた白い腕、肩にはさらさらとした髪の毛がかかっている。顔を見ると、まるで人形みたいに綺麗な形の目に長い睫毛、整った口にすらりとした鼻がある。
まさに美少女といってもいい部類の顔立ちだ。
あらためて、まじまじとグレーテルを見ると、胸が高鳴った。
「…ねぇ、そろそろ良いかしら。」
「えっ…?」
気付くと志魔野の目線はグレーテルの顔にあった。
グレーテルの顔は当然歪んでいる。
「なに見てんのよ…。全く、わかった?」
「ああ、わかったよ。あいつだろ、ヘンゼル。」
「正解…だけど、手放してくれない?」
気付くと、下にあった志魔野の手はグレーテルの手の上に、そして、しっかり握っていた。
「あ、ごめん!」
最近なにかと歯止めが利かないことが多い気がする…。
「……つまりね、あいつはまた私の邪魔をしてきたってことなのっ!」
「また?」
「そう、あなたを殺したのも私の邪魔をするため…。昔からあいつはなにもかも邪魔してくるの!」
「俺はお前の邪魔のために死んだのか…。なんか、切なくなる話だな…。」
「あっ、ごめん。……でも、この際だから言っておく。私の目的は、ヘンゼルを殺すこと。そして、ヘンゼルを殺せば、あなたは心臓を取り戻し、完全に人間になれるの。そのうち妹も…。」
「…だから俺を弟子にしてくれたのか…?」
「まぁね。だいたいそうよ!物分かりが良くなって来たじゃない。」
そういった彼女の顔はなにか悲しげで、まだなにか隠していることがありそうだった。
「……そのためには、まず、ほうきを作らなくっちゃね!」