シマノ、結界を解く
それから10分。
「……なかなか帰って来ないな。」
「もしかしたら、中でなにかあったのかもしれないわ。強引だけど、今から結界を解くわ。」
「……結界を?」
「あの猫又は結界除けの能力が宿っているから結界を無視できるけれど、私やコウのように、魔力がある者は入れないような仕掛けになっているの。」
「俺に魔力?」
「そういえば説明してなかったわね。コウの心臓は私の魔法で補ってる……つまり、あなたは魔力で生かされている。魔女も魔力で生きているから、結界にとっては魔女と同じってことよ。」
そんなことを説明している間にも、グレーテルはずっとチョークのようなもので地面に何かを書いている。これは俗に言う「魔法陣」って奴なのか……。実際に見てみるとかなりの迫力で重厚な面持ちだった。
「コウはそこに立ってて!」
いつもの余裕さはどこへやら、真剣な顔をしてグレーテルは指示した。
「わかった!」
なんだかわからないが、志魔野は星を円で囲んだような模様の所に立った。
「この結界はかなり強いものだから、簡単には解けない。……悪いけど、あなたの力を貸してもらうわ。」
「えーっと、ここが動力だからっと……。」
独り言を言いつつグレーテルは魔方陣を書き終えたようだった。
魔方陣は丸く駄菓子屋を囲み、中にはよく分からない文字のようなものや、星が描かれていた。
「さぁ、始めるわ!コウはそこから出ちゃだめよ。」
そういってグレーテルはなにやらぶつぶつ呟きだした。
すると、駄菓子屋の古い引き戸はガタガタと揺れだし、それは家全体へと伝わっていった。
その動きがピタッと収まると、また激しく、いっそう激しく揺れ、すべての扉や窓が開いた。
「……!」
「やっぱり、ね…。」
「なにが?」
「いいえ、何も無いわ。とにかく協力ありがと。」
凄い……けれど、そんなに驚いてはいない。人間、非日常も繰り返していけば驚きもなくなっていくものなのか、ここの所驚く事が多すぎて、少しは慣れてしまったようだった。
古い引き戸から中に入ると、そこはやはり駄菓子屋だった。
一階部分は駄菓子屋になっており、奥に小さい畳の部屋が一室あるだけだった。
二階に登ると、さっきの猫又がいた。そして、横には人の足…?!
手と足は縄で縛られており、口はガムテープ…という、典型的な監禁スタイルだった。
「…っん!んっ!」
ガムテープがあって喋れないようだった。
その縛られている女の子は今の時代には珍しく着物を着ていたので、胸元ははだけ、すこし露出した肌は汗ばんでいる。それに目にはいっぱいの涙があふれ、今にも零れ落ちそうだった。
そのせいか縛られているせいか、なんだかわからないが凄く色っぽい。
(こんなときにまで……。煩悩消えろ!!)
志魔野はそんなことを考えてしまった自分を恨んだ。
グレーテルが指をパチンと鳴らすと、縄は緩み、ガムテープは剥がれた。
「……っん!はー、死ぬかと思いました……。助けてくださってなんとお礼を言ってよいのやら……。」
本人は意外にも元気だった。
「…もしかして、グレーテル様ですか?!」
「ええ、そうですけど。」
グレーテルななにか不満そうに答えた。
「グレーテル様に会えるなんて光栄です!」
この口ぶりからして、グレーテルは偉い人…いや、偉い魔女なのだろうか?
そういえば志魔野はグレーテルのことについてあまりよく知らないことに気付いた。
「……いや、そんな、こちらこそありがとう。それより、大丈夫?これは誰にやられたの?」
「ごめんなさい。……その、えっと、何があったか、全く思い出せないんです……。確か……イテッ!」
そう言って彼女は頭を押さえた。どうやら、思い出そうとすると頭が痛むらしい。
「いいわ、ありがとう。多分あなたは忘却魔法をかけられていると思うわ。少し休んでちょうだい。その間、もし良ければ、この店を調べたいんだけれど、良いかしら?」
「どうぞ、お好きなだけ調べて下さい!……では、大変申し訳ないですが、失礼します。」
そういって彼女はふすまを開けて別の部屋へと向かった。
「さぁ、コウ、これは誰の仕業だか分かるかしら?……ヒントはこの辺りにまだ残っているわ。」