シマノ、泣かせる
「……お、おい、お前!」
そう声をかけると二人は驚いたように階段の最上段に足をかけている志魔野を見た。
「……コ、コウ?」
「お前、グレーテルに何してんだ?!」
志魔野が目の色を変えて藤崎リョウイチの胸元をつかみかかった。
「やめてっ!!……違うの。いままで言えなくてごめんなさい。わたし、イッチーの家に住まわせてもらっているの。」
目に涙をため、グレーテルは胸倉をつかんだ志魔野の手をやさしく包み込みさらに言った。
「……だから、イッチーは悪くないよ。悪いのは私だから、……放して?」
そういって志魔野の方を見つめた。それから数秒の沈黙が続いた後、志魔野はようやく手を放した。
「……なんで、なんで俺じゃダメなんだ?」
「……それは……言えないけど、」
「ホントは俺のこと利用してたんだろ?それだけだったんだろ!?」
グレーテルが言いかけたと同時に志魔野は添えられた手を振り払い、うつむいて言った。
「俺、あんまりしゃべらないし、ぶっきらぼうな方で、あんな感じだったけど、お前との生活は結構楽しかったんだ。それにグレーテルだってきっと楽しんでると思ってたんだ。でも、でもあれは嘘だったんだよな。俺がただの勘違い野郎だってこれでわかったよ。じゃあな。」
いつも無口な志魔野は今までため込んだものをすべて吐き出すかのように饒舌に話した。そして以前のように孤独感に満ちた目をして部屋に帰って行った。
「違う!待ってよ!コウ……。」
「……グレーテルちゃん?」
藤崎が声をかけてもグレーテルは一向に返事をしなかった。グレーテルはこぶしを握り締め、うつむきながら何かに耐えるように震えていた。時々もれる嗚咽に鼻をすするような音……。
「泣いてる?」
「……っ、泣いて、なんか、いないわ。」
「いやいや、どう考えても泣いてるだろ?」
「……ごめんね。……っ、こんな感じになっちゃって。私が悪いの、全部私のせい。」
「何で俺に謝るんだ?とにかく中に入れよ。」
「んっ……だって、そんなの……」
「いいから入れ。」
そういって藤崎は半ば無理やりグレーテルを部屋に入れた。