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シマノ、修羅場を体験する





(……全く、結局ナズナさんは何を言いたかったんだろう……。)


そんなことを考えながらバイトが終わったので家に帰っていた。



だいたい彼女に行くあてなどあるのだろうか。


魔界は指名手配中で絶対無理であろうし、人間界には俺ぐらいしか知り合いはいなさそうだったし、彼女が頼れそうな人物と言ったらナズナさんか俺ぐらいのものだ。




それに、『魔術拡大魔法』も……。自分の体が得体のしれないものでできているなんて……。本当にそうなのかはまだわからないが、すごくもやもやする。



なんだかもう、グレーテルと一緒に過ごしたことさえ夢だったように思えてくる。あいつが去ってからもう2週間が過ぎようとしていた。



記憶はだんだんと薄れていくもので、すでに思い出はあせかけていた。











「……はぁ。」



家に帰ってくるたびため息が出る。ここはグレーテルと一緒に過ごした思い出が一番多い場所だ。グレーテルはいつも勢いよく部屋から飛び出して、ヒールの音を元気に鳴らしながら鉄の階段を下りていた。



ーーーカン、カン、カンカン、カン、カンカン




そう、ちょうどこんな風に……。







懐かしい気分になってぱっと後ろを見ると、それは正真正銘のグレーテルだった。


「グ、グレーテル!?」


「あっ、コウっ!!」


なぜだかグレーテルは気まずそうな顔をしていた。




「ひ、ひさしぶり。」


それに俺もなんだかぎこちない話し方に、ぎこちない笑顔を浮かべていた。




「うん、ひさしぶり!久しぶりにコウの家に行こうと思って。」


さっきまで不自然だったグレーテルの挙動は一瞬で切り替わり、またいつもの愛らしい笑顔を浮かべた。



「そうか。なんもないけど来いよ!」


「うん!」


この前まで、いやついさっきまで俺はグレーテルに疑念を抱いていたが、実際会うとそんなことは無いように感じてきた。そう、前みたいに楽しくできればいいんだ。




部屋に入るとグレーテルは玄関あたりに荷物を置いた。荷物というかただのスーパーの買い物袋。そして中身もただの食料品。こいつも人間界に順応したんだなー、と感心したのだが、なぜこんなものを持って俺の家に……?



机を間において俺とグレーテルは見つめあった。


そしてグレーテルは首を傾けてさらに見つめた。恥ずかしさが頂点に達したころグレーテルは笑い出した。


「ふふふっ、コウは変わらないわね。」


「なんだそれ、褒めてんのか、貶してんのか!」


「うーん、どっちでもない。」


やっぱりグレーテルは変わったやつだ。




それから俺はナズナさんのところでバイトしていることとか、最近の出来事なんかを話した。

そしてグレーテルはスーパーに行ったり、いろんなことを体験した話をした。


俺と別れてからいろんなことをしているということを聞くとなんだか悲しいような、微妙な気持ちになった。



しかし、やっぱりグレーテルと話すのは楽しい。

気付けばもう窓から夕陽が差し込んでいた。


「じゃあ、そろそろ帰るね。」


なんだか切なそうな顔でグレーテルは言った。

いや、それはおれの方か……。


「おう!じゃあな。」


そういってグレーテルは帰って行った。












……やっぱり聞き忘れてしまった。

「どこに住んでるんだ?」そんな簡単なひとことなのに。


でも、グレーテルは新しい家の話はしなかった。俺に気を使っていたのか。



なんだか心のもやもやが取れないので散歩することにした。

近所はただの住宅街で特に散歩する場所なんかはないが、気晴らしになるだろう。






空は太陽が沈みかけ、夕陽のオレンジと夜の空が混ざって何とも言えない色になっている。

……散歩もたまにはいいもんだなー…なんて。



空から目線を下げて道の向こうのほうを見ると、そこにはあの見慣れた黒い服の女が立っていた。


「……グレーテル?」




その方向は俺のアパートの方だった。


(なにか忘れ物でもしたのかもしれない。)


そう思ったので、あわててグレーテルを追いかけた。



結構な距離があって追いつくのは無理かもしれない、しかし俺は急いで家へ向かった。












ーーーーーカン、カンカン、カン


階段を一気に駆け上り声をかける。


「グレーテル!」




するとそこにいたのはグレーテル……と藤崎リョウイチ……?

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