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シマノ、考える

「で、魔術拡大魔法ってなんなんですか?」


すぐに知りたかったので、単刀直入に聞いてみた。


「かなり、単刀直入……。もっとじらしたくなるじゃない。」


思っていた通りの言葉をかけられた。後半は思ってもいなかったが。というか、願ってもいなかったが。


「じらすとかは本当にいいので、教えてください。」


志魔野は丁重にお断りした。


「いやだ。」


ナズナはいとも簡単にその願い入れを断った。


「じゃあさ、あの荷物を早速運んでくれないかな?」


ナズナが指をさしたのは山積みの段ボールだった。


「……こういうのって、魔法でチョチョイとできないもんですか?」


「はいはい、いいから運ぶ!」


給料はいいがやはり酷い労働条件のようだ。














「……ふー!終わった!」


あれから1時間、なんとか荷物を運び終えた。1時間で終わったのは奇跡といってもいいだろう。それだけ志魔野は頑張ったのだ。


「さて、そろそろ教えてくれませんか?」


「そんなこと言われたら、もう一仕事してもらおうかな。」


ナズナは無邪気な顔をして言った。

志魔野はそれに反応して、とんでもなく愕然とした顔をした。


「……うそうそ!教えてやってもいいよ。」


前もこんなことがあったような……、そう思った志魔野だった。


「ぜひともお願いします。」


「魔術拡大魔法というのは名前の通り、魔術の効果を拡大して、より強い魔術にするという魔法のこと。でも、この魔法を使えるのはもうこの世にはいない。大昔の偉大な魔法使いがもたらした魔法なの。」


「それと僕になんの関係があるんですか?」


「魔法は発動した術者が死ねば、同時に効果は消えるはずなんだ。普通は。……ただこの魔法は自らの効果によって拡大し、術者から独立して存在することが可能になった。そして、この術は現在人間界にあるの。その正体があなた。」


「お、俺?」


「そう。あなた自身が魔法そのものだといっても過言ではない。」


「でも、俺は人間だし、母親もいる!」


「確かに普通の人間と同じように生まれたはずだ。でも、確かに宿ってるんだ、魔法が。」



志魔野には理解できなかった。今まで人間として生まれ、特別な才能があるわけでも、何が飛びぬけてできるという訳でもなく、平凡な生活ではなかったが、自分が特別な人間だとはおもったこともなかった志魔野には全くもって理解できなかった。



「そんな……。」


「まあ、気にするな。だからと言って志魔野が気にする必要ないさ。」






ナズナはそう言ったけれど、コウは忘れられないままであった。





もう一仕事した後でコウは家に帰った。ドアを開けても誰もいない。もちろんグレーテルも。悲しい、さびしい、いろんな感情が入り混じっていた。


気を紛らわせるために志魔野は勉強してみたり、バイト先に辞めると連絡を入れたり、色々試してみた。しかし、結局その作戦は失敗に終わり、考えずにはいられなかった。


グレーテルは何時になったら来るのだろう。グレーテルは今いったい何をしているのだろう。グレーテルはどこに住んでいるのだろう。なんで出て行ったんだろう。


もうグレーテルのことで頭がいっぱいだった。






そこで志魔野は布団に入ることにした。布団といっても夏なので敷布団だけだったのだが。ここはかつて、いや、たった一日前までグレーテルが寝ていたところだ。グレーテルの甘く上品な香りが鼻をかすめる。


目をつぶればすぐそこにいるようなのに、それなのに、いない。いないのだ。



志魔野は眠ろうとして目をつぶってみたが、やはり眠れない。……グレーテルは何を思って家を出て行ったのだろう。そう考えたとき、志魔野には悪い考えが浮かんだ。


グレーテルは俺を利用したのか……、そんな考えが。


正確には過去形ではなく今も。事実、グレーテルはそのことについてはあまり教えてくれなかった。



もちろんこの考えが正しいという訳ではないが、志魔野にはもうそうとしか考えられなかった。それと同時にさらなる悲しみがこみ上げてきた。


今までの生活はなんだったのだろう。案外楽しくやってきたつもりだったし、グレーテルも楽しそうな表情を見せていた。あれはすべて嘘だったのか。


あれが嘘ならもう何も信用できない。










そして、眠れないまま夜が更けていった。





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