シマノ、寝込みをおそう
キーンコーンカーンコーン
志魔野コウは目を覚ました。教室で寝ていたらしい。しかし、寝る前までの記憶がぽっかり抜けていた…。
起きたばかりで、完全に働かない脳を活動させ、考えてみる…。
弟子…、魔女の弟子になったんだ…。
そんな記憶に反し、気付けば教室にいた……と言うことは、あれは夢?
彼は馬鹿らしいあるわけないと思い、再び煩わしい作業へと戻っていった。
そして、今日も一番最初に教室をでて帰宅した。
家は高校からはかなり近く、歩いて20分ほどのところにあった。
自転車ならもっと早いのだが、わけ有りでそんなものは持っていなかったので、毎日早歩きで帰るのだった。
さっき歩いてきた大通りとは違い、静かな路地にはいる。
それから10分。
ようやく見えてくるのが彼のアパートだった。
築50年という古い物件で、見た目どうり、風呂なし物件であった。
志魔野が住む部屋は、二階の4つの部屋のうち、階段側から数えて2番目であった。
古く塗装の剥げたドアを開けると、中は荷物がほとんどなく、あるのはぐちゃぐちゃになった布団と棚ぐらいだった。
彼は棚に近付き、ただいま、とつぶやいた。
これが彼の日課だった。
彼の話相手は、棚の一番上にある妹の写真だった。挨拶だけでなく、長く話すこともあった。
彼は今日、あの夢の話をした。魔女がいたこと、自分が死にかけたこと、魔女の弟子になったこと。
かなりはっきりした夢だっただけに、話が尽きなかった。
ようやく一段落話し終えると、彼には写真の妹が笑っているように感じた。
もともと笑っている写真だったが、より一層笑っているようだった。
これは全部夢のはずなのだが、やはり疲れたので、彼は寝ることにした。
ぐちゃぐちゃに入ろうとすると、何かがいる…?
なぜ今まで気付かなかったのだろうか。
一気に布団をめくりあげると、そこにいたのは夢のなかに出てきた魔女だったのだ!
「うわっ!」
と叫ぶと、隣の部屋から壁を叩く音がした。
うるさいってか?まだ夕方だぞ。と思ったのだが、魔女がいたことの方が衝撃が強く、怒りなど忘れていた。
魔女は魔女らしからぬ顔で、無防備に寝ていた。袖がない形状の黒いワンピースで、もともと短い丈なのにさらに短くなり、いい感じに白く細い足がのびていた。
彼はその足に妹を思い出した。
妹の名前は志魔野カオルだった。彼と同じ真っ黒な毛で、さらさらとした長い髪を二つにわけてみつあみをしていた。今どき珍しい古風な雰囲気を持ち合わせていた。
「カオル…。」
彼はその白い足を下から上に撫で上げた。
「…んっ、やめてよ。」
そのきわどい行動に魔女が気付き、起きてしまったようだ。
「えっと、あの、そのー…、これは違うんだ。」
「発情?」
「いや、だから、違うんだ。」
「人間の男に興味ないから、無理よ!」
「だから違う!」
結局、いくら弁解しても、駄目だった。事実、妹を思い出して触ってしまったというのもかなり気持ち悪い。
「あなた、弟子になったんでしょ。弟子がこんなことしていいのかしら。」
「違うんだ。何かいると思って触ったらこんな感じに…。」
「言い訳する子は嫌いよ。嘘がバレバレよ。だったらなんであなたは私の隣で添い寝していて、手は太ももにあって、顔がこんなに近いのよ!全く、これだから人間は…。」
魔女の言うとおりであった。彼は魔法が使えるだけでなく、弁もたつことを発見し、少し感心したのだった。
「すいませんでした。あまりに綺麗な足だったので、うっかり触ってしまいました。」
「言わされてる感じが否めないわ。心から詫びなさいよ。」
「分かりました。本当にすいませんでした。」
「何か味気ないわ。まぁ良いわ。でも、寂しかったら、またこうして…うふふ。」
そういうと魔女はコウを抱き寄せた。足を絡ませ、悩ましげな声で耳元でこう囁く。
「…嘘よ。」
その瞬間寝技をかけられた。
「いった~!痛い痛い痛い痛い。」
「魔女はこうゆう生き物なの。また痛い目に会わないように気を付けるのよ、変態!」
心から反省する志魔野だった。