グレーテル、仕掛ける
「…あらあら、いらしたようね。お姉様?」
「うふふ、勿論。貴方を捕まえにね。だって指名手配中なんですもの。」
凄い威圧感だ。志魔野がヘンゼルの方を見ると、その目はキラリと光っていた。まるで獲物を狙う猛獣のように。
すると、グレーテルは今までの3倍以上の早さでほうきを動かした。
そしてヘンゼルが追い掛けてきた途端、突然急降下をはじめた。
「うっ!」
志魔野はほうきが大きく動くごとにうめき声をあげた。
「ちょっとごめんね。」
そういってグレーテルは態勢を変え、後ろを向いた。そして今度はほうきを急上昇させた。
「火炎玉!!」
グレーテルがそう叫ぶと、さしていた指先付近から巨大な火の玉が現れた。
そしてグレーテルの合図と共に火の玉はヘンゼルの方に飛んでいった。
ヘンゼルはうっすら笑いを浮かべながら
手のひらをかざした。すると見えない壁の力により火の玉は衝突したせいで消えてしまった。
「うふふ、そんなんじゃ勝てないわよ」
ヘンゼルがそういうと、グレーテルは再び急降下して、今度は地面に着地した。
あまりに勢いがつきすぎたため、地面についた瞬間には止まらず、5メートルぐらい進んでようやく止まった。
ものすごい砂煙が立ち上ぼる。その煙がようやく収まろうとしたとき、ほうきにグレーテルと志魔野の前にはすでにヘンゼルが立っていた。
そして、ヘンゼルが指を動かすと同時にグレーテルの新しいほうきも浮き上がった。
ものすごい力で引っ張れる。その力に耐えることは出来ず、グレーテルと志魔野は引き剥がされるようにほうきを奪われた。
ヘンゼルはほうきを手にとって言った。
「ふーん、新しいほうき買ったんだ。これも私が貰うわね!」
「…ふふっ、かかったわね。」
そういうと、そのほうきからつたが全身に巻き付くように伸び、ヘンゼルの動きを封じた。
「貴方がほうきを持つこと、それがこの発動魔法の条件よ!残念ね。」
グレーテルは立ち上がり、恐ろしい笑顔を浮かべながら、ヘンゼルの方に歩いていった。
「さぁ、貴方の…いいえ、私のほうきを返してもらいましょうか。貴方にはそっちの安物あげるわ!」
そういってグレーテルは奪われたほうきを拾い上げた。
「…馬鹿ねぇ、グレーテル!あんた昔から小細工だけは上手だけれど、力で私に勝てると思う?」
そういった後ヘンゼルからものすごい魔力が放出された。それは鈍感である人間の志魔野コウにも簡単に分かるほどだった。それどころかむしろ、気分が悪くなるぐらいに。
すると、ヘンゼルに巻き付いていたツタは魔力により消失してしまった。
「…思わないわ。でも、今日は勝てる。」
「何を根拠にそんなこんな…ばっかじゃない!!」
すると動き出そうとしたヘンゼルをツタが捕えた。そして再び締め付ける。さらに強く、頑丈に。
「なにこれ!?発動魔法は一度消滅したはずよ!」
ヘンゼルは動揺した。
「普通ならそうね。でも今日はコウがいるんですもの。」
得意気な顔をしてグレーテルが言った。
「……えっ!俺!?」
驚くのは無理もない。志魔野は戦いの最中ずっと木陰に隠れていたのだから。
「……ま、まさかあの時の坊やが?」
「そう、ようやく見つけたわ。生きる魔術拡大魔法をね。」