シマノ、過去を語る①
ようやくバイトが終わった。今日も某ハンバーグ屋でバイトだった。
この場所は学校からあまり離れていないところに位置している。高校の連中もよくくるが、徒歩しか交通手段がない志魔野にとっては仕方がないことだった。
ハンバーグ屋のある大通りから細い道に入り、少し歩くと、古い商店街立ち並んでいる。
その一角に駄菓子屋がある。看板には田村商店と書いてあった。
「すいませーん!」
インターフォンが無かったので、志魔野は直接声をかけた。
「はーい、志魔野様ですね、お待ちしておりました。」
そういって出てきたのはアスミだった。
アスミの後について二階に上ると、そこにはグレーテルがいた。
「遅いわ。待ちくたびれちゃった。」
そういったグレーテルはいつもより少し疲れており、眠そうな顔をしていた。
「ごめん、ごめん。」
「じゃあ、気を取り直して。今日は貴方の妹のことで話があるの。ナズナさんはこの地区の霊魂管理を行っているわ。」
そうすると、隣に座っていたナズナが会釈したので、志魔野も返した。
「霊魂管理は人間界にいる魔女の仕事で、それぞれ人間の魂を管理しているの。そして、貴方の妹、志魔野カオルはここから数キロ離れた町で殺された…はずでしょ?」
「ああ。」
志魔野は息を飲んだ。これじゃまるで、カオルが生きているような言い方だ。
「……それが実は、志魔野カオルは死んではいない。死んだら霊魂手帳に名前がのるはずなのに、彼女はまだ載っていないわ。」
「じゃあ、カオルは!!」
志魔野は今まで見せたことのないような顔で喜んだ。
しかし、グレーテルはまだうかない顔をしていた。
「…でもね、この世にはいないの。」
「どういうことだよ!」
グレーテルの言ったことは矛盾していた。死んでいないのに、この世にいないなんて……。
「私とナズナさんが魔法で調べた結果、人間界に彼女はいなかった。私の予想では彼女は恐らく魔界にいるわ。」
「なんで魔界に!?」
志魔野でさえ、ヘンゼルに出会うまで魔女や魔界に関わったことはない。なのになぜカオルは魔界に?
志魔野は不思議で仕方がなかった。
「私にもわからない……。ただ、ヘンゼルは何か知っていたようだわ。それで、貴方には、妹が殺されたときのことを教えて欲しいの。嫌かもしれないけど、何かの糸口になるかも知れないわ!」
グレーテルの目は涙をため、今にも泣きそうだった。理由はわからないが、気持ちが高まっているようだった。
「……わかった。話すよ…全部。」
そして、過去のことを一切話さなかった志魔野は自分の過去を話しだした。