シマノ、核心に迫られる
「この前の魔界大混乱を引き起こした正体は私ではなく、ヘンゼルよ。あいつの強力な妨害魔法で人々の魔法を妨害し、魔界社会のシステムを混乱に陥れた。私はもともと魔法システムを管理していたし、発動魔法が専門分野だから犯人に仕立て上げることは簡単だったはずよ。」
「……ヘンゼルはなぜそんなことをしたんだ?」
「私にもわからないわ。でも、目的は魔界を支配すること。今はそれしかわかっていないの。……だから、私はヘンゼルの野望を打ち砕いて魔界を守る。例え指名手配されていたとしてもね。」
「それなら、あなたが魔法警察に弁解して、ヘンゼルが真犯人だといえばいいんじゃないの?」
グレーテルは目を伏せていった。
「……そんな簡単なことじゃないの。ヘンゼルは巨大な組織とも組んでいるわ。きっと魔法警察も彼女に取りいられているはず……。魔界に私の味方はいないわ。だからこそ、私が直接ヘンゼルを捕まえるの。」
「ずいぶんお転婆なお嬢様ね。そんなんじゃ、あのずる賢いヘンゼルを捕まえることなんかできないわ。正々堂々とするだけじゃできないこともあることを知りなさい。……あんたは危なっかしくて見てられないよ。私はあんたの味方だよ、それだけは覚えてな!」
そういってナズナは微笑んだ。まるで子供を見守る母親のような目をしていた。
「ご主人様、お茶をもってまいりました。」
「さぁ、お茶も来たことだし、ゆっくり話すか。」
ナズナはそう切り出した。
お茶は2人とも着物を着ているだけあって煎茶だったが、お菓子はふつうのお茶菓子ではなく、駄菓子屋に並べてあったようなものだった。
「ありがとうございます。」
グレーテルは2つの意味でそういった。魔界を追放されて以来、味方が一切いない状態だったので、さっきのナズナの言葉がとても心にしみた。
「……実は今日は、2つ用件があって……。」
「なんだい?」
「一つは私がいっしょに住まわせてもらっている少年が来てからでお話したいんですが、もう一つは、ほうきのことで……。」
「ほうきならナズナ魔法用品店にお任せよ!」
そういうと、ナズナは人差し指をだし、山を描くように動かした。
すると、今までいた数十種類の部屋にほうきが現れた。
「東の国から西の国まで、ありとあらゆるほうきがそろってるよ。ちなみに魔法の絨毯もあるわ。」
「絨毯はちょっと……。とりあえず、前のほうきと同じ機種がほしいんですけど、ありますか?千年物のグラン・デ・シューべロン社のほうき。」
「一流ブランドの千年物……、最高ランクね。さすがお嬢様ってかんじだわ。あるにはあるんだけどね、お金はあるかい?」
その言葉を聞いてグレーテルはドキッとした。今まで一度もお金で困ったことはなかった。なのにこんな大切な時にないなんて……。
「一応魔界からちょっとだけは持ってきたんだけど……。」
そういってグレーテルは袋からあふれんばかりの金貨を取り出した。
「これねー…、だいたい半分ってとこかしら。」
かなりの金額のはずなのだが、これで半分とは……。
しかし、グレーテルは妥協したくはなかった。魔女にとって体の一部のようなものだ。
「じゃあ、ほかも見ていいですか?」
そうして、グレーテルは夜が更けるまでずっとほうきや魔法道具をみていた。
「この問題、じゃあ、出席番号7番……志魔野!」
2時間目の数学の授業、志魔野は不幸なことに教師にあてられてしまった。志魔野の嫌いなタイプの教師ランキング1位は出席番号であてる教師であった。学校では一切話さない主義の志魔野にとって、これは大変苦痛であった。
「……。」
教師も含めて教室中の誰もが思った通り、志魔野は言葉を発さなかった。
その時、突然校庭に面した窓があき、一通の手紙らしきものが教室に舞い込んだ。
その手紙はひらひらと風にのりとうとう志魔野のところまでやってきた。志魔野はそれを手に取り、読むと顔をしかめた。それは予想通りグレーテルからのものだった。
内容は”魔法用品店にいます。バイトが終わったらすぐに来てください”というものだった。
学校では静かに、というスタンスを打ち破られた志魔野は腹が立ったのかドンっと机をたたいた。
(まったく、あいつ……。もっと静かに手紙送れよ。)
そう思っていると、驚いて固まっていたクラスメイト達が一斉に話し出した。
先生はずっと「静かにしろ!」と言っているし、不良もどきの奴らは下品に笑い声をあげている。
不愉快な空間だ。せっかく、だれとも関わらず高校生活を過ごしていたのに、これでは学校のちょっとした有名人だ。
そのあとは授業にならず、休み時間がやってきた。志魔野にとっては地獄の。
「おい、志魔野、今のなんだ?」
クラスの中心人物である男が仲間を連れ、声をかけてきた。もちろん名前は知らない。
「……。」
ここは話さないほうが賢明だと考えた志魔野は、沈黙を続けた。そしてそのあと、トイレに籠ることにした。
ーーーキーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴るのを見計らってトイレから戻ってきた志魔野は席についた。これが友達のいないやつの本気だ、志魔野はそう思った。
ーーーキーンコーンカーンコーン
あれから何回トイレ籠城を繰り返したことだろう。
クラスのやつらももう聞いてくることはなくなった。
ようやく帰れる…そう思ったとき、最後に立ちはだかったのは一人の女子だった。
その女の子は今までの奴らとは違う真剣な目をしていた。
「ねぇ、志魔野君、ちょっと話があるんだけど。」
「……。」
今までの奴らとは違う、といえ、学校では話す気がしなかったので、やはり沈黙をつづけた。
すると、その女の子は近づいてきて小さな声で話だした。
「…あれって、魔女の仕業?」
志魔野はドキリとした。
ここまで来ては話すしかないと思い、人が残っている教室で口を開いた。
「違う。俺に関わらないでくれ。」
そんな淡白な言葉を残し、志魔野は去っていった。