グレーテル、調べる
まずグレーテルは部屋にあった写真を見た。
「これが志魔野コウの妹……。」
そこには可愛らしいおさげの女の子の姿があった。横にはコウがいて、今よりまだ幼い様子だった。
「名前は…志魔野カオル、ね。」
グレーテルは昨日の夜、志魔野が妹の写真に話しかけていたのを聞いていたのだ。
ここにいてもそれ以上情報は入ってこない、とグレーテルは思い、魔法用品店に行くことにしたのであった。
外に出ると、道には結構人がいた。いつもは夜遅い時間にしか出かけないため、さらに多いように感じられた。しかも、グレーテルすれ違う道行く通行人に注目された。あの黒い服では町で浮くのも仕方ない。
「すいません。グレーテルですが……。」
少し道に迷ったりもしたのだが、グレーテルはなんとか駄菓子屋につくことができた。
「どうぞ、そこの扉からお入りください。」
そういったのは聞き覚えのある少女の声だった。
木枠がすこし古くなったガラス戸をあけると、そこには魔法用品がたくさん並び、怪しい空気を醸し出していた。たしかこの前は、ただの駄菓子屋だったはずなのに……。
「ようこそいらっしゃいました、グレーテル様。こちらでございます。」
そこにはこの前より落ち着いた雰囲気のアスミがいた。アスミはグレーテルを案内し、店の奥の部屋へと連れて行った。
「ご主人様、グレーテル様をお連れしました。」
「どうも、グレーテルです。」
「あなたが、あのグレーテル。この間はアスミを助けてもらって感謝してるよ。」
そういったのは、この店の女主人だった。やはり、アスミと同じように着物を着ており、年は20代後半から30代といったところで、上品というより、店主としての風格があるという感じだった。
「見事な空間魔法ですね。おそらく、ここは魔界の一部を人間界にある店とつなげているのでしょう?」
「ご名答、さすがユーシュビッツ家のお嬢様ってとこだね。アスミ、お茶とお菓子とってきておくれ。」
主人がそういうと、アスミはさっと部屋を出た。
「私の名前はナズナ。魔法用品店の店主本業で、人間界では駄菓子屋のおばちゃんよ。」
「私は知ってのとおり、ユーシュビッツ家の次女、グレーテルよ。ナズナさんはあのこと知っているかしら?」
「まぁ、もちろん知っているわ。あなたが魔界法第1条の違反で指名手配されてるんでしょ。魔界では今そのニュースで持ちきりよ。私も職業柄、よーく知っているわ。ユーシュビッツ家との取引もあるし。」
その言葉を聞くと、グレーテルの顔が曇った。
「……もしかして、私のこと通報したりしているのかしら?」
「いいえ、言ったでしょ。よく知ってるって。黙っといてやるよ。」
「ありがとう。……でも、あなたに言っておくことがあるわ。」
「なんだい?」
「魔界法第1条”魔界の平和を脅かすものは死刑に処する……。でも、私はこの罪を犯してはいないわ。真実は……」