シマノ、銭湯に行く
「ただいまー…。起きてる、グレーテル?」
部屋は暗く、電気がついていなかった。
「うん、起きてるわよ。」
そういって、グレーテルは人差し指の先に光の玉を出して部屋を照らした。
座っていたグレーテルは立ち上がり、それから電気をつけた。
「飯持ってかえって来てやったぞ。……ハンバーグだ!ちょっと冷えてるけど、美味しいと思うぞ。」
「ありがとう!でも、コウはいいの?」
「…気遣ってるのか?いいよ、いらない。」
「……ううん、はんぶんこ。」
そうして食べたハンバーグは美味しかった。
「…そう言えば、コウ、バイトってなにかしら?」
「働きにいってるんだ。お金稼ぐためにな。」
「ふーん、大変ね。」
「まぁな。貧乏だから仕方ないけど。…それより、この後、お風呂行かないか?」
「え、この家、お風呂なんかあったっけ??」
「……ない。改めて言うと悲しいな。」
「じゃあ、どこに?」
「ここから10分ぐらい歩いたところに銭湯があるんだよ。」
「銭湯?へー…はなれみたいな所かしら?」
「……違うけど、もういい。行こうか。」
コウは押し入れを開けて用意を始めた。
「……お前、着替えとか持ってないのか?」
「まぁ、魔法で転送すれば出てくるんだけど、ちょっと訳ありで……。」
「わかった、俺のでよければ貸すよ。」
「うん、ありがとう。」
そして、二人で家を出た。銭湯につくと、それなりの時間だったので、あまり人はいなかった。
「お前はあっち、俺はこっちだ。わかったか、さっきに言った通りにするんだぞ!」
「ふーん、別れちゃうのね。一緒に入りたかったなー。」
「……黙れ。じゃあな!」
「うん、バイバイ!」
グレーテルにははじめての体験で、何もかもが新鮮だった。
「……市民の共同入浴場というわけね。」
中はあまり人がいなくて、広々くつろげそうだった。
「おー、私の家のお風呂の半分ぐらいかしらね。」
グレーテルは後ろの壁にもたれかかった。そして壁を見ると絵が富士山の書かれていた。
(この壁の向こうにコウがいるのね。)
「コウー!いる?」
グレーテルは大きな声で聞いた。
お風呂は良いもんだ、と思い、くつろいでいたコウは行きなり驚いた。
(な、なんだ!?)
「居ないのかしら?コーウー?!」
このまま止めなければグレーテルはずっと言い続けるだろう、とコウは考え、今まで知らないふりをしていたが、コウは答えることにした。
「いるよ!黙れ!」
「はーい!」
(全くあいつは恥ずかしく無いのかよ……。)
そう思ったコウだった。そして、周りの視線が痛かったが、せっかく来たのだから、という思いを糧にその後もお風呂を満喫した。
「…ったく、こっちはどんな恥ずかしい思いしたのか分かってんのか?」
「えっ、ごめんなさい。」
「これからは、外ではうるさくしない。分かったな?」
「はーい、分かりました。」