外れの枝
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
仲間外れ。
けっこう、外から見てもわかりやすい状態だと思う。人だと、大勢の輪の中へ入らずにぽつんと浮いているのもそうだが、どこか会話がかみ合っていなかったり、服装が明らかにまわりと異なっていたり。
人間同士だと、このことを指摘するのは勇気がいるな。自身の度胸はもちろんだけど、相手なりの事情や地雷があるかもしれない。気遣いの一環として、触れずにそっとしておく……というのも選択肢だろう。
でも、もし自然の中でその手のものがあったなら、より注意が必要だ。
そいつは仲間外れなのか、あるいは別のものによる仕込みなのか……判明するときに居合わせたなら、そいつは貴重かもね。
ちょっと前に友達から聞いたんだけど、耳に入れてみないか?
数年前、友達が山登りをしたときの話だ。
山登りといっても、本格的な装備を要するものは想像しなくていい。友達いわく、遅くとも朝から登ってお昼には帰ることができるような、低い山ばかりだったとか。
日々のストレス発散の一種で、登る山の種類も限られている。同じ山にしょっちゅう登っているために、その変化に早く気づいたのかもしれないと話していたな。
かの山に登るのは、一週間ぶりだった。平日に学校へ行く身としては、十分に短いスパンだといえるだろう。これまでもこれくらいの頻度で登ることは珍しくなく、台風をはさんだあとなどでなければ、景色にも大きな変化がなかったそうだ。
ゆえに、そのときはでかかった。
山の中腹で何本か、こちらの行く手をさえぎろうとする格好で張り出している枝があるのだけど、その一本がやたらと青みがかっていたことに。
誰かがいたずらしたにしては、丁寧な仕事をしている。青く染まっているのは、きれいに枝の部分だけ。葉や幹にはみじんも色が見受けられない。
そばに転がっていた別の枝で、表面を強くこすりつけてみたけれど、いささかも色落ちの気配はなかった。外からではなく、内側から染め上げられたような印象を受けたと話していたよ。
普段なら、下山はそのまま山の反対方向へ降りて、地上から回り込む形で家へ戻っていくという友達。効率で見たら悪い部類だが、これに関しては友達の趣味らしいからツッコミは無用とのこと。
だが、このときは例の青い枝が気にかかって、来た道を引き返したのだそうだ。
来たときとは、異なる景色がそこにはあった。
例の青い枝を有する木は、道の脇で互いに身を寄せ合う樹木たちの一本にすぎなかったはず。
それが今、そばにある木々は大小を問わずになぎ倒されている。もちろん、登ってきたときにはこのようなことはなかった。
いずれも幹の真ん中から、一文字に断たれている。斧とかチェーンソーを入れて、できるものかというと、ちょっと判断しづらい。
切り口があまりにきれいすぎたからだ。時間をかけて削ったようには見えない。包丁で切られるかまぼこのように、滑らかな断面だ。
まわりの樹がなぎ倒され、例の枝を有する一本だけが堂々と立っている。樹から一定以上の距離をとっているものは無事だから、半円状に木々が倒されまくったとみていいだろう。
友達もそのまま進むほど愚かではなかった。
樹から見て、おおよそ反対側。道の端っこを通るようにしたそうなんだ。
例の枝からも、数十センチは離れていて接触はしないポジション……と思っていたものの。
次の瞬間には、友達の被っていた帽子が弾き飛ばされていた。かすかに目に映ったのは、先の青い枝が動いたこと。元は少したわんでいてゆとりを持っていた部分が、瞬時にぴんと伸びたかと思うと、ちょうど延長線上にあった帽子を薙ぎ払った姿だったんだ。
落とされた帽子は後ろへ数メートル転がる。そのつばから後頭部に至る箇所まで、真っ二つに切り裂かれていたんだってさ。
それはちょうど、あのまわりに切り倒されていた木々たちと同じ、なめらかなものだったと。
以降、友達はその山へ登ってはいないらしい。




