[第四話] 一分で読めるショートショート
今日は「もし世界が毎朝リセットされたら?」というテーマで書いてみました。
繰り返す日常の中で、本当に大切なのは何なのか。そんなことを考えながら読んでいただけたら嬉しいです。
目が覚める。
時計は午前七時ちょうど。
「……またか。」
カーテンを開ける。
昨日と同じ場所を歩く犬。
同じタイミングで鳴る救急車。
同じニュース。
『本日は快晴でしょう。』
全部、一昨日も昨日も、その前も同じだった。
世界は毎朝七時にリセットされる。
最初は夢だと思った。
だが何度目かの朝、確信した。
俺だけが昨日の記憶を持っている。
学校へ行っても同じ授業。
先生は同じところでチョークを落とす。
友達は同じギャグで笑う。
昼休みには同じパンが売り切れる。
何度も繰り返すうちに、全て覚えてしまった。
テストは満点。
じゃんけんは全勝。
ゲームセンターでは景品を取り放題。
けれど翌朝になれば、全部元通り。
手元に残るのは記憶だけだった。
百回目の朝。
俺は学校へ行かなかった。
二百回目には県外まで電車で行った。
三百回目には警察へ事情を話した。
もちろん誰も信じない。
翌朝には全部なかったことになる。
四百回目。
「もう、飽きた……。」
何をしても意味がない。
誰と仲良くなっても翌朝には初対面。
好きな子に告白しても、朝には全部忘れられる。
時間だけが、俺を置き去りにしていた。
そんなある朝だった。
駅前で見覚えのない少女とすれ違う。
「……あなたも?」
少女が立ち止まる。
「え?」
「リセット、覚えてるよね。」
心臓が止まりそうになった。
初めてだ。
同じ記憶を持つ人間に会った。
少女の名前はユイ。
彼女は俺よりずっと前から、この世界に閉じ込められていた。
「私は五百三十七回。」
「そんなに……。」
二人で原因を探し始めた。
図書館。
病院。
神社。
山奥。
何百回も調べた末、一つだけ共通点を見つける。
毎日午後六時。
町外れの病院で、一人の少女が眠っている。
事故で意識不明になった、小学五年生。
名前は結城ひまり。
その病室だけ、時間が止まったように静かだった。
ユイが小さくつぶやく。
「この子が目を覚ませない限り、世界は前へ進めない。」
もちろん証拠はない。
それでも二人は毎日病室へ通った。
話しかけた。
本を読んだ。
窓を開けて風を入れた。
「みんな待ってるよ。」
何百回目かの夕方。
眠っていた少女の指が、ぴくりと動いた。
「見た?」
「うん!」
翌朝。
目が覚める。
時計を見る。
七時十分。
「……え?」
初めてだ。
時間が進んでいる。
慌ててテレビをつける。
ニュースが違う。
犬も歩いていない。
救急車も鳴らない。
世界は、昨日の続きを生きていた。
急いで病院へ向かう。
病室には家族が泣きながら少女を囲んでいた。
「目を覚ましたんです!」
医師の声が響く。
その光景を見た瞬間、隣にいたユイが微笑んだ。
「終わったね。」
「これから学校行こう!」
そう言って振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。
ユイは最初から存在しなかったかのように消えていた。
受付で名前を尋ねても、
「そんな患者さんも、ご家族も来ていませんよ?」
と言われるだけだった。
帰り道、ポケットを探る。
一枚のメモが入っていた。
『ありがとう。これで私も、明日へ行けます。』
署名はない。
けれど、字はユイのものだった。
俺は空を見上げる。
明日は分からない。
だからこそ、生きる意味がある。
終わらない一日より、一度きりの今日の方が、ずっと大切なのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
何度でもやり直せる世界は、一見すると理想のように思えるかもしれません。しかし、失敗も成功も一度きりだからこそ、今という時間には価値があります。
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それでは、また次のお話でお会いしましょう。




