第22話 約束を果たそう
――――天野花音視点――――
いっちーの一撃により、化け物の核を貫いた。
「アアアアアアアアアアッッ!!!」
核を貫かれた化け物は最初こそのた打ち回り手が付けられなかったが、やがて大人しくなる。そうして―――化け物の体が粒子のようなアニマへと崩れ、吸い込まれるようにいっちーの体内へと溶けていった。
「わぁお……ほんとに入っていったね」
「すげぇ……力がみなぎってくる……」
化け物のアニマが入り込んだことで、パワーアップしたようだ。全身からアニマが溢れている。
「少し話すか……まだ来ないだろうし」
「…………うん、そうだね」
彼は花音のお願いを果たすべく化け物を倒し、皆をここに呼んでくれていた。正確に言えばバレるようにここに来てくれたのだ。
「未だに……考えは変わらないのか?」
「そこは変わらないよ、絶対に」
覚悟は決めている、そもそもあんなことをしておいて無罪になるなんて思っていない。琴佳ちゃんは許しても私自身、いや世界が許してはくれない。
「悪いな……つまらん話して、明るい話にするか……みんなとのサバイバル、どうだった?」
その問いに、みんなとの数日の思い出が脳裏をかすめた。
「楽しかった……みんな優しくて強くて―――琴佳ちゃん以外が妬ましかった……特に赤羽優」
本音がこぼれてしまう、でも彼にならすべてを言える。一度腹の底を見せたのだ、今更怖いことなどない。
「私のいない間にあんなに琴佳ちゃんと仲良くなってさ……私は二年かけてようやく名前呼びなのに赤羽優ったら一か月で名前呼びとか普通に殺意沸いたなぁ♪」
「恐ろしいこと言うなぁ……」
「でも嫌いじゃなかったよ……家族の次くらいには好き。頼りになるし、ちょろいし、あと私の次くらいにはかわいい」
「雷門は?」
「私男に興味ないかな♪強いて言うなら男のくせに琴佳ちゃんと同じ部屋なのと男のくせに琴佳ちゃんと話しててるとこがムカつく!」
「あっはい」
昔はそんなことはなかったんだけど――琴佳ちゃんと出会って、琴佳ちゃんのお義父さんと出会って変わったんだっけ……しかしこんな私にも例外はいる。
「でも……いっちーは特別」
「口説いてんのか?」
「あははっ!調子乗ってる?面白いこと言うね!」
「すまん悪かったから指揮棒向けるのやめてくれ」
私が琴佳ちゃん以外口説くわけがない、心外だ。
「いっちーにはね……琴佳ちゃんを任せてもいいとすら思ってるよ。ていうか琴佳ちゃんのお世話係決定だよ」
「随分と評価が高いようで……嬉しい限りだ」
「そりゃそうだよ……いっちーむかつくことに私に次―――いや私以上に琴佳ちゃんと仲いいし、どちらかといえば懐いてるって感じだけど」
「天野以上は言いすぎだろ」
「うん、もし本当にそうだったら間違いなく殺してる」
「なんで俺何もしてないのに指揮棒向けられんの?」
しかし琴佳ちゃんがいっちーに懐いているのは本当だ。今まで琴佳ちゃんが男の人をあだ名で呼んだことはない。彼の何を気に入ったか最初は分からなかったけど―――今なら理解できる。
「話を戻すけど……いっちーさ、すっごい優しいもん。そりゃ琴佳ちゃんも気に入るよ……そういうとこが妬ましくて―――そんなとこが好きなんだよ」
「……優しくても、仲間一人救えないんじゃ意味ねぇよ」
彼は、俯いた。
あんなに私たちが頼りにしてきた、無骨で頑丈な背中が、まるで壊れそうなほど小さく見えた。その首元に落ちる影。足元に零れ落ちた、吐き捨てるような自責の言葉。
見たくなかった。私たちにとって、の人は誰もが憧れる最高に強くて優しい『いっちー』であるはずなのに。
私たちが泥を啜って生きてきたこの世界で、輝いていた一つの光。それを、あろうことか本人自身が消そうとしている。
「やめて、いくら君自身でも君を愚弄することは許さない……絶対に」
私の声が、自分で驚くほど低く震えている。
目の前で自分を貶める「いっちー」という男に対する、純粋な憤りだった。
「それにね……救えてるよ、ちゃんと……仲間のみんないっちーを頼りにしてるしさ!落ち込むことないよ!」
「……天野が残ってるだろ」
予期せぬ言葉に、花音は呼吸の仕方を忘れたように静止した。冗談を言って笑い飛ばそうとした唇は、小刻みに震えて音をなさない。しかしそれを見せたくはないため、必死に抑え込む。
「そっか……そう思ってくれるんだね。だめだよ……人殺しにそんなこと思っちゃ」
「人殺しとか関係ない……天野も仲間だ」
(関係ない……か……)
嬉しい、素直にそう思ってしまう。それと同時に罪悪感につぶれてしまいそうになる。
「じゃあなおさら私は最低だ――――君に仲間を殺させようとするなんて」
彼にお願いしたこととは─────
─────私を殺すことだった。
「悪い……そろそろ時間だ、みんな来てる」
ようやく彼女らが来たようだ。
さあ、終わりにしよう。エンドロールは私という大馬鹿者の死で終わる。
それと同時に、彼の物語のプロローグが始まる。それほど私の死は必要なものとなるのなら死にがいもあるというものだ。
「最後にさ────ワガママ言ってもいい?」
「……あぁ」
実はもう1つ、お願いしたいことがあった。ほんとうは黙っておくつもりだった。彼の重りになるかもしれないから。しかし彼の、覚悟を決めた顔を見たら、迷惑かけてもいい気がした。
「名前で呼んでよ……花音ってさ」
眉を上げ、面食らったように驚き、しばらくして困ったように笑顔を浮かべた。
「……花音、もっと早く呼んどきゃ良かったな」
「今呼んでくれたらセーフにしてあげる、私が心広い美少女で良かったねっ!」
「はいはい」
「じゃあ────一刺し頼むよ」
「花音……またな」
いっちーがアニマで具現化した剣が──────
─────私の人生の、幕を閉じた。
最後に見えたのは、いっちーではなく─────いっちーの後ろから涙を浮かべこちらを見ていた、
最愛の親友だった。




