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優しい香りと赤い嵐

「………。そうなのね。」

ハズレ味の新商品を引いてしまったかのようにみっちゃんが言った。心底落胆した香り。

軽蔑されても仕方がない。私が選んだのは味噌なのだから。


「やっぱり、私のことなんてどうでも良かったんだ。」

そう言って彼女は小ネギを撒き散らし、箸を置いて走り去った。

今の彼女には、未熟な私が何を言っても響かない。それならばいっその事、味噌を選んでみる。それが私の選択だった。みっちゃんとただの消費者である汚らしい今の自分と向き合いたくなかった。


残ったカップメンが2つ。重い沈黙を打ち砕くべく慎重に言葉を選ぶ。

「いつも塩ばかりで飽き飽きしていたんだ。悪いね、味噌くんを付き合わせてしまって。」


「別に、長い麺生だ。そういうこともあるだろう。ただ俺も塩を試してみたかっただけだし。ほら塩ってなかなか他のやつらとつるまないだろ?豚骨醤油みたいに。」


重そうな見た目の割に、中身は大層軽そうだ。その軽さが暴力性とパンチを引き立てている。信州仕込の味噌のバックには、何が付いているのだろう。考えただけで、恐ろしい。


「じゃあ、始めますかね。」

彼の言葉に思わず粉を噴き出す。


「え、いや、みっちゃんと離れたいだけだったんだ。君と食べ合う筋合いは…」


「こんだけ付き合わせて、何もなし?それに俺のことばっか話してたんだろ?イイじゃん。」


「いや、でもあんまり濃ゆすぎるのは好みではないし…それに、、、」


「なんだよ硬いな。素直になれよ」


そう言って彼は自分の蓋を強引に開けお湯を入れる。3分の間もジィッと私の唇を見続ける。恥ずかしくて、今にもヨダレが溢れそうだ。しかし、何とも言えないその間が不本意にも私を興奮させ、タラリとヨダレが溢れ出る。その様子を満足そうに湯気を出しながら見つめる味噌の姿に、私は辛抱堪らなくなりよりヨダレを溢れさせた。


もはや、床はヨダレと湯気の蒸気でビショビショになった。そのタイミングで3分を知らせるタイマーが鳴り響く。胸にあるのは、怖さと期待。ゆっくりと味噌が自分の蓋を開ける様子が多少雑ではあるが、何とも艶かしい。


そこから香るのは思っていたより、優しい匂いだった。

塩のように軽くはないが、暴力的でもない。

ただ、あたたかい。


「……お前、そんなに怖くないな。」

「最初から言ってるだろ。勝手に濃くするなよ。」

はにかむ姿に、私は胸を高鳴らせその奥の太麺に期待する。


味噌の湯気は、思っていたよりも静かだった。みっちゃんのような軽やかさもない。だが、胸の奥にじわりと広がる熱がある。私はゆっくりと太麺を啜る。

……うまい。悔しいが、うまい。


「だから言ったろ。勝手に濃くすんなよ。」

味噌は低く笑う。その声は、もう怖くなかった。むしろ、少し安心する。


その時だった。キッチンの隅で、見慣れない赤が揺れた。派手な真紅。黒い文字。どこか異国の香りをまとった、刺激的なパッケージ。


──チリトマト。 


彼女はくるりとこちらを向く。細身のカップ。艶やかな赤。こちらを誘う小悪魔的なフォント。


「へぇ。味噌にしたんだ。」

声は軽い。けれど、どこか嘲笑うよう。

「でもさぁ、ぬるいんじゃない?それ。」

鼻をくすぐる酸味とスパイス。トマトの甘さの奥に、危険な唐辛子が潜んでいる。


味噌が舌打ちする。

「またこれは派手なのが来たな。」

チリトマトは笑う。

「重たいのって飽きるよね。三分待つより、刺激が欲しくない?」

その言葉に、私のスープが揺れる。

刺激。変化。裏切り。

みっちゃんの塩。味噌の温もり。そして、この赤い誘惑。


「ねぇ。優しいのには飽きちゃった?」

 チリトマトが囁く。

「一口でいいから、試してみる?」

その香りは、冬でも夏でもない。嵐の前の匂いだった。

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