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味噌の男

三つの影が、等間隔に並んでいる。みっちゃんは、少しだけ私から距離を取っている。

青と白の身体。静かないつもの塩の匂い。いつもと違うのは、隣に立つ味噌味の男。赤茶色で艶のあるカップ。低く、甘く、濃い。彼は何も言わない。ただ、どっしりと構えている。発酵の深みをまとって。


「裏切ったのは、私じゃないよ」

みっちゃんが、自分の蓋をおもむろにフィルムを剥がしながら言った。思わず私は目を逸らす。


「だってあなた、最近ずっと味噌の話ばかりしてた。本当は私じゃなくてもいいんでしょ?あなた。」

頭が真っ白になる。違う、違んだ。

あの男は、冬の匂いがした。包み込むような、強い塩気。発泡スチロールのパッケージを溶かしてしまいそうな、重たい熱。彼の大きさに圧倒されてしまう。


私が最初に湯を注いだのは、みっちゃんだった。最初に三分を捧げたのも。最初に「いただきます」と囁いたのも。

「君じゃなきゃ、だめだ。いつもの味の君じゃなきゃ…」

 

味噌の男が、低く笑う。

「そーゆーバリカタなとこが良くないんじゃない?麺と一緒に頭も伸ばせば?」

その声は、湯気よりも濃い。私は気づく。裏切り者は、みっちゃんじゃない。味噌の男でもない。私は、毎回“理想の三分”を求めて、少しずつ裏切り続けている。硬さが違えば不満を言い、塩が濃ければ文句を言い、ぬるくなれば捨てる。愛なんて言いながら 、私はただの消費者だ。


みっちゃんが微笑む。

「それでも、明日もどうせ“いつもの”私を選ぶんでしょう?それって本当にバカよね。あなたって、しょっぱすぎる。」

味噌の男が静かに言う。

「自分の麺でも伸ばして見てろよ、それとも試してみる?新しい味を。」


……やめろ。ポットが鳴る。ゴゥ。

三分の審判。

私は震える指で、ひとつを手に取る。塩か。味噌か。

それとも——私はまだ、蓋を開けていない。

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