9.テスト明けの憂鬱
そしてときは過ぎ、王立魔法学校の中間テストが終わった。
忙しい時期が終わり、講師の仲間たちも、学生たちも解放感に溢れ活き活きとしている。
そんな中で、私一人だけがどんよりとした空気を纏っていた。
「どーしたの、ルーナセンセー」
エントランスでたまたま出会ったクロウ先生の生徒・ロナウドが、私の顔をわざとらしく覗き込んで名前を呼んだ。
彼は順調にテストの点を伸ばしたらしく、他の生徒たちに漏れず上機嫌だ。
「……」
「うわ、マジで落ち込んでる。クロウ先生呼ぶ?」
答えない私を見てロナウドは心配そうにそう言ってくれた。
いつもなら嬉しいクロウ先生の名前も、今は逆効果だ。
「ううん。呼ばないで……クロウ先生には内緒にしてほしい……」
「えー……いいけど。心配だなぁ」
納得行かなそうな顔をして、ロナウドは再びルーナの顔を覗き込む。
しかしそのとき、授業開始の時間が迫っていることを告げるアラームが鳴った。
ロナウドは、後ろ髪を引かれた様子だったが教室の方に向かっていく。
誰もいなくなったエントランスで、私はほっと胸をなでおろす。
そして、講師用の机に山積みになっている、教室の本棚から拝借してきた魔法理論の参考書を見つめた。
結果から言うと、私の初生徒・イレーネちゃんの中間テストの成績は芳しくなかった。
というか、去年の学年末テストより少し下がっていた。
特に、授業でテスト直前まで教えていた魔法理論の点数が、数ある教科の中でも足を引っ張っていて。
赤点すれすれ、期末テストでちゃんと点数を取らないと落第もあり得るという残念な結果だった。
私はそこに、とんでもない責任と後悔を抱いていた。
(やっぱり、気のせいじゃなかった。わかったふりをさせてたんだ。気づいてたのに……)
私の教え方が悪かったのか、何かしらのサインに気づけていなかったのか。
授業で一緒にやったときは解けていた魔法式の問題がことごとく間違っていた答案用紙を見てから、ずっと自分を責める言葉が私の頭の中をぐるぐるしている。
テスト直前の授業のときにあった違和感は、気のせいではなかった。
同じ問題を間違えることが悪いわけじゃない。でも確実に、どこかに苦手や落とし穴がまだ残っていることの証拠だったのだと思う。
私は、それに気づいていながら無視してしまったのだ。
「取り返すためには……教え方。考えないと……」
独り言をぶつぶつ言いながら、一つずつ参考書をめくっていく。
自分が気づいていない何かがそこにあると信じて、私はひたすら参考書に没頭した。
それから何十分そうしていたのだろうか。
やがて授業時間が終わったらしく、エントランスに行き交う人が増えてきた。
授業の予習復習をするのが後ろめたいわけではないが、なんとなく教材に向けていた目を逸らして行き交う生徒たちを眺める。
あまりそれらしい成果は、今日のところ得られていない。
参考書を読んだところで、私にとっては知っていることや理解していることが羅列されているだけだ。
無駄に時間を使ってしまったことが、後ろめたかったのかもしれない。
机の上に広げた教材を、上の空でかき集めて閉じながら、私は生徒たちに向けて笑顔を浮かべる。
イレーネちゃんの授業は今日はないので、帰っていくのはあまり関わりのない子たちばかりだ。
彼らにうかない顔で覚えられるわけにはいかないので、、さようならとにこやかに挨拶をするモードへと自分を切り替えた。
そしてほとんどの生徒が出て行った頃に、授業開始前にも話したロナウドがひょっこり顔を出す。
「クロウ先生には黙っといたから! じゃ、お疲れ様で〜す!」
「はいはい、ありがとう。さようなら……って」
調子のいいロナウドの肩越しに後ろを見て、私は固まる。
ロナウドも振り向いて、あ、と声を漏らした。
「……俺に何を黙っていたんだ?」
私が悩み事を悟られたくなくて避けていたまさにその人が――クロウ先生が、そこに立っていた。




