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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第1章 王都の塾講師の秘密

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7.イレーネの実践魔法

 イレーネちゃんとともに教室を出て、演習場に向かう。

 演習場は先生の付き添いがないと入れない場所なので、間違って誰かが迷い込まないよう、校舎のかなり奥にある。


「この道順は覚えなくていいからね。演習場を使うときは、絶対に誰か先生が一緒に行くから」

「はい」


 まあ、学生時代の私は演習場を使いすぎていたから、このわかりにくい道も目を瞑って歩けるんだけど。

 サクサクと歩いて、地下に繋がるオンボロの階段まで辿り着く。

 

「ここが演習場だよ。階段、軋むから気をつけて」

 

 ギシギシと鳴る階段を下まで降り切ると、薄暗い中に重い木の扉だけがぼんやり浮かぶ。

 

 私は指先を扉に向け、先生になってから教わった、扉を開けるための簡易魔法陣を空中に描いた。

 すると、ひとりでに扉が開く。

 

「すごい……」

「ふふ。すごいよね」

 

 自動扉のことか、演習場のことか、両方かもしれない。


 扉が開いた先には、まるで外に出たのかと錯覚するほどの、眩しい太陽の光――のように見えるが本当は魔法で作った光だ――が溢れ、川が流れ、遠くには山や森が見える。

 自然環境を魔法で再現したものだ。


 魔法学校の五年生になると、魔法合宿という、自然の中で実践魔法の練習だけをする一週間のお泊まりイベントがある。

 演習場では、その予習をするために、こうして自然環境が再現されている。


 校舎の地下として実際にあるスペースより遥かに広いのは、空間拡張魔法がかかっているおかげだと噂程度に聞いたことがある。


 かなり手の込んだ、不思議だらけの魔法空間である。

 

 イレーネちゃんも静かながら興味ありげな様子だが、残念ながら今日使うのは自然の方ではない。

 扉から見て右手側には自然が広がっているが、反対の左側は学校のグラウンドと対して変わらない殺風景な砂場が広がっている。

 

「今日はこっちで、魔法の威力と精度と速度を見せてもらうね。山の方には来年合宿の予習で行くと思うよ」

「なるほど、合宿の……」

 

 納得したようにイレーネちゃんは頷いて、それからグラウンドの方に向き直った。

 

「実践魔法は得意なので、いい記録が出せるように頑張ります」


 

 その言葉通り、イレーネちゃんの実践魔法の記録はどれも平均値を大きく上回っていた。

 

 万年平均以下だった私と比べると、100点満点換算で倍の点数がつくくらい。……とは、先生としての矜持を守るため言葉にはしなかったが。

 演習場で過ごした30分ほどの間、私はとにかくイレーネちゃんを褒めて褒めて褒めまくった。

 

 威力を試すために出した巨大なスライムゼリーは炎魔法で一瞬で丸焦げにされ、精度を試すために魔法で動く的を出したときは最大まで速度を上げても百発百中。

 魔法の発動速度も、私よりずっと早かった。


 すごいすごいとはしゃいでいる私に、イレーネちゃんも悪い気はしていなさそうだった。

 

 しかし、これはこれで問題である。

 なぜって、何も教えられることがない。


 イレーネちゃんの実践魔法の力を一通り見たあと、何も教えられることがないと悟った私は、冷や汗をかきながら演習場の備品を片付けるのだった。

 

 

 教室に戻って、実践魔法の記録をメモしながら私は時計を見た。

 授業時間は残り二十分ほど。イレーネちゃんの実践魔法の力が予想以上だったこともあり、演習場では何も教えられなかったので、残りの時間で頑張らないといけない。

 

 私は改めて、イレーネちゃんに伝える。

 

「実践魔法、本当にすごかった。四年生の今でこれなら、きっと卒業まで実践で困ることはないんじゃないかな。これからは理論とか筆記に力を入れて教えていくね」

「はい。そうしてもらえると嬉しいです」

「今日もあと少し時間が残っているから、一緒に教科書の読み合わせでもしようか。聞きたいところがあったら言って?」

 

 そう言うとイレーネちゃんはカバンの中からいそいそと教科書を取り出す。エントランスで待っていたときに読んでいたものと同じ、魔法理論のものだ。

 

「昨日習ったばかりなんですけど、ここがわからなくて……」

 

 イレーネちゃんが開いた教科書は、マーカーのしすぎで本文がほとんど黄色く塗られていた。

 内容は、確かにつまずきやすいところではある。

 本当に重要なのはどこか、何から覚えてどう考えたらいいか。説明のしがいがある。

 

「うんうん。じゃあ、実際に問題解きながら解説するね!」

 

 座学は私の得意分野だ。クロウ先生のようにわかりやすく教えてみせる! と、私は燃えていた。

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