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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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18.掴み取った答え

 私の目の前に、大きな影が覆いかぶさるように広がる。

 戦闘態勢をとったメリッサが、髪を大きく広げたのだ。


 メドゥーサの特性や弱点は、王都で分かるだけ調べてきた。

 メドゥーサにまつわる知識だけで言えば、今の私は魔物研究者レベルだと思う。


 そのうえで……勝てる見込みは、あんまりない。

 私がマギスで塾長と一緒に立ててきた作戦は、クロウ先生を取り戻す前提のものばかりだったから。


 クロウ先生を無理やり連れて帰る方法なんて、考えてなかった。

 だけど一か八かやるしかない。


 私をつまみ出そうと向かってくる、蛇のような漆黒の髪に対峙する。


「風よ、万物を伝う動きの源よ。あらゆるしがらみを切り裂く(はさみ)となれ!」


 詠唱を終えると、私の周りをただよう空気がきらきらと光りはじめる。

 光は私の右手に吸い付くように、大きめのハサミの形をとった。


 私は、クロウ先生との訓練のことを思い出す。

 魔力計測板にへろへろの火球をぶつける毎日を繰り返していたとき、クロウ先生が助言してくれた。


「魔法はイメージだ。ただふわふわ考えるだけよりも、鮮明な形があった方が威力もあがるし操作もしやすい。だから詠唱がある」


 具体的なイメージをすることで、魔法はより強く、操りやすくなる。

 その教えをもとに、髪の毛を相手に戦うのなら、扱ったことのない剣を出すより使い慣れたハサミを使う方がずっと強いだろうと考えたのだ。


(イメージ通り、手に馴染む。これなら……!)


 左手は頭をかばうようにかざし、右手のハサミを振りかざす。

 目の前に迫るメリッサの髪に、私は刃を突き立てた。


「――っ!? こんな魔法ごときで……!」


 私の予想通り、メリッサの髪は簡単に切れた。

 私を弱いと決めつけていたメリッサは目を丸くして、一度髪をひっこめる。


「いいわ。そっちがその気なら――」


 魔力の流れが変わったのがわかった。

 嫌な予感が私の脳裏をかすめる。


 髪を武器にして戦うのをやめたということは、次に飛んでくるのは硬化魔法だろう。

 一週間前、王都でマギスの学び舎の特任講師たちを一網打尽にしてしまったあのわざだ。


 どういう原理かもわからない。

 目を合わせる必要すらなく、視線だけでメリッサは人を石に変えてみせた。

 彼女の力の前では、ミリカ先生の防御すら効果がなかったのを覚えている。


(まずい、硬化魔法を使われたら――)


 一応、服に呪い対策をたくさんしこんである。

 

 しかし、それが効果を発揮するかどうかはわからない。

 だって、メドゥーサと戦ったことのある人なんて王都にもいない。

 

 塾長が整えてくれた装備を信じながら、ただ結果を待つしかなかった。

 

 なすすべなく目をつむって、数秒。

 私は指先だけを動かし、自分がまだ石になっていないことを確認する。


(耐えた……?)


 おそるおそる目を開ける。

 私の視界に飛び込んできたのは、魔法を遮るように私の前に立つ、クロウ先生の背中だった。


「なん、で」

 

 頭から血の気が引いていく。

 ダメだ、それは。

 クロウ先生まで石にされてしまったら、私は誰のために――


「悪い。判断が遅れた」

「……へ?」


 あれ? クロウ先生、ふつうにしゃべってる?


 そんな場合ではないけれど、私はぽかんと口を開けて目の前の光景をただ眺める。

 私の代わりに硬化魔法を受けたクロウ先生は、それでもぴんぴんしていた。


「だっ、大丈夫なんですか!?」

「ああ。硬化魔法は同じく硬化魔法でだけ打ち消せる。俺なら石にされない」

「……!!」


 背中越しに答えるクロウ先生の言葉は、今までどおり自信に満ちていて、頼もしい。

 しかし、メドゥーサたちの方から見れば裏切りともとれるその行動に、メリッサは眉をつりあげた。


「どういうつもり!? この期に及んで、まだ人間の味方をするの!?」


 髪も硬化魔法も使わず、清楚なドレスを振り乱して、メリッサは自分の腕でクロウ先生に掴みかかる。

 とげとげしいメリッサの言葉に、怯むことなくクロウ先生は頷いた。


「ああ。俺はあんたたちと同じメドゥーサの血を引いてはいるが、人間だ」

「違うわ。違う! あなたが人間たちの世界で幸せになれるはずがない!! だから私、あの街を石にしたのよ!」


 切実なメリッサの声が部屋の中に響きわたる。

 その言葉を聞いて、私はハッとした。


 メリッサはクロウ先生のことを思って、ことを起こしたのだ。

 ただ私利私欲のために動いたわけじゃなくて。

 同胞として、人と違うクロウ先生が人間の世界でこれ以上傷つかなくて済むように。


(それにしても、やりすぎだけど……)


 でも、やっていることは私と変わらないような気がした。

 大切な仲間の幸せを願って、空回りするのは魔物も人も変わらないらしい。


 だったら。


「私……怖くない。まだ戦える」


 ぽつりと呟いた、私の小さな声をクロウ先生は拾い上げた。


「頼もしくなったな、ルーナは」


 ふっ、と満足げに笑って、クロウ先生は宣言した。

 メリッサと、メディナ。

 一つボタンが掛け違えば家族になったかもしれない、二人に向かって。

 

「俺は王都に帰って、王都を助ける。止めるなら――悪いが、ここで倒す!!」

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