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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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17.クロウの選択

「あなたが、クロウ先生の婚約者ですか」


 身構えながら、暗闇から現れた女に尋ねる。


 王都に現れたときとは違い、メドゥーサは体のラインがよくわかるシックなドレスに身を包んでいる。

 今すぐ戦いになる雰囲気ではないが、私は彼女にされたことを鮮明に覚えている。


 目の前でいとも簡単に石にされていく、頼りになる先輩たち。

 あの光景を見たあとに、まさかそのメドゥーサがクロウ先生と結婚するなんて言われても、受け入れられるはずがない。


 メドゥーサを睨みつける私の態度を見て、クロウ先生も彼女に訝しげな目線を向ける。


「メリッサ。王都で何があった? ルーナと知り合いなのか?」

「ええ。少しね」


 多くは語らず、メリッサと呼ばれた女はただうっそりと笑うだけ。

 その余裕そうな態度に、私の中でさらに焦りが募る。


 クロウ先生を連れて帰れなかったら、ここに来た意味がない。

 王都も先生たちも元に戻せない。


 私はなんとか頭をフル回転させて、打開策を考える。

 それを見透かしたように、メリッサは笑った。


「話がわかったなら帰って頂戴、ルーナさん。クロウから離れてあげることが、あなたにできる一番のやさしさよ」

「……」


 クロウ先生は苦い顔で黙ったまま、何も言わない。

 メリッサに好き勝手言わせてそのままだ。


 私の心がずきりと鈍く痛む。


 帰れない。

 帰るわけにはいかない。


 王都のためとか仲間のためとかいろいろあるけど、それ以前に。

 納得いかない。


「い……いやです。帰りません!」


「は?」


 メリッサが思い切り顔をしかめる。

 しかし私は気にせず言い放った。


「クロウ先生のこと、あなたなんかに渡しません!!」


 先生がどう思っているとか、相手は恐ろしいメドゥーサだとか、そんなことはもう私の頭にはなかった。

 あるのは、ただ一つの願いだけ。


 私はまだ――クロウ先生と一緒に、マギスの先生でいたい。



   *   *   *



 クロウがそこにいたのには、理由があった。


 一週間前、王都で初めてメドゥーサ――メリッサと対峙したとき。

 クロウは自分に向けられた硬化魔法をなんとか打ち消し、石にされることを免れた。


 だが、それ以上の反撃もできなかった。

 抵抗の意思がないことを示すため、クロウは両手をあげる。


「……あら。素直なのはいいことね」


 戦うこともできたが、クロウはそれを選ばなかった。

 足元の石畳が、美しい灰白色から泥のような汚いねずみ色に変わっていた――王都が、石にされはじめていたからだ。


「何が目的だ? 要求は呑もう。代わりに王都の街には手を出すな」


 淡々と交渉を始めたクロウに、メリッサは言った。


「目的はあなたよ、クロウ・オブシディア。あなたはメドゥーサの力を持つ稀有な魔導師として、私と結婚するの」

「……は?」


 思わず眉をひそめてしまったのが気に入らなかったらしく、メリッサはむっと唇を尖らせて、地面に両手をついた。


「それとも……こうする?」


 彼女が魔力を込めると、一瞬であたりの景色が色を失う。

 活気ある表通りの風景も、あたたかな蒸気を吐く煙突も、穏やかに暮らす人々の姿も。

 一瞬で、そのすべてを硬化させてメリッサは奪った。


「手を出すなと言っただろう!!」


 メリッサに怒りのまま掴みかかろうとするが、彼女は華麗な身のこなしでそれをかわした。


「知っているでしょう、硬化魔法は時間が経てばそのうち解けるわ」


 もしあなたがついてこないのなら、永遠にこの街を石にしてもいいけれど――メリッサは街そのものを人質に取って、不気味に笑った。


「……」


 クロウは、背にかかっていたマギスの学び舎の制服であるローブを、体から外す。

 その場にローブを落とし、再び両手をあげるのだった。



 あのときのメリッサの言葉が正しければ、王都はもうとっくに硬化が解けて、もとに戻っているはずだ。

 そうなるように、あれ以上街を巻き込まないようにクロウは条件を飲んだのだ。


 それなのに、ルーナが現れた。


 本気のメドゥーサになど勝てっこないルーナは、それでもひとり、メドゥーサを睨みつけて立っている。

 負けるかどうかなど考えず。

 クロウを連れ戻すためだけに、ルーナは啖呵を切ってみせたのだ。


 ルーナの細い脚は、心配になるほど震えているというのに。


 クロウの凍りかけていた心が、ゆっくりと揺れて、傾く。


「……ああ、鬱陶しい! クロウは渡さないですって? それはこちらのセリフよ。人間なんかに……私たちを除け者にしたやつらに、これ以上邪魔される筋合いはないわ!!」


 クロウの隣では、メリッサが怒りを爆発させ、髪を逆立てる。

 この場を作り上げた張本人であるメディナは、ルーナとメリッサを交互に見つめておろおろしていた。


 戦うために集まったわけではないのに。

 不安そうなメディナの瞳はそう言っているようだった。


 しかし、事態は動いている。

 言葉通り一歩も退かないルーナを排除しようと、メリッサは髪をうねらせてルーナに飛び掛かった。


(俺は、どうしたら――……)


 心の(きし)む音が、クロウを駆り立てていた。

 

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