13.手がかりの手紙
……とは言ったものの。
硬化魔法はメドゥーサにしか使えない、謎多き魔法。
解く方法なんて簡単にわかるはずがない。
(解明されていたら、魔法使いだって使えるようになってるはず……だよね)
分厚い魔法理論の専門書から顔を上げて、私はため息をつく。
塾を空けられない塾長に代わって、図書館で調べ物をする日々だ。
王都の半分が石にされ、機能停止している現在。
魔法学校が休校になったので、マギスの学び舎も同様に閉めて、石にされた三人の先生たちの体を隠してある。
理由はわからないが、幸いなことに街の硬化は中途半端なところで止まっている。
私たちと戦ったあと、メドゥーサはそれ以上街を襲わずに撤退したらしい。
やっぱりクロウ先生を連れて行くことが目的で、そのための時間稼ぎだったのだろうか――なんて推理するけれど。
それならそれで、まだ王都が石にされたままなのも、おかしな話だ。
クロウ先生の足取りなんて、こっちはちっとも掴めないというのに。
かろうじて空いている図書館は、無事だった学生たちで賑わっている。
私もその中に紛れて、専門書のページをめくり続ける。
わかったことは、そう多くない。
風属性が弱点であることに加えて、熱に弱く寒冷な地域で暮らしていること。
人と交わらず独自の文化を築いて生きているという彼女たちが、どうして王都に来たのか。
……どうして今更、クロウ先生を探しにきたのか。
わからないことだらけで、ため息が止まらない。
私は数日前、まだ事件が起こる前のさざなみのような出来事を思い出す。
(ここに、人探しをしているって言うメディナちゃんを連れてきて――)
もし私がメディナちゃんを案内していなければ、こんな事態にはなっていなかったのだろうか。
そう考えると、私の胸には引っかかるものがあった。
この事態は、本当にメディナちゃんが望んだものなのだろうか?
ほんの一瞬、話しただけだけど。
メディナちゃんは私が怪我をしないように助けてくれた。
こんな風に王都をめちゃくちゃにするような、悪い魔物だとは思えない。
「せめて、また会って話ができたら……」
そう思うけれど、メディナちゃんの手がかりは何もない。
私は図書館の閉館時間まで、ひたすら分厚い本を読み漁るだけの時間を過ごした。
翌日。
昨日までに調べたことをノートにまとめて、マギスの学び舎へ向かう。
塾長と情報共有をして、今後の方針を立てるためだ。
到着するやいなや、塾長は一通の手紙を私に差し出した。
その出迎えの早さからするに、私が来るのを待っていてくれたみたいだ。
「ルーナ君。君宛てに差出人不明の手紙が届いておる。こんな状況じゃ、何かの手がかりかもしれん」
塾長は一刻も早く手紙を開けるように、私を急かす。
はやる気持ちを抑えながら、私は丁寧に封を開けた。
「これは……メディナちゃんから?」
私の言葉に塾長は眉をひそめる。
「メディナちゃん?」
「はい。硬化が始まる前の日に出会った、人探しをしてたメドゥーサらしき女の子です」
「交戦した女とは別かね?」
「はい」
塾長に説明しながら、手紙の文面にざっと目を通す。
そこには、予想外の果報が記されていた。
「『ルーナへ
あなたのおかげでオブシディアに会えた。とてもかんしゃしてる
お礼をしたいから、会いに来てほしい。
ママがおこるといけないから、一人で来てね?
ルーンのいせきで、オブシディアといっしょにまってる』……って」
「クロウ君がおるのか、そこに!」
塾長が驚きの声をあげる。
私も驚いたけれど、それ以上に声音がついつい弾んでしまう。
「はい。クロウ先生さえ取り戻せれば……!!」
クロウ先生がいてくれたら百人力だ。
硬化魔法をはじめメドゥーサの力のこともわかるだろうし、事態のほとんどが解決すると言っても過言ではない。
何より、無事にまた会えるということが嬉しくて仕方がなかった。
「しかし、手紙にはルーナ君一人で来るように、とあるが……」
「……はい」
問題はそこだ。
別に一人旅くらいできなくはない。もう立派な大人の魔法使いなのだし。
ただ行き先が遺跡であることが、私の心を曇らせた。
「ルーン遺跡……どんなところで、どんな魔物がいるのか――」
遺跡には不思議な魔力が残留しており、人が長期間に渡って暮らすことはできない。
その分、魔物が住み着き、独自の生態系を築いているのだ。
人の手が入らない、魔物の巣窟。
そこに一人で踏み入って、私は無事帰ってこられるのだろうか。
「でも……それでも。私は行きます」
首を振って暗い考えをかき消す。
帰りのことまで考えてなんかいられない。
私はとにかく、メディナちゃんとクロウ先生に会うまでの片道を、どうにかして乗り越えてやる。
「ふぉっふぉ! 頼もしくなったもんじゃのう!」
「え……へへ。そうですかね? よ〜し、そうと決まればまた調べ物しないと!!」
魔物の弱点や遺跡の攻略方法をきちんと調べておかないと。
空元気を出して意気込む私に、どれくらい塾長が騙されてくれているのかはわからない。
それでも私は心の中で、決意を固める。
(クロウ先生のことだけは、絶対に連れ戻す。……たとえ、私がどうなったとしても)




