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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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12.情けない帰還

「ミリカに何を――!」


 ナタネ先生とトマリ先生が怒りをあらわにするのはほぼ同時だった。

 二人とも、ニマニマと余裕そうに笑うメドゥーサに飛びかかる。


 私は慌てて、ミリカ先生に近づいた。


「ミリカ先生……!」


 呼びかけても当然返事はない。

 風魔法の鎧が砕ける寸前の、苦しそうに魔力を巡らせている表情のまま、ミリカ先生は石になってしまって微動だにしない。


(私が何かできていたら……)


 メドゥーサがミリカ先生を警戒しているのはわかっていた。

 その時点で防御か、あるいは奇襲の一手を考えられていたら。


 後悔が頭の中に広がっていくのを、首を振って払う。

 

 今は過ぎたことを考えている場合じゃない。

 ハイサンダーウルフのときのように、硬化はいつかは解けるはず。


 今は残された三人で、どうやってあのメドゥーサに対抗するかだ。

 気合いを入れ直し、メドゥーサの方に向き直って。


 私は、絶望した。


 風の剣を振りかぶる、トマリ先生。

 強化された拳を突き出した、ナタネ先生。


 二人とも、その姿のまま土色の塊と化していた。

 この一瞬で、声をあげる間も無く石にされたのだ。


「くだらない。……あなたはいいわ、弱そうだもの」


 メドゥーサは私を一瞥(いちべつ)したあと、踵を返してどこかに歩いていく。

 待てと言いたいのに、先生たちの仇を取らないといけないのに、私の喉は張り付いたようにひゅうひゅう鳴るだけだった。



   *   *   *



 私は一人、塾長の待つマギスの学び舎へ戻る。

 間違っても傷つけないように、石になった仲間たちは一人ずつ丁寧に運んだ。


 抱えるしかなかったけれど、汗をかき、手を痛めながら運んだ。

 そうじゃないと、マギスに戻る権利すらないような気がした。


「……戻り、ました」


 エントランスで一人座っていた塾長は、私の顔を見て敗戦を悟ったみたいだった。

 すぐに私のそばまで歩み寄ってきてくれた塾長は、私の後ろに並ぶ三人の先生たちの石像を見て顔を青くした。


「これは……。ご苦労じゃったな」

「私……何もできなかった――」


 嗚咽が漏れる。

 メドゥーサと会見(あいまみ)えたときの恐怖は去り、私の中に残っているのは情けなさだけ。


 何が足りなかったとか、油断したとかいう話じゃなくて。

 何ひとつ、できなかった。

 攻撃も防御も支援もできず、相手の情報を得ることもできず。


 弱いからって一人見逃されて、ここに戻ってきてしまったことが、情けない。

 マギスの先生として胸を張りたかったけれど、私にも何かできることがあるなんて、錯覚でしかなかったんだ。


 泣きながら思いの丈を吐き出す。

 私の背を、塾長は何度も優しくさすってくれた。


「ルーナ君がこうして一人、皆を連れ帰ってくれたことは僥倖じゃ」

「でも……」


 塾長は言い聞かせるように、優しい声音で私を励ます。


「まだ負けたわけじゃあなかろう? あの子たちの硬化を解き、対策が立てられればまた次の戦いに進めるはずじゃ」


 塾長の言葉には希望がある。

 マギスの学び舎の特任講師たちのことを信じているから。


 それが伝わってきて、私の呼吸はだんだん落ち着いていく。


「私……メドゥーサに一人、見逃されて。弱そうだからなんて言われて、その言葉通り何もできなかったんです」


 でも。

 私はうつむいていた顔をあげる。


 塾長が信じてくれている。

 話せないけれど……きっと、ここにいる三人の先生たちも。


 クロウ先生も、どこかで。


 私をきっと信じてくれる。彼らはそういう人たちだ。

 だから、負けていられない!


「私を石にしなかったこと……間違いだったって、あのメドゥーサに教えてやります!」


 決意を口にすると、塾長は肩を揺らして笑った。


「ふぉっふぉ、そうこなくては! 我々でここから反撃しようじゃないか!」

「はい!!」


敗北をかき消すように、たった二人だけになってしまった私たちは強く頷き合った。

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