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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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8.迫る石の呪い

 王都が滅ぶ。

 塾長の言葉に声を失っていると、すごい勢いでマギスの学び舎の扉が開いた。


「ちょっと! これ、一体何事なの!?」


 飛び込んできたのはミリカ先生とナタネ先生だ。

 状況は飲み込めないけれど、特任講師の二人が来てくれたことで私は少し安堵する。


「二人とも! 外で何が――」

「見せたほうが話が早い。来て!」


 ナタネ先生に手招きされて近づく。

 すると、ナタネ先生は両手を私の腰の下に差し込み、私を抱き上げた。


「わっ!?」

「ははっ。捕まってて」


 それだけ言ってナタネ先生はマギスの外へ飛び出す。

 文字通り、脚で強く地面を蹴って飛んだのだ。


「ええええっ!?」


 つまり、お姫様抱っこで抱えられるかたちで、私はナタネ先生とともに空を飛ぶ。

 飛行魔法をかけてくれているのだとわかったが、うっかり落下しそうで、慌ててナタネ先生の首に手を回した。


 マギスの学び舎の建物があっという間に視界の下の方へと去っていく。

 代わりに見えるようになるのは、王都の街並みだ。


 城壁に向けて網目状に連なる下り坂の街道。

 次の週末にお祭りを控えて飾り付けられた街並みは、白壁の建物たちによく映えて美しい。


 しかし、それはほんの一部だけのことだった。

 さらに遠く――城壁の近くまで見えるようになったとき、私は思わず息を飲む。


 城門前の広場にある、星をかたどった星祈祭(せいきさい)のオブジェ。

 いつかイレーネちゃんと祝賀会をしたカフェ。

 前にトマリ先生に騙して連れていかれた魔物料理屋。


 その、全てが色をなくしていた。

 

 乾いたような、褪せたような石の色。

 王都の建物だって石造りだけど、これはそうじゃない。

 

 街を歩く人も、きらめくイルミネーションも、木々も――

 全てが、()()()()()()()


 パキパキと音が聞こえるように錯覚する。

 城門の方から王都の中心に向かって、少しずつ、色のない世界が侵食してくる。


「これって――」


 絶句する私の反応を見て、ナタネ先生は頷いた。


「ルーナの見解も聞かせてほしい。ゆっくり話そうか」


 そう言って飛行魔法を切ったナタネ先生は、足元の石畳にふわりと着地した。

 あり得ない光景にまだ気を動転させる私をお姫様抱っこにしたまま、マギスの学び舎の建物の中に戻る。


「さて……」


 私を丁重に床に下ろして、ナタネ先生は汗ひとつかいていない。

 びっくりしたけどちょっとときめいてしまった。

 ナタネ先生ってかっこよくて、女性なのに王子様みたいだ。そう現実逃避のように思う。


「ルーナちゃん含め、見解をすり合わせたいけど……クロウは?」


 しかし私の現実逃避は、ミリカ先生の一言でかき消される。


「そ、そうなんです。クロウ先生、特訓に遅刻したことなんてないのに来なくて、行方不明で……!」

「そう……まあ間違いなく、アレのせいよね」


 ミリカ先生は小さく頷き、マギスのエントランスに並ぶ待合用の椅子まで足を進める。

 私たちもそれに続いた。


 塾長、ミリカ先生、私、ナタネ先生の順番で横並びに座り、ヒソヒソ話をするように顔を突き合わせる。


「ルーナちゃん。どう思った?」

「……あり得ない景色だと思いました。あんなことできるのは……多分、」


 対象を石に変える魔法――硬化魔法。

 

 クロウ先生が、前に私を助けてくれたときに使ったあれだ。

 本来は、メドゥーサという魔物にしか扱えない呪いのような魔法である。


 魔物の一つくらいなら、どうにか人間の力でも固められるのかもしれない。

 しかし、今王都を襲う石化は、間違いなく人の手によるものではない。人にできるはずがない。


「メドゥーサです。もしかしたら複数いるかも……そうじゃないと、王都を丸ごと固めるなんて」

「うん。私もそう思う。それに、あの石、ちょっとずつ侵食してきてる。私たちが気づいたときよりも広くなっていた」


 私にあの景色を見せてくれたナタネ先生も頷く。

 次に口を開いたのは塾長だった。


「目的が何かはわからんが……このままでは街が丸ごと石にされてしまう。ここに暮らす我々ごとな」

「…………!」


 自分が魔物を前に石にされる想像をして、私の背筋は凍る。

 怯える私に気づいたように、塾長はまとっていた緊張感を少し緩めるように笑った。


「大丈夫じゃ。それを未然に防ぐために、我々がおるのじゃから。それに、きっとクロウ君が……彼ならこの事態を収めるために動いておるじゃろうよ」

「……はい。間違いないです!」


 授業の予定をすっぽかしてクロウ先生がやることなんて、きっとこの街を守るための行動に決まっている。

 そう思うと勇気が湧いてきた。

 私も、先生みたいにがんばらないと。


 私は、何冊もの魔物図鑑を震えながらめくった日々の記憶を遡る。

 メドゥーサに関する情報を、事前に整理しておくためだ。


 その間に、ミリカ先生とナタネ先生は戦いの準備を始めた。

 おそらく家から慌てて走ってきたらしく、彼女たちは二人とも部屋着のような格好をしている。

 そこから、マギスの講師の制服である黒いローブに着替えるのだ。


 私は、すでに特訓のために袖を通してある。

 マギスのローブは、魔法に耐性のある防御礼装でもあるのだ。


 それを身につけるということは、今から戦うということ。

 詳細な言葉もなく、その場にいる全員が自然と来たる戦いを覚悟し、備えている。


 そんな空間に、玄関の扉を蹴り開ける轟音が響いた。


「あ、あんたら……ちょっと待ったっすよ!!」

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