6.居残りの報酬
アメルくんとの特訓は、思いのほかはかどった。
アメルくんの意欲が凄まじかったのである。
彼が言うには、私の特訓を見ていて、自分もこのままではいけないとやる気が湧いたみたいだ。
学生時代の私では考えられないくらいやる気満々で、次々魔法を送り出すアメル君に、私は感動していた。
アメル君の特訓は私の逆。魔法の火力を上げるのではなく、下げる特訓だ。
自分の中にある魔力を、できるだけ減らしてから外に出す練習を行う。
クロウ先生が教えてくれたイメージ通りに、魔力計測板に向かう。
まずは普通に魔法を使ってもらうと、計測板の目盛りは最大値である30を軽々振り切った。ちょっと羨ましい。
でも、指先に火をつけるだけの初歩的な魔法でこんなことになっていたら、魔法を使うたび大事故だ。
私はすかさず、アメルくんに指示を出す。
「次は――魔力の流れに意識を集中させて。それを、指の直前でせき止めてみて?」
魔力の流れをせき止める。
それは私が魔法を練習していて、クロウ先生に一番よく指摘される欠点だ。
魔力は体の中を巡っている。
手から魔法を放つときは当然、魔力を手に集中させるのだが――どうやら私には、力みすぎると魔力をせき止めてしまう癖があるみたいだ。
もともと魔力量の少ない私にとっては悪い癖だけれど、魔力の多すぎるアメルくんには、いいように働くかもしれない。
真逆だからこその思いつきで提案してみると、アメル君の魔法はほんの少し弱まった。
観測版の目盛りは28を指す。
「その調子だよ!」
なんてノリノリで授業を続けているうちに、いつの間にかマギスの学び舎の終業時間は過ぎていた。
「ごめんね。思ったより遅くなっちゃった」
「大丈夫ですよ。明日は休みだし」
アメル君に平謝りしながら、マギスの学び舎の建物を出る。
夜遅くなってしまったので、寮まで送って行くことにしたのだ。
夜の王都には、普段あまり人がいない。
特に魔法学校やマギスの学び舎がある区域から学生寮のある場所までは、子どもたちしか使わない道なので、夜はあまり栄えていないのだ。
しかし、今の時期は違う。
冬を目前に控えた。10月の終わり。王都の夜は賑わっている。
もうすぐ始まる、星祈祭というお祭りの準備のためである。
その名のとおり、星に願いを込め、神に祈りを捧げる行事である星祈祭では、町並みを光魔法で作ったイルミネーションで飾り、多くの屋台やマーケットが街を彩る。
設営のために多くの人々が行き交い、街は賑わっていた。
もうすでに、ところどころ飾りつけが完成していて、街並みは美しい。
「わあ……!」
息を漏らして街並みを眺めるアメルくんの顔はキラキラしていた。
「アメルくんにとっては2度目の星祈祭だよね。お友だちと一緒に行ったりするの?」
「はい。授業で魔法を暴走させてから、1人になっちゃうかもと思ってたんですけど……去年からの友人が誘ってくれたんです。だからすごく楽しみにしてて」
照れ笑いながらもアメルくんは言った。
その笑顔を見て、私の心も暖かくなる。
私も学生時代、不出来なせいで友だちはあまり多くなかったけれど、星祈祭に友人と行ったのは、数少ない大切な青春の思い出だ。
「きっと楽しいお祭りになるよ」
話しているうち寮に到着した。
私はアメル君を見送って、自宅までの帰路につく。
(……あ。クロウ先生にメディナちゃんのこと伝えるの、忘れちゃった……)
一人になると、ふと思い出す。
昼間に出会ったメディナちゃんという少女。その人探しの相手が、クロウ先生かもしれなかったのだ。
もし2人が知り合いなら、私が引き合わせてあげることができたのに。
バタバタしてすっかり忘れていた。
次にクロウ先生に会ったときに、忘れず聞いてみなくちゃ。
メディナちゃんも、図書館にあった魔導師の名簿から、クロウ先生の名前を見つけて探しているかもしれないし。
図書館での出来事を思い出すと、心に引っかかるのはメディナちゃんの髪のことだ。
踏み台から落ちかけた私を助けてくれた時、メディナちゃんの髪は確かに動いて、私を抱きとめてくれた。
あれは一体何だったんだろう。
先程までアメル君と話していて暖かかった私の心は、ほんのりと曇る。
まるで人の髪ではなく、魔物の触手のように見えた、あの漆黒の髪。
……もし、人の形をした魔物がいたら。
もし私たちと同じように、ものを考えて言葉を喋って、誰かのことを思う魔物がいたら。
私は、そのひとのことをどう思えばいいんだろう?
空はすっかり暗く、曇っているのか星は見えない。
寒い風が、通りを吹き抜ける。
私は身震いをひとつして、襟に顔を埋めながら帰路を急いだ。




