4.勘違いの解消
ロナウドとアメルくんに連れられて、私は急いでマギスの演習場に向かう。
演習場の森で私たちを待っていたクロウ先生は、予想に反して怒ってはいなかった。
ただ、約1時間遅れでやってきた私の顔を見て、安堵の息を吐く。
「あ、あれ? 怒ってない?」
「……一体何を言われたんだ。どうせロナウドだろうな」
クロウ先生はじとりとした視線をロナウドに向ける。
ロナウドは目を泳がせた。
「ん、ん〜? 俺はちゃんとルーナ先生探してきたぜ? なぁ、アメル」
「は、はいっ!」
アメルくんの元気な返事に毒気を抜かれたのか、クロウ先生は表情を和らげた。
「まぁ、何事もなかったのならいい。ロナウド、アメル、ご苦労だった」
「うっす!」
「はい!」
話の流れが読めず、私はぽかんとしてロナウドとクロウ先生の顔を交互に見つめる。
そんな私の様子を見て何もわかっていないことを察したのだろう、クロウ先生が説明してくれた。
「二人は俺たちの訓練をかぎつけて待ち伏せしてたんだ。なんでお前が急に魔法の練習をしだしたのか、気になるんだと」
「それは……」
もちろん、マギスの特任講師として、魔物と戦うときに自分の身を自分で守れるようになるためだ。
でも、生徒たちにはそれを言ってはいけない。
魔物との戦いは、世間に知られない極秘の任務。
二人にバレたら、そのせいで巻き込むことにもなりかねないから。
まぁ、イレーネちゃんには前に目撃されてしまってるんだけど……それはともかく。
この場では、いい感じに言い逃れしなくては。
「ええと、戦いを……そう! 魔法の大会に、出ることになって――」
「ええ? ルーナ先生が?」
すぐさま、ロナウドが不審そうな顔になる。
当然だ。魔法の苦手な私が魔法大会に出るなんて、苦し紛れの嘘でしかない。
しかしクロウ先生が助け舟を出す。
「先生として、いつまでもへっぴり腰じゃ示しがつかないからな。仕事の一環として、挑戦してもらうことになったんだ」
「ぐっ……」
へっぴり腰と言われて思わず反論したくなるが、余計なことは言わない方がいいだろう。
私は言葉を抑えて、クロウ先生の言葉に頷く。
「あー、クロウ先生の無茶振り教育ってことね。わかるよ、ルーナセンセー……」
兄弟弟子として察するものがあったのだろう。
クロウ先生の言葉を聞いたとたん、ロナウドは遠い目をして頷いた。
隣でアメルくんも、ホッとした顔になる。
「じゃあ、僕のせいじゃない……?」
予想外の言葉に、私は目を丸くした。
思わず大きな声が出る。
「まさか! アメルくんのせいなんて、全然ないよ!」
アメルくんの課題解決も、もちろん重要だけど。
私が毎日のように演習場に缶詰になっているのは、彼のせいではない。
私の言葉にアメルくんは息をついて安心している。
なんとなく、話の流れが見えてきた。
私はアメルくんの方に向き直り、頭を下げる。
「心配させてごめんね。私の事情とは関係なく、アメルくんの授業はちゃんとやるから! 一緒にがんばろう!」
これからも彼らには嘘をつき続けることになるだろう。
心が痛まなくはないけれど、魔物退治も塾の先生も、私は両方やりきりたい。
がんばろう、と言い切った私に、アメルくんは頷く。
クロウ先生が優しく息を吐く音が聞こえた。
「一件落着だな。さ、今日の特訓を始めるか」
クロウ先生が肩をすくめて言う。
そこにロナウドが手をあげてアピールを挟む。
「俺も俺も! 最近の二人、ピリピリしてて怖いから! 優しくしてほしいなっ!」
「……はいはい。善処するよ」
「ちょっと! 全然本気にしてないっしょ!」
適当に頷くクロウ先生に、ロナウドは文句を続ける。
しかしクロウ先生は構わない。
座っていた切り株から立ち上がり、私と二人の生徒を、訓練用のグラウンドに先導する。
「どうせ学校はサボったんだ。ルーナの特訓を応援してやってくれ」
「あ、やっぱりサボりだったんだ……」
私の咎めるような視線を受けて、二人の生徒はそれぞれ気まずそうに目を逸らした。




