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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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3.初めての図書館?

 動力魔法のかけられた自動扉を通り抜けると、本特有のにおいが私たちの鼻を満たす。

 平日のお昼間の図書館には、人影はまばらだ。


「ここが、図書館……」


 目の前に連なる大きな本棚の列を見て、メディナちゃんはぼんやりと呟く。

 その様子は、まるで図書館そのものを初めて見たような反応だ。


(……そんなわけないか。どんな田舎にも図書館くらいはあるよね)


 私は故郷のことを思い出す。

 

 王都のこんな大図書館とは大違いだが、私の故郷にも図書館はあった。

 私が魔物図鑑を擦り切れるまで読んだ場所でもある。


 懐かしい記憶を思い浮かべながら、私はメディナちゃんを先導して進んでいく。

 ここに来るまでの道中で、なんとなく本に目星はつけてある。


「人探しに役立つ本と言えば……メディナちゃん。探してるその人って、魔法使いかな?」


 メディナちゃんは少し考えるそぶりを見せた。

 情報も曖昧なようで、首をかしげながら答える。


「たぶん……?」

「多分かぁ」


 返事にがっかりしながらも、私は書架の合間を縫って、図書館の奥へ向かう。

 そして、背の小さなメディナちゃんと比べれば三倍近くありそうな、大きな本棚にたどり着く。

 

「確かここの一番上に……」

 

 大人でも最上段の本を取ろうと思ったら踏み台か飛行魔法が必要だ。

 

 嬉しいことに、魔導師免許がない人でも図書館を利用できるよう、図書館には踏み台が常備されている。

 私は近くの踏み台を動かして、目当ての本の下まで移動させる。


 そして、台の上から手をめいっぱい伸ばして、一冊の厚い本に手を伸ばした。


「魔法使いならこの本に――きゃあっ!?」


 引っ張り出した本は、私の予想以上に重かった。

 バランスを崩し、私は踏み台から足を滑らせる。


「あぶない!」


 メディナちゃんが、私と地面の間に体をすべりこませる。

 受け止めようとしてくれたのだ。


 その方が危険な気がする――と思ったのも束の間、私の体はふわりと抱きしめられた。


「え――」

 

 私を受け止めたのは、メディナちゃんの髪だった。

 長いもこもこの黒髪が、意志を持ったようにうねり、私がこけるのを止めてくれたのだ。


「あ、あり……がとう……」

 

 感謝の言葉は、つい尻すぼみになる。

 髪の毛を自由自在に動かす魔法なんて、聞いたことがない。

 

 私の頭の中に浮かぶのは魔法の名前ではなく、()()の名前だった。

 

(今のって……メドゥ――)


「ルーナ先生! まずいアメル、先生が襲われてるっ!!」

「だっ、大丈夫ですかっ!?」


 瞬間、図書館には似つかわしくない騒がしさで、二人の少年が転がり込んでくる。

 ロナウドとアメルくんだ。


 二人の言葉を聞いて、メディナちゃんは焦ったように髪をもとに戻す。

 私の体は、足場から降りたところで安全に解放された。


「違うの、助けてもらった、の……だよね? うん」


 半ば自分に言い聞かせるように、私は二人に状況を説明する。

 この本を取ろうとしてつまずいたの、と話しながら、床に落ちた重い本を拾い上げた。

 

 私は気持ちを切り替えて、本を書見台に置き、メディナちゃんに向き直る。


「メディナちゃん。これ、王都の学校を卒業した魔法使いの名前がたくさん載ってるの。フルネームと年齢がわかれば、探しやすいんじゃないかな?」

「ありがとう……探してみる。あの人たちは?」


 メディナちゃんに聞かれて、私はロナウドとアメルくんの方を改めて振り返る。

 二人はまだ心配そうに、私とメディナちゃんのやりとりを見守っていた。

 

 今は魔法学校の授業時間のはずだけれど、どうして二人がここにいるのか。

 それに、どうして私を探しているのだろう。


 私の言葉なき疑問に答えてくれたのはロナウドだった。


「クロウ先生が演習場で待ってるよ。超怒ってたんだから」

「えっ」


 ひやり、私の顔から血の気が引いていく。

 時計を見ると、もう特訓の集合時間から45分も過ぎていた。


「まっ……まずい!! 行かないと!」

 

 焦ってメディナちゃんの方を振り返ると、彼女はぎこちない笑顔を浮かべた。


「これでさがしてみるから、大丈夫。ありがとう、ルーナ」


 その表情に安心して、私も笑顔を浮かべる。


「うん! 見つかるといいね、オブシディアさん!」


 最後にそう言葉を交わして、私はロナウドとアメルくんに促されるまま、メディナちゃんの前を去る。


 図書館を出たところで、ロナウドが尋ねる。


「さっきの子は?」

「迷子だったの。マギスの近くの路地裏で泣いてて……人探しをしてるって」

「オブシディアね。ルーナ先生って、けっこう魔法以外も抜けてるよな」


 突然ロナウドにけなされて、私は目を丸くする。

 意味もなく悪口を言ってくる子ではない。

 何かやらかしていただろうか?


 きょとんとする私を見て、ロナウドくんはけらけら笑った。


「クロウ先生かもよ。苗字、オブシディアじゃん」

「……あ!!」


 てっきり名前がオブシディアなのだと思っていたから、思いつきもしなかった。

 ロナウドの言う通り、クロウ・オブシディアというのがクロウ先生のフルネームだ。


「確証はないけどね」

「もしそうなら魔法学校の卒業歴でわかるから、いいんじゃない……ですか?」


 アメルくんがおっとりした調子で言う。

 その言葉に、私の脱力感はいくらか救われた。


(でも、だとしたら。どうしてあの子がクロウ先生を……)


 後ろ髪をひかれるが、二人に早く演習場に向かうように急かされる。

 よほどクロウ先生は怒っているのだろう。


(ごめん、メディナちゃん。また特訓のあとに、いろいろ考えるね……!)


 私はこっぴどく叱られる覚悟を決めて、マギスの学び舎に向かった。

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