■ロナウドの気がかり
ロナウドは不満を抱えていた。
マギスの学び舎歴、5年。
一年生の時から塾に通っている、数少ない生え抜きの生徒の一人であるロナウドは、この“マギスの学び舎”という塾のことを知り尽くしている。
そこらの講師よりも、ずっと長くここにいる。
最近講師デビューを果たしたルーナ先生だって、生徒の頃と先生の頃、合わせて4年。
ロナウドより年上ではあるが、ことこの塾に通った日数だけでいえば、ロナウドの方が先輩だ。
ゆえにこそ、ロナウドには不満だった。
マギスの学び舎のエントランスに置かれた、生徒用の待合席。
授業開始より少し早くそこに到着したロナウドは、のんびり体をくつろがせながら、ため息をついた。
(最近、クロウ先生もルーナ先生も妙にピリピリしてるんだよな。二人ともまるで実践魔法の授業のあとの学生みたいに、疲れた感じで出勤してくるしさ……)
少し前まで、喧嘩でもしたのかと思うほど、クロウ先生とルーナ先生はよそよそしかった。
それが治ったと思ったら、今度は謎の緊張感が生まれている。
二人とも、何かに疲れたような顔をして、いつもの覇気や明るさがない。
(二人が元気ないとつまんないんだよなあ。俺の大事な話し相手だから)
クロウ先生の生徒であるロナウドは、ルーナ先生にも出会うたび必ず声をかけている。
半年前まで同じくクロウ先生に魔法を教わっていたルーナ先生は、ロナウドにとっては姉弟子のようなものだ。もしくは妹弟子。
その二人が二人とも参っているとなると、ロナウドまでついつい気が滅入る。
しかし何日待っても、彼らの不穏な空気が消えることはなかった。
このままでは、塾にくることすら憂鬱になりかねない。
しびれを切らしたロナウドは、決意する。
自らの手で二人の先生に起こっている何かを見つけ出し、解決してやる――と。
(とはいえ何から手をつければ……って、あれは)
悩むロナウドの視界に入ったのは、一人の少年。
ルーナ先生の生徒である、二年生の男子だ。まだこの塾には来るようになって日が浅い。
というか、ちょうど彼が来たのと、クロウ先生とルーナ先生がよそよそしくなったのが同時期ではなかったか。
もしかしたら、何か知っているかもしれない。
ロナウドは、持ち前のコミュニケーション能力を惜しみなく発揮して、笑顔で少年に声をかける。
「なあ、そこのお前! 青髪の! 名前、なんだっけ!?」
「うへ!? は、はいっ。アメルですっ」
突然声をかけられ、アメルは肩をびくつかせながら名乗った。
まだ年若いアメルは先輩と話すことに慣れていないのか、目線をさまよわせている。
「んー。でも、問題児じゃなさそうだよなぁ」
「え、えっと……?」
しまった、思ったことが声に出ていた。
ロナウドは笑顔を浮かべてごまかしながら、アメルに尋ねる。
「なんでもない。それよりアメル、お前ってルーナ先生の生徒だよな?」
「はい。教えていただいてます」
「最近のルーナ先生、なんかおかしくねぇか?」
回りくどく話すのは得意ではない。
ロナウドは単刀直入に、アメルに聞いてみた。
しかし、失敗だったかもしれない。
瞬く間に、なんの脈絡もなく、アメルは目に涙を浮かべはじめた。
「え、ええ!? 俺なんかマズいこと……いや! 悪い!!」
わけもわからず咄嗟に謝罪するロナウド。
だが、アメルは首を振った。
「違うんです。ただ……やっぱり、知ってる人から見てもそうなんだ、と思って」
「じゃあやっぱりアメルも……」
「はい! きっと、きっと僕のせいなんです!!」
こらえきれずにアメルの瞳から涙がこぼれる。
ロナウドは焦りながらも、ポケットの中でくちゃくちゃになっていたハンカチを、アメルに差し出した。
「……ぐすっ……ぼく、見ちゃったんです……」
泣きながらアメルが話すのは、ある日の授業開始前の出来事だった。




