14.雷の永久機関
三人の手練れの魔法使い。
それを相手取ってなお、雷の”原種”ハイサンダーウルフは少しも怯みを見せなかった。
先生たちはハイサンダーウルフをいなしながら、隙を見つけて空に向けて雷魔法を打つ。
魔法で作られた雷雲は、ウルフだけを撃ち抜く雷を落とす。
その雷の力は確かに、ウルフの腹の中にたまっていく。
しかし、ハイサンダーウルフは満腹になるより早く、自分の中にたまった雷を、技として体の外に放出してしまうのだ。
戦う先生たちの顔には、汗がにじみ始めていた。
「これじゃキリがない……!」
「キリがないどころか、威力があがっているよな……!?」
体内で雷を増幅して、放出する。
それがハイサンダーウルフの戦闘能力の肝だ。
「それに、雨のせいで雷が拡散する! この雨雲、デメリットの方が大きいよ!」
最前線で戦うナタネ先生が悲痛な声をあげる。
わざと降らせている雨で、地面も先生たちの服も濡れている。
ハイサンダーウルフの放つ雷は水を伝って、確実に被害を拡大させていた。
防御や回避にもたくさん魔法を使うので、先生たちはただ攻撃する以上に魔力を消耗している。
このままでは、こちらの力が枯れて根負けするのを待つだけだ。
でも。
私はただ一人、冷静な目で戦場を見つめていた。
雨雲に向ける雷魔法。
降り続く雨。
水を伝うウルフの雷。
城門の前で、同じく人工の雷を試したときを思い出す。
クロウ先生の落とそうとした雷は、避雷針に阻まれて届かなかった。
(逆に、あいつの雷を避雷針に吸わせれば――)
私は、不利を悟りながらも戦いを辞めない先生たちの背中につられるように、物陰を飛び出す。
足は震えている。
でも、みんなのピンチに、私だけ戦わないわけにはいかない!
「先生!!」
「ルーナちゃん!?」
「策があります! 私のこと、どうにか守ってください!!」
無茶ぶりだ。
何もできないのに、自分から死地に飛び込んで、守れだなんて。
それでも、先生たちは即座に対応してくれた。
私の体がふわりと軽くなる。いや、足の力が強くなったのだ。
ナタネ先生のかけた強化魔法が、私の身体能力を何倍にも底上げする。
近づいてきた私に向けられた雷魔法は、私の肌に傷一つつけなかった。
ミリカ先生が付与してくれた土の魔力でできた鎧が、私の体を守っている。
二人とも、全力だ。
自分の防御を捨ててまで、私を支援してくれている。
雷が効かないことを悟ったハイサンダーウルフは、その腕を振り上げて、長い爪で私を切り裂こうとする。
鋭い攻撃を、クロウ先生の体が私の代わりに受け止めた。
その手に握られるのは、風の剣。魔法で作った、即席の近接装備だけで、クロウ先生は魔物の一撃を押し切る。
「やってみろ、ルーナ!」
「はい!」
クロウ先生は、私のことだってちゃんと信じてくれている。
私がマギスの講師になると言ったとき、先生は言った。
私も、いい先生になれるって。
「水よ――この世を巡る潤いの源よ。天より落ちる恵み賜り、我はまた天に恵みを返す者――」
雨粒が、時間を忘れる。
水魔法は、水を生み出す魔法。
でもそれは、魔法使いの手のひらのうえ、無から水が湧き出ているわけではない。
厳密には、空気中にある水蒸気を操っているのだ。増幅させたり、凝縮させたり、そういうの。
なら雨の中なら。
魔法が苦手な私でも、水を操るだけなら。
いつもより高度なことができる。空から降る雨を操れる。
雨と雨を繋ぎ、糸のような一本の水を作り出す。
それを何本もまとめて、編み合わせる。
細い、細い一本。
それでも、私の視線くらいの高さから雨雲まで伸びる、水の柱が完成する。
まるで、空から逆さまに伸びる避雷針のように。
「なるほどな」
クロウ先生は私の作ったものを見て、納得したように口角をあげる。
私の隣にやってきたクロウ先生は、即座に私の真似をして、雨を操る。
「……ちょっと、そんな簡単にやられると傷つくんですけど!」
と言いながらも私は後をクロウ先生に任せて、その場から逃げる。
これ以上魔物のそばにいるのは、みんなの守りがあっても勘弁だ。
クロウ先生の繊細で素早い魔法のおかげで、あっという間にハイサンダーウルフは雨の避雷針に取り囲まれた。
いらだったように、ハイサンダーウルフはバリバリと雷を放つ。
「おう、やってみろ」
クロウ先生は避雷針の向こう側で、挑発するように手招く。
ハイサンダーウルフは、まんまと雷を放った。
――バチバチバチバチ!!
雷がすべて、雨を伝ってその上の雨雲へ吸い込まれていく。
そして、再びハイサンダーウルフの頭上に降り注ぐ。
「すっごぉい! 永久機関だぁ!」
ミリカ先生が、感激したように叫ぶ。
「厳密にはエネルギーの損失が――」
「今そういうのいいって、クロウ」
「……だな」
雨の避雷針に向けて電撃を放ち続けたハイサンダーウルフは、自分自身の雷を自分で浴びて、満足そうに喉を鳴らした。
人の力で雷を送るよりも、ずっと早い充電だろう。
やがて、その場で体を丸め、満足そうに寝息を立てはじめる。
クロウ先生は、誇らしげに口の端をあげた。
「やったな。お手柄だ、ルーナ」
「……は、はい!!」
私は安心感からその場にへたり込み、震える肩を自分の手で抱きしめるように押さえるのだった。




