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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第2章 魔物嫌いの葛藤と決意

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12.まさかの肉体労働

「演習場か。かしこいな」


 私の言葉に、クロウ先生は感心したように頷いた。

 

 演習場は、マギスの学び舎の地下に広がる巨大な魔法空間。

 あそこなら建物もないし、市民を危険に晒してしまう危険もない。

 さらには地形・天候も、空間を展開している魔法陣の設定をいじれば、簡単に変えることができる。


 ハイサンダーウルフに雷を食べさせるために、最適な空間。

 学生時代、演習場に入り浸っていた私だから思いついた作戦と言ってもいいかもしれない。


「しかし問題はどうやって運ぶか、だな」

「え?」


 難しい顔をするクロウ先生に、私は思わず目を丸くする。


「……それは、飛行魔法とか転移魔法でこう、スイっと?」


 マギスの学び舎の出入り口は人間用なので、ハイサンダーウルフの巨体を通すことはできない。

 だから私は魔法で運び込むことを当然のように想像していたが、そう言うとクロウ先生は露骨に嫌そうな顔をした。


「お前……その魔法は誰が使うつもりなんだ」

「え? いやいや。私には無理ですよ? 魔物が突然王都のど真ん中にワープしてきたり、空を飛んで宇宙まで行ったりしたら困りますよね?」

「飛ばせるものなら宇宙まで飛ばしてほしいくらいだが」


 クロウ先生は目を細めて、私を説教するときの顔をしていた。


「つまり、俺にやらせようって魂胆だな。悪いけど無理だ」

「えっ。なんでですか。魔法と言えばクロウ先生、転移くらい朝飯前でしょう!?」

「同時に同じ対象にかけられる魔法は、一つまで。飛行魔法も転移魔法も使えるが、その瞬間硬化が解けるぞ」

「な――」

 

 私は絶句する。

 それはだめだ。絶対だめだ。硬化魔法が解けてしまったら、空を飛びながら、もしくはワープしながらだとしても、私がぱくりと食べられてしまうかもしれない。

 先ほど食べられかけたときのことを思い出して、私の体は縮み上がる。


「だめ! だめです絶対に!!」

「そうだろうな」


 私が魔物の前でこんな風に平気でいられるのは、魔物が石のように灰色になって固まってくれているからだ。

 動く魔物を前にしたら、また腰が抜けて立てなくなる自信がある。


 目を白黒させながら代替案を考える私に、クロウ先生はため息をついた。


「魔法が無理なら、手段は一つしかないだろう」


 手段。思い当たらず首をかしげると、先生は固まったハイサンダーウルフを指差し、淡々と言った。


「運ぶぞ。自分たちの手で」

「えええー!?」



   *   *   *



「はあ、はあ……ちょっと、ストップ。休憩……」

「あと10分しかない。休憩は30秒までだ」

「そんなぁ!」


 私は悲痛な声をあげる。対してクロウ先生は涼しい顔である。

 

 数百キロはありそうな岩の塊と化したハイサンダーウルフを、ロープでくくって引きずる。

 城門の倉庫から拝借してきた丸太を地面とウルフの間に挟んではいるが、雨の中、石畳の上をごろごろ進むのはかなりの重労働だ。

 

 クロウ先生に下手に魔法を使わせて、石化魔法のほうが解けたら困る。

 だから、私が申し訳程度の強化魔法を、自分とクロウ先生にかけてある。


「もうちょっと強化魔法が得意ならなぁ……」


 強化魔法は対象者の力や頑丈さを、何倍かに押し上げる魔法である。

 上手な人なら十倍、百倍とパワーアップできるけれど、私はほんの2、3倍にしかできていない気がする。

 

 クロウ先生はもともと体力があるから、それでも大丈夫なのだろうけれど。

 

 30秒経ったのでクロウ先生はまた有無を言わさず歩き出す。

 私は言葉にならない非難の声をあげながら、そのあとに続くのだった。


 

 それからまた5分以上は歩いただろうか。

 やっとマギスの学び舎の建物が、遠くに見えてくる。


 そのころには街から人の気配が消え、いつも歩いたり飛んだりしている無害な魔物たちも姿を見せなくなっていた。

 薄暗い雨の王都は、異様な雰囲気を放っている。


「あと3分だ。塾長を呼んで、空間を開けてもらってくる」


 クロウ先生は手元の時計で時間を確認したあと、私を置いて一度建物の中に入っていった。

 

 ここまで手作業で運んできたが、マギスの玄関から演習場まで、ハイサンダーウルフがこのまま通れる道はない。

 塾長の魔法で、道を開けてもらうようだ。


(……ん? んん? でも待って、それなら……)


 最初から塾長なり、他の特任講師の誰かなり、呼びに行けばよかったのではないか。

 それならこんな肉体労働をする必要もなかったんじゃ。


 私の脳内が、そんな仮説を導き出す。

 私は首を振って、その考えを吹き飛ばした。


(いや、これが最善策だったってことにしよう)


 そうじゃないとこの疲れが無駄だったことになってしまう。

 

 大きな見ないふりを決めた私の目の前で、マギスの学び舎の入り口の木製扉が、ぐにゃりとゆがむ。

 あっという間に、扉はこれまでの3倍はあろうかという大きさに広がった。中から扉が開く。


「さぁ、あと一分だ。もうひと頑張りだぞ!」


 中からクロウ先生が走って戻ってきて、魔物につながったロープを手に取る。

 私ももう一本のロープを手に取って、マギスの入り口へ向かう。


 開いた扉から見える室内の様子は、暗い中に光の強いちらつきがあってよく見えない。

 

 少なくとも、普段のマギスのエントランスの様子ではない。

 転移魔法が繋がっている証拠だ。

 

「間に合えー! できればついてから私が逃げる時間もありますようにーっ!!」

 

 私たちは魔物もろとも、異空間につながるその扉へと突っ込んでいったのだった。

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