11.打開の一手
タイムリミットは、たったの30分。
それまでにハイサンダーウルフをどうにかしないと、王都は端からだんだん破壊されていくだろう。
王国の兵士が出てきて、住民の避難誘導を始めている。
雨の中、固まった魔物の目の前で立ち話をしている私たちは、最初は兵士たちにぎょっとした顔で見られた。
しかし兵士たちはクロウ先生の顔を見るなり安心して去っていった。
クロウ先生が言うには「日常茶飯事だ」とのこと。
避難する住民たちが雨を避けながら王都の中心へ続く坂道を上がっていく。
その向こう、丘の上では雷がごろごろと鈍い音を響かせていた。
私の頭の中で、知識と状況が繋がる。
「雷がほしくて、この魔物は王都にきた……」
「そうなのか?」
私のひとりごとに、クロウ先生が反応する。
「だと思います。主食が雷なので。だから、このままでは目覚めたらすぐに丘の上に向かってしまうかも」
「雷雲があそこにあると不都合ってことか。……気象魔法ってのがあるにはあるが、間に合わないな。王都中の魔導師を集めたとしても、30分で足りるかどうか」
「気象魔法ってそんなにすごいものなんですか!?」
いつか魔法理論の教科書に出てきたのを見た記憶があるが、まさか儀式級の魔法だったとは。
あてが外れてうなだれる私の横で、クロウ先生もうなる。
「雷、か。天候操作……もしくは、人工的な電力でもいいなら――」
いったんクロウ先生は言葉を切った。
そして、雨の降り続く空に向けて、右手をかざす。
「雷よ。天の統べる、人智の及ばぬ力よ――」
突然の詠唱。
そして次の瞬間、クロウ先生の手から空に向かって、するどい光が走る。
何が起こったのかわからず、私はただ空とクロウ先生を見比べて、数秒後。
――バリバリバリ!!!
遠くで鳴っている鈍い雷とは違う、空気を裂くような電撃が空から落ちた。
クロウ先生が魔法で引き起こした雷は、近くの建物の屋根に設置された避雷針に吸収される。
「ダメか。いい策だと思ったんだが」
人為的に起こした雷をハイサンダーウルフに食べさせる。
クロウ先生はそう考えたのだろう。しかし、上手に雷を操るには、ここでは障害物が多すぎる。
私たちのいる城門前の大通りには、ハイサンダーウルフの体長より高い、三階建て以上の建物がかなり多かった。
「建物の上に乗られて壊されても困るしな……」
自分の策が失敗に終わって、クロウ先生は残念そうにため息をつく。
しかし、私の目は輝いていた。
確かに、ここならクロウ先生の作戦は上手くいかない。
だけど、逆に言えば場所の条件さえ整えれば、なんとかなる。
おいしい雷をハイサンダーウルフにご馳走して、心を落ち着けて家に帰ってもらうのだ。
正直、マギスの学び舎の特任講師の3人――いや、私を入れて4人。
その総力を合わせても、正攻法ではハイサンダーウルフは倒せないと思う。
だって、相手は“原種”。雷属性の魔物の中で一番強い、いわば雷の王みたいな存在だ。
だから倒すことは考えない。
クロウ先生がおそらく本能的に選び取ったその選択肢は、私にもしっくり来た。
「ねぇ、クロウ先生。開けた場所と雨雲さえあれば、ハイサンダーウルフが満腹になるまで雷をぶつけられますか?」
「――ああ」
自信ありげな私の表情と声色に、クロウ先生も気づいてくれたみたいだ。
迷いなく頷く先生に、私は提案した。
「なら――この魔物を、硬化が解けるまでに演習場に運び込みましょう!」




