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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第2章 魔物嫌いの葛藤と決意

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5.相談事の行き先

 その日から私は、トマリ先生とよく話すようになった。

 

 最初はそんなに頼るつもりでもなかった。一度話を聞いてもらおう、と思ってアメルくんの話をかいつまんで伝えたのだ。


「実は、新しい生徒の授業がうまく行ってなくて……」

「うまく行ってない、って。早くないっすか? アメルくんだっけ。入ったの最近っすよね」

「そうなんですけど。私にうまくやれる見込みがないっていうか、自信がなくて」


 そんなことを言った気がする。

 トマリ先生はしばらく考え込んでから、一言。


「ネガティブは敵っすよ。時間かければなんとかなるって、思い込むことが大事っす!」

 

 具体的な解決にはつながらないけれど、私の心はその言葉で確かに軽くなった。

 それからというもの、トマリ先生の方から気にかけて、話しかけてきてくれるようになったのだ。


 クロウ先生のように根本から問題を解決してくれるわけではないけれど、その分説教くさくもない。

 持ち前の明るさで、私の心を軽くするような言葉をくれる、トマリ先生の存在はありがたかった。

 私も、見栄なんか張らなくてよくて安心する。クロウ先生と距離ができてしまっている今は、特に。


 今日も授業終わり、互いに講師控え室にいるお互いの姿を確認する。

 大抵こういうときは、トマリ先生から声をかけてくれるのだ。

 

「ルーナちゃん、おつかれっす。今日も愚痴大会、行くっすか?」

「おつかれさまです。はい、ぜひ」


 最近は愚痴大会と称して、授業終わりにマギスから少し離れた飲食店街で食事をしながら話すのが定番となっている。

 二人の出勤が被った日には、ほとんどそうしているかもしれない。

 

 愚痴大会と言っても、そんなにダークなものじゃない。

 日常の困りごとを話しながら、お互いを励まし合うだけの会だ。楽しくご飯を食べているだけ、とも言えるだろう。


「いい店見つけたんすよね〜」


 そう言いながら軽やかにマギスを出ていくトマリ先生について、暗くなっていく街へ出る。

 今日も今日とて外は雨だが、私の浮わついた気持ちはそれくらいでは沈まなかった。

 

 マギスの授業は王立魔法学校の放課後に始まるので、終わる頃にはもうすっかり夜だ。

 飲食店街を通りかかると、あちこちからいい匂いがしてきてお腹がくうと鳴る。

 その音に気づいたのか気づいていないのか、トマリ先生は笑顔を浮かべて一軒の店を指差した。


「あそこっすよ」


 トマリ先生が指し示す先にあるのは、一軒の寂れた酒場だ。

 店内が見えるようになっているが、ほとんど客はおらず、店員同士が談笑しながらちびちびお酒を飲んでいるのが見える。


「ここ、ですか……?」


 つい怪訝そうな顔をしてしまった私に気を悪くすることもなく、トマリ先生は先導して店に入っていく。

 クロウ先生なら今の態度を咎めずに店に入ることはないだろうな、と、一緒に食事なんか行ったこともないのに比べてしまった。

 私は頭を振って変な考えをかき消し、トマリ先生の後に続く。


 店内はお世辞にも綺麗とは言えない、椅子も机も乱雑に並べられた広いだけの空間に、客はまばら。

 そんな中トマリ先生は慣れた様子で壁際のテーブルに座り、手を挙げてウェイターを呼んだ。


 はたから見ればカップルに見えるのかもしれない私たちを見て、店員さんたちの方が驚いている。

 ここは若い男女二人組が来るような店ではないのだろう。

 トマリ先生はちっとも気にしていないみたいだけど。


「すいませーん。スタンピードセット、お願いしますっす!」


 物騒なセット名をトマリ先生が口にしたその瞬間、ウェイターの目の色が変わる。


「その注文、どちらで?」

「え? 前も来たんすよ。先輩に連れて来られて食べたっす!」


 一気に迫力を増したウェイターの言葉に、トマリ先生は何気なく答える。

 確かに、壁に貼られたメニューの中にスタンピードなんて言葉は見つからない。

 きっと、裏メニューというやつだろう。


「……承りました」


 平然とした態度のおかげで、ウェイターを納得させることに成功したらしい。

 私は首を傾げて、小さな声でトマリ先生に尋ねる。


「スタンピードセット? って、なんですか?」

「出てきてからのお楽しみっすよ。大学の先輩に教わった、大人の嗜みっす」


 トマリ先生は魔法学校を出てから、さらに上の魔法大学まで通っているエリートだ。

 マギスの講師をしながら大学の勉強もして、忙しいだろうにこうして私のことまで気にかけてくれる。


 親切で人の悩みがわかる優しい人なのだと、私は信頼しきっていた。

 今日、この瞬間までは。


「こちらスタンピードセットの前菜、グロウバードの刺身でございます」


「……え?」


 ウェイターが私たちの目の前に皿を置いて去っていく。

 新鮮なピンク色の生肉は、新鮮すぎてまだうっすら光っている。

 たびたび街で見かける、羽を光らせた白い鳥型の魔物を思い出した。


 グロウバード。グロウバードの刺身って、今そう言ったよね?


 まさかそんなわけない、と皿に落とした視線を外して、トマリ先生の顔を見上げる。

 縋るような私の視線を受け止めて、トマリ先生はにっこり笑った。


「驚いたっすか? ここ、魔物料理が絶品なんすよ!」

 


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