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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第1章 王都の塾講師の秘密

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3.クロウ先生との出会い

 私がクロウ先生と出会ったのは十五歳――つまり、王立魔法学校の三年生のときだ。

 

 それまで私は、魔法学校での勉強にそんなに遅れていなかった。

 魔物恐怖症は昔からだが、勉強する分には何の問題もない。筆記テストはむしろ得意な方だったと言える。

 

 でも、三年生になって本格的な実践魔法の授業が始まると、私はどんどん置いていかれた。

 魔力の操作は大雑把なうえ、どんくさい。このままじゃ落第してしまう。

 危機感をおぼえた私はまず、故郷のお母さんに泣きながら手紙を書いた。王立魔法学校の寮で生活していたので、お母さんとは長らく会っていなくて余計に泣けた。

 そんな悲しい手紙を見たお母さんが見つけ出して、紹介してくれたのが、この塾、マギスの学び舎だった。

 

 何が素晴らしいって、魔法を練習するための演習場がついている。

 本来、魔導師免許を持たない学生は、学校の外で魔法の練習をすることができない。

 しかし、マギスの学び舎では、国の認可の元で放課後でも存分に魔法を練習できる。

 

 無事に進級するためには、ここで死に物狂いで魔法の練習をするしかない。

 そう思って、四年前の私はこの塾の門を叩いた。

 そして、他の教科はいいから実践魔法を教えてほしい、と相談した私についてくれたのが、クロウ先生だったのだ。


 正直に言うと。最初の方はかなりクロウ先生のことが怖かった。

 表情の読めない顔と、猫背で寡黙な雰囲気。ぶっきらぼうな態度は自分が嫌われているかのようでビクビクした。

 マギスの他の生徒からも、あの先生怖いよね、ルーナちゃん可哀想に、と言うのが満場一致の評価だった。

 

 今でも覚えているのは、最初の授業のとき。私の通知表を一瞥して、クロウ先生は淡々と言った。

 

「成程。座学はできるタイプか……特に生物」

「は、はい。生物は、魔物学が得意で」

 

 このときの私は魔物に怯えるあまり魔物の勉強に傾倒していた。クロウ先生は詳しく聞かなかったが、代わりに首を傾げて呟く。

 

「ならなんで実践魔法が使えないのか」

 

 ぎくり、私は固まった。完全に存在を否定されているようで、何も言えなかったのを覚えている。

 教え方は上手だが、怖い先生。それが第一印象。

 変わったのは、私がマギスに通い始めてから1年くらい経った、ある夏の日だった。

 

 その日私はマギスの授業がない日で、本当なら学校から少し離れたところにある寮まで、まっすぐ帰る予定だった。

 しかし、帰りのホームルームで担任の先生が言ったのだ。

 

「今日、王都の城壁内で野生のサンダーウルフの目撃情報があったそうだ。気をつけて帰るように」

 

 王都では、凶暴な魔物の侵入を防ぐために、都市の外周に沿って分厚い壁が設けられている。しかしそれを破ったのか、誰かが持ち込んだのか、ウルフ種の魔物が中まで入ってきたという。

 サンダーウルフはウルフ種の中では小型で、もふもふしたかわいらしい魔物だ。危機を感じたときに雷を放つ以外は。

 

 クラスのみんなが平気な顔をして帰っていく中、私は動けなかった。

 完全下校の時間になって、学校を追い出された私は、震える足でマギスの学び舎に駆け込んだのだ。だって、寮よりマギスの方が、学校から近いから。

 

「あれ」

 

 今日は休みだよな、と言う代わりにクロウ先生は自分の手元にある時間割表と私の顔を二、三回交互に見た。

 

「あ、えっと……あのっ……かくまって、ほしくて」

「……は?」

 

 このときの私はまだクロウ先生のことをわかっていなかったから、きっと笑われると思った。でも、意を決して打ち明けた。

 

「私……魔物が、苦手でっ。家まで帰れなくて……」

 

 ぎゅっと目をつむって、次に飛んでくる冷たい言葉に備える。

 でも、いつまで経ってもクロウ先生は何も言わない。

 おそるおそる私が目を開けると、クロウ先生は手に持っていたプリントや教科書を片付けて、出かける準備をしていた。

 

「え……?」

 

 まさか無視? とまで思った。困惑する私に、クロウ先生はぶっきらぼうに行った。

 

「寮まで送っていく」

 

 先生は当たり前のように言うけれど。

 これが、私が魔物恐怖症を打ち明けて笑われなかった、初めての経験だった。

 

 それから、クロウ先生はサンダーウルフが近づいてきたらわかるように繊細な感知魔法を使いながら、私の気が紛れるように適当な雑談をするという、脳が二つないと難しそうな芸当で私を寮まで送ってくれた。

 

「魔物が怖いのに魔物学はできるんだな」

「……怖いあまりに、属性とか弱点を熱心に覚えてしまうんです」

 

 そう言うと納得したように先生は頷く。

 

「なら実践に向かないのも納得だな」

「そっ、それは今言わなくていいじゃないですか」

「ああ、そういうつもりじゃない」

 

 苦手なことを指摘されて凹む私に、クロウ先生はすぐに発言を訂正する。取り繕うつもりもなく、本心なのだと思う。真剣な顔だったから。

 

「できないことはできる人に任せればいい。いつでも頼れ」

 

 ちょうど、寮の前についたときだった。

 その言葉を聞いて、私は知った。クロウ先生は、ちょっと不器用なだけで……とても、優しくて強い人なのだと。 

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