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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第2章 魔物嫌いの葛藤と決意

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1.夏休みの終わり

 暇で暇でしかたなかった、私の夏休みがやっと終わった。


 王都は相変わらず雨に苛まれている。

 どんよりとした蒸し暑い空気のせいで、外に出る気を失った私はほとんど毎日、ベッドの上でぐうたら生活していた。


 二ヶ月近くある王立魔法学校の夏休みを恨んだのは初めてだ。

 こんなことなら帰省の予定でも立てておけばよかった、と何もせずに過ごした無為な日々を悔やみながらも、私は十月を迎えた。


 久しぶりに来たマギスの学び舎。

 その玄関扉を開ける手は、少し……いや、結構重かった。


 そもそも夏休みの間だって、本当なら用がなくてももっとマギスに遊びに行ってもよかったのだ。

 それでも足が向かなかった理由はわかりきっている。

 

 あの日――王都に魔物が襲来した日。私はマギスの特任講師のことを知った。

 クロウ先生たちが人知れず魔物討伐を行い、王都を守ってくれていたことを。

 

 魔物と人間の付き合い方は、しばしば世間でも議論される。

 こちらから何もしなければほとんどの魔物は本来無害であるはずで、共存すべきだとか。

 危ないからある程度は駆除するべきだとか。


 誰も答えを出せない問いだから、きっとマギスの先生たちの尽力が世に知らしめられることはない。

 さながら影のヒーローだ。

 

 尊敬すべきことだと思うが、一方で、次にどんな顔をして先生たちと顔を合わせればいいのか、わからなくなっている自分がいた。

 

 クロウ先生のような頼れる先生になりたくて、マギスの講師になった。

 イレーネちゃんの成績を無事上げることができて、少しは近づけたかもと思っていたのに。

 

 そんなのは勘違いで、クロウ先生たちがずっと遠い存在になってしまったような感覚だけがある。


 クロウ先生みたいになりたい、なんて、魔物恐怖症の私にとっては夢のまた夢だから。

 先生が一瞬で倒してしまった魔物相手に、私は怯え尽くして足を震わせながらちょっとの時間稼ぎしかできなかったし。

 誘ってもらった特任講師への道も、思いつく限り一番キツい断り方で断ってしまったし。


 憂鬱な気持ちで扉をゆっくり押し開ける私に、後ろから声がかかる。


「どうしたんすか、ルーナちゃん。悩み事?」


 慌てて後ろを振り返ると、そこにいたのはマギスの学び舎の先輩講師・トマリ先生だった。

 魔物と戦う特任講師ではない、私と同じ立場の人だ。年もそんなに離れておらず、気さくに話しかけてくれる明るい男性である。


「悩み事……っていうか、久しぶりに来たなぁって。それだけです!」


 私は作り笑いを浮かべて、トマリ先生の追及から逃れる。

 特任講師のことは他言無用だと、塾長から言われている。

 はぐらかすような私の笑顔に、「それならいいっすけど」とトマリ先生は私を追い抜いて講師控え室に向かっていった。


 人から見てわかるほど落ち込んでしまっているのか、と私は反省する。

 まだ授業開始の時間にはなっておらず、生徒がいないからいいけれど。生徒の前では明るい先生でいたい。


 私は首をぶんぶん振って、頭の中のモヤを吹き飛ばす。

 そして、できる限りいつも通りの笑顔を浮かべながら、講師控え室に向かう。


 控え室には先ほど会ったトマリ先生の他に、数名の先生がもう授業の準備を整えてくつろいでいた。

 その中にクロウ先生の姿も見つけ、私は駆け寄って挨拶をする。


「お久しぶりです、先生!」

「久しぶり……か? 一ヶ月かそこらだけどな。まあ、元気そうでよかった」


 ぶっきらぼうな言葉だが、クロウ先生が心配してくれていただろうことは察せられた。

 魔物嫌いの私を、大変な目に合わせたと思っていることだろう。


 内心の悩みを悟らせないように、笑顔で挨拶をすることでクロウ先生の目はごまかせたみたいだ。

 先生は安心したように私の顔を一度見て、その場を去っていった。


「ふう。よかった……」


 なんともなく、普通に話せた。

 安堵から思わず呟いてしまったが、あとから周りの人に聞かれていなかったか不安になって、私はあたりをきょろきょろ見回す。

 

 トマリ先生と目が合った気がして一瞬、ぎくりとした。

 しかし彼は何も聞いてくることはなく、代わりに夏休み明け初めての授業の予鈴があたりに響いた。


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