22.魔物たちの親玉
私たちが外壁の穴の元に着く頃には、先ほどまでの雨が止んでいた。
クロウ先生の言葉通り、ナタネ先生はひとり戦っていた。
その前には私たちが屋上で戦ったのと同じイビルイーターが、何十匹も並んでいる。
私はナタネ先生に向かって大声で叫んだ。
「ナタネ先生! そいつらの弱点は炎です、たまに死んだふりして隙を狙ってくるので気をつけて!」
「ルーナちゃん!?」
私がいる経緯を知らないナタネ先生は、驚いたように声を上げる。
しかし隣のクロウ先生を見て、とりあえずこちらは大丈夫だと察してくれたようだ。
クロウ先生は遠距離攻撃でナタネ先生を支援しながらも、魔物の群れには不用意に近づかず私のそばを守ってくれている。
私の言葉を受けてを炎魔法中心の攻撃に切り替えたナタネ先生は、効率よく魔物を狩っていく。
最初の数的不利が嘘のように、その場にいたイビルイーターはもう片手ほどの数まで減っていた。
しかし、イビルイーターたちも一筋縄ではいかない。
ナタネ先生の技から逃れるように遮蔽物の裏に隠れた彼らは、身を寄せ合って遠吠えをした。
その音につられて、王都に侵入し、街中に散らばっていたイビルイーターが、仲間を守るために再度集まってくる。
倒しても倒してもどこからか応援がやってくるせいで、終わりが見えなかった。
私たちの想像以上に、王都はイビルイーターで溢れかえっているみたいだ。
さらには、街の中心からイビルイーターよりも強い魔力の気配が迫ってくる。
「何か来る・・・・・・!」
ナタネ先生が息を呑むと同時に、彼女の頭上を黒い大型の獣が舞う。
イビルイーターをそのまま大きくしたような体。羽の数が二枚から四枚に増えて、なおさら悪魔っぽいその姿が、曇り空越しに注ぐ太陽の光を覆い隠した。
ただでさえ薄暗い王都に、さらに影が降りる。
イビルイーターの群れを率いているのであろう上位種、カースイーターだ。
迎撃しようとするナタネ先生を、私は慌てて制止する。
「待ってください!カースイーターは魔法すら食べる魔物です、無闇に攻撃すると強化されちゃう!」
「何それチートかよ!」
ナタネ先生は普段では珍しい悪態をついて、一度その場から軽やかに跳び退く。
旋回をやめたカースイーターが真下に突っ込んできて、さっきまでナタネ先生が立っていた地面の石畳をえぐった。
牙を剥き出しにしてグルグルと唸る姿は、まさに悪食の獣である。
「ひいやっぱ怖ぁい!!」
なんて思わず叫んでしまったが、隣のクロウ先輩は冷静だ。ナタネ先生も苛立ってはいるようだがペースは乱れていない。
二人は一瞬視線を合わせ、それだけで意思疎通ができたようだった。
「ルーナ、こいつも弱点は火か?」
「は、はい!」
どもりながら頷くと、クロウ先生はカースイーターを睨みつけた。
「なら食えもしないような特大の炎で、一瞬で焼き尽くす」
「私たちでやる?それとも……」
「ミリカを待つ。俺たちは撹乱しながら、とにかく壁を閉ざすぞ」
「了解!」
二人はテンポよく会話を進め、作戦を決めてしまう。
ミリカ先生がイレーネちゃんとカフェの店主の避難誘導から戻ったら、三人で畳み掛けるつもりだろうか。
ルーナの情報を元に組み立てられた作戦のはずだが、ルーナは一瞬で置いてけぼりにされていた。
やはり先生たちは歴戦の戦士なのだ、と実感する。
すぐにクロウ先生は私に「隠れてろ」と言い残して、カースイーターと、たくさんのイビルイーターが待つ戦場の中心へと駆け出していった。
ちゃんと守ってって言ったのに! と無理やり先生を引き止めたい気分だったが、そんなことをしている余裕がない状況だというのは十分理解していた。
強い魔物を相手にしながら、これ以上廃物の侵入を許さないように破られた城壁を閉じ、都市を守る。
危険で、彼らにしかできない戦いだ。
私は、しかたなくガレキに身を隠して、先生たちの戦いを見守ることにした。




