20.意外な助っ人
魔物と戦うクロウ先生の身のこなしは、それはもうサマになっていた。
かっこいいとかは置いておいて、とにかく戦い慣れている。
しぶとかったイビルイーターたちは、先生の雷撃を二、三発は耐えてみせた。
しかし、反撃の隙はなく、そのうち三匹とも倒れて動かなくなった。
目の前で行われるあまりにスムーズな魔物退治に、私は違和感をおぼえる。
確かにクロウ先生はすごい魔法使いだけれど、複数の魔物相手にこんなに簡単に勝てるものだろうか。
不思議に思いながらも、私はイレーネちゃんとカフェの店主と一緒に、カフェの机や椅子に隠れながら先生の戦いを見守った。
弱点を教える間もなかった、と気づいたのは戦いが終わってからだった。
「お前たち、怪我はないか」
倒れたイビルイーターたちに背を向けて、こちらを慮るように振り返ったクロウ先生は落ち着いている。
息も上がっていないし、片目を隠す髪も、見慣れたローブも雨に濡れてはいるが、何一つ乱れていない。
低級の魔物とはいえ、緊急事態に瀕した魔法使いの姿とは思えなかった。
聞きたいことは山ほどあったが、今はそれよりクロウ先生に伝えなければならないことがある。
「先生……」
「なんだ」
「ハイエナ系の魔物は、死んだふりをして敵を油断させる習性があります!」
「――っ」
私が言ったのと、イビルイーターがクロウ先生の足に噛みつこうとするのは同時だった。
クロウ先生は咄嗟に無詠唱で風魔法を出して、足元のイビルイーターの顎を切り裂く。
グロテスクな光景に思わず目を逸らすと、先生からの怒号が飛んでくる。
「そういう大事なことは早く言え!」
「ご、ごめんなさい、戦いに見惚れてました……」
ハァ、と過去一大きなため息が辺りにこだました。
私の予想通り、カフェだけでなく建物の一階と二階もひどいありさまだった。
テキパキと私たちが通れる道を整備してくれるクロウ先生を、私とイレーネちゃん、カフェの店主の三人で申し訳程度に手伝う。
道中人に会わなかったのは、そもそも誰もいなかったのか、逃げたのか。
誰も魔物に襲われていないことを祈りながら、私たちも外に出た。
雨は先ほどよりますます強まっていて、私とイレーネちゃんが持っていた折りたたみ傘に四人で入る。
「この辺はもう魔物だらけだ。避難所がいくつかあって、案内してる魔法使いもいるから向かってほしいんだが……」
クロウ先生はそう言って、私の方を見る。
言いたいことは大体想像できた。私は渋い顔で答える。
「私が連れていくんですか? 全滅したらどうするんですか」
もし道中でまた魔物に出くわしたら、さっきと同じように無事に対応できるとは限らない。
というか、今せっかくクロウ先生が隣にいるのに、そのそばを離れるなんて考えられなかった。頼れと言ったのはクロウ先生の方である。
「開き直るな……しかたない。他のやつを呼ぶ」
嫌そうにしながらも、クロウ先生は何か魔法を使ったようだった。傘から手を出して、空に手のひらを向ける。
それが終わると、この場でしばらく待つようにクロウ先生は言った。
言われた通りに待っていると、そこにやってきたのはミリカ先生だった。
「ミリカ先生まで……?」
なぜマギスの講師が二人も、と首を傾げる私に、クロウ先生は「あとで説明する」と短く言う。
そのあと、ミリカ先生に簡単に状況を説明しているようだった。
ミリカ先生は快く、店主とイレーネちゃんを避難所に連れていく役を承諾してくれた。それから私の方を見て、一言。
「ルーナちゃんはクロウと一緒にいてね。そこが一番、安心感があるでしょ?」
と、ウインクが添えられた言葉に、私は目を泳がせる。
確かにクロウ先生がせっかくそばにいるのだから、助けてもらおうと思ったけれど。
ミリカ先生の言葉にはなんだか含みがある気がする。
「なっ……全然、私だって入れるなら避難所に行きますけど! 満員かもしれないからっていう、それだけですよ!?」
魔物が出たときの避難訓練は誰よりも熱心にやっているからわかっている。
避難所は魔導師免許を持たない人を優先して受け入れる。私が行ったとしても、定員が埋まっているかもしれない。
そんなに大きな被害にならないことが一番望ましいけれど、もしものときに誰かの枠を押し除けてまで避難所にいようなんてことは考えられなかった。
私の返事を聞いて、ミリカ先生はくすくす笑う。やっぱり少しからかわれていたみたいだ。
頬が熱くなるのを感じている私とは対照的に、クロウ先生はいつもの無表情で少し、首を傾げる。
「無事帰せばいいんだろ。最初からそのつもりだが……」
「ああうん、じゃあいいのよ。クロウはそういうやつよね」
「どういうことだ。俺のことはいいから早く送ってやってくれ」
鈍感なクロウ先生にため息をついて、ミリカ先生は歩き出す。
イレーネちゃんとカフェの店主を連れて、私たちがさっき来た道を歩いていくのだった。
一つ傘の下に、クロウ先生と私だけが残される。
「……それで。なんでマギスの先生たちが、魔物退治を頑張っているんですか?」
私はとうとう我慢できなくなって、クロウ先生に詰め寄る。
先生は答えにくそうに、目を逸らしながら呟いた。
「聞いたら……後悔するかもしれない。それでも聞くか?」
クロウ先生の細められた目には、私の知らない苦い経験がたくさん隠れているように見えた。




