16.テスト結果の報告
――大凶。危機迫る。
短くそれだけ書かれたカードは、どこか物々しい雰囲気をまとっているように思えた。
一同が息を呑み、その場に静寂が降りた。
これが、クロウ先生が思い浮かべているのであろう適当な観光地で買ったジョークアイテムではなく、神殿でわざわざ高いお金を払って買ってきたものであることも含めて、カードに書かれた言葉には重みがあった。
静寂を打ち破ったのは、正面玄関の扉が開く音だった。
「こんにちは……って、先生方、集まって何をなさってるんですか」
休みにも関わらずマギスに顔を出したのは、イレーネちゃんだった。私は重たい沈黙をかき消すために、空元気を声にまとってイレーネちゃんに言葉をかける。
「イレーネちゃん! テストおつかれさま。どうだった?」
「それを話しにきたんです、見てください。先生と一緒に演習場でやった応用問題がそのまんまテストに出たんです!」
「おおっ! じゃあバッチリ解けたんじゃない? やったねえ!」
嬉しくて手放しに褒めると、イレーネちゃんは面映そうな顔をしながらも、自信に満ちた声で言った。
「はい。中間テストのときみたいな結果にはなってないはずなので、通知表楽しみにしていてください」
「うんうん! あ、そう、今ね、みんなでフォーチュンクッキーを食べてたんだけど。ほら、大吉! だからきっといい結果のはずだよ!」
私は自分の引いた大吉のカードをイレーネちゃんに見せる。イレーネちゃんはまじまじとカードを見てから何度も頷いた。
「はい、きっと! ……ちなみに、他の先生たちの占いの結果って」
「あ……」
しまった。フォーチュンクッキーの話題を出したことで、イレーネちゃんに謎の沈黙の正体を悟らせてしまったみたいだ。私は頭をかきながら、上擦った声で答える。
「まあ〜……私が大吉を取ったせいで、他はあんまり? だったんだけどね。あはは……」
エントランスの机に広げられたクッキーの破片たちと、低評価すぎる占いカードを見て、イレーネちゃんは言葉をなくして苦笑を浮かべる。
「悪いな、気分の下がるものを見せて。まあ、買ってきたやつが悪いと俺は思ってるが」
「ええ!? 私ですか!?」
クロウ先生の言葉に思わずツッコミを入れると、イレーネちゃんはぷっと吹き出して、笑ってくれた。
私はほっとして、テストの点が無事によかったら二人で祝賀会を開こうと、イレーネちゃんと約束を交わした。
イレーネちゃんが帰ったあと、塾長とミリカ先生は事務仕事があるからと別室に向かっていった。
ナタネ先生は用事があるからと帰っていき、残されたのはクロウ先生と、私だけ。
私は、中間テスト明けに演習場でアドバイスをもらったことに対して、まだきちんとお礼を言えていなかったことを思い出す。
忙しくしていると、こうしてクロウ先生とゆっくり話す時間も取れなかったのだ。
「あの、先生。前はアドバイスありがとうございました。おかげでイレーネちゃん、きっと成績アップです!」
「ああ。成果があったみたいでよかった」
クロウ先生はこともなげに頷く。
あまりにあっさりした反応に驚いたが、恩着せがましくないのは先生のいいところかもしれない。
そう思ってにこにこ……にやにやしている私を見て、クロウ先生は眉をひそめる。
怒られるかと思ったがそんなことはなく、少しの沈黙のあとに先生はため息交じりに口を開いた。
「お前の不調はお前だけの問題じゃない、生徒にも影響が出る。今後はすぐ誰かに相談するように。……俺でいいが、見栄を張りたいなら他の講師でもいい」
私は神妙な顔で頷く。
クロウ先生の言う通り、私が一人で抱え込むことで誰かに迷惑がかかってしまうのは確かだ。
塾長にも言われたが、誰かに助けを求めることが、自分のためじゃなくて生徒のためにこそ必要になるだろう。
見栄を張りたい、なんて気持ちがバレバレで、しかも言葉にされてしまったことはちょっと恥ずかしいけど。
私は引っかかった言葉を拾い上げる。
「見栄なんか……と思ったけど、見栄を張ること自体は否定しないんですね?」
「まあ……それはな。俺にだって見栄を張りたい相手はいる。気持ちはわかるからな」
目を逸らしながらクロウ先生は言う。意外な言葉に、私は思わず声を大きくしてしまった。
「先生にもそんな相手がいたんですか!? え、まさか私の知ってる人だったり……」
「な……今はそんなことどうでもいいだろ。お前の話だ」
「で、でも気になること言うからぁ!」
私はからかうような調子で続ける。クロウ先生は露骨に嫌そうな顔をして隠さないが、私も私で真面目なテンションにはちょっと戻れなかった。
冷静になったら、心にとげが刺さったような感覚をちゃんと意識してしまう。
クロウ先生が誰かの前でかっこつけているところなんて。誰の前でならそうなるのか、なんて、想像したくない。
正気に戻らないようにクロウ先生をからかうモードに入った私は、いつものように鬱陶しがられて先生の方から逃げていくまで、執拗な質問攻めを続けるのだった。




