15.転ばぬ先の神頼み
絶対問題ない。
イレーネちゃんは高得点を取ってきてくれる。
私が保証する、とまで塾長に表明してから、さらに二週間と少し。
期末テスト前日、イレーネちゃんの授業を終えて、激励とともに彼女を塾から送り出したあと。
私はマギスからの帰り道に、珍しく寄り道をしていた。
最近、王都では異例の長雨が続いていた。この街に雨期などないのに、晴れ間を最後に見たのはもう二ヶ月くらいは前な気がする。
そんな日々が続くと、出不精になってしまっても仕方ないと思う。
特に、仕事帰りはいつもは頭を使って疲れていることが多いから、まっすぐ家まで帰るのだけれど。
今日は雨の中、乾燥傘という近くの雨を蒸発させてくれる便利な魔導具とともに歩く。
家とは逆方向に進み、王都の中心街にある坂道を登っていった。
このフィリストリアム王国の王都は全体が小高い丘になっており、丘の頂上にある王城を中心に、円形に城下町が広がっている。
王城に近づくほど高貴な人たちの家や、重要な施設が並んでいて、街並みも綺麗になっていく設計の、機能的な街だ。
王立魔法学校や、そのすぐそばにあるマギスの学び舎も丘の中腹程度の、かなり立地のいい場所にある。
しかし今日の私の目的地は、さらに上だった。
王城も視界の先に見えて来たところで、私は大きな街道から横道に逸れる。
そしてしばらく王城がある方向とは違う角度に坂道を登ると、そこには石造りの、彫刻がたくさん施された荘厳な建物が見えてくる。
フィリストリアム神殿。
歴史と学問の神様を祀るという、由緒正しき国の施設だ。この国を守ってくれてもいるという神様に、私はご挨拶に来たのだ。
学生時代も何度もここを訪れて、次のテストもなんとかなりますようにと祈ってきた。
結果実際に私は魔法学校を卒業し、大学にまで進学できたのだから、ご利益は間違いなし。
でも今日祈るのは、自分のことじゃなくてイレーネちゃんのことだ。
どうか、これまで一緒に頑張ってきた毎日が無駄になりませんように。彼女が頑張って勉強してきた、あの努力が報われますように。
静まり返った神殿の中、神様の彫刻像を前に私は心の中でそう唱えて、両手を合わせる。
神様の声が聞こえたりはしないけれど、代わりにシスターが「きっと祝福の有らんことを」と一緒に祈ってくれた。
「……というわけでこれ、おみやげです。フォーチュンクッキー」
「これ、本当に買うやつがいたんだな。商品としては見たことあったが」
「ちょっと、それどういう意味ですか」
数日後。
期末テストが終わり、採点休みに入った生徒たちはわざわざマギスに来ることもなく。
先生たちだけの溜まり場となっているマギスのエントランスには、甘い香りが漂っていた。
私が神殿で買ってきたフォーチュンクッキーを、先生たちに配っているのである。
たまたま居合わせた、クロウ先生、ミリカ先生、それからあまり話したことはないけど、ナタネ先生という銀の短髪を持った綺麗なお姉さん先生。
さらには塾長までやってきて、運試しの時間が始まる。
ちょうどクッキーは五個入り、人数分揃っている。
「当たり前ですが、透視禁止ですからね。お一つずつ、願いを思い浮かべながらどうぞ。クッキーの中に挟まったカードが運勢を占ってくれます」
「まあ、私こういうの大好きよ。ほらナタネ、クロウも」
「ふぉっふぉ。たまには占いに運命を任せてみるのも悪くないのう」
ノリノリなのはミリカ先生と塾長だけで、他二人は完全に付き合わされているだけの様子だけど、そんなことはいい。
私たちはそれぞれ、特に順番も決めずに、願い事を心の中で唱えながらクッキーを手に取った。
私の願い事は当然、イレーネちゃんのこと。
それから、今後も私のマギス生活がうまくいきますように、と願いながら、クッキーを包み紙から出して、半分に割る。
「あ、大吉!」
「ええ!? すご〜い! ちなみに私は末吉だわ。塾長は?」
「吉凶ともにあり……じゃと」
「俺は凶だ。不吉なフォーチュンクッキーだな。こういうのはいいことを書いて喜ばせる商法じゃないのか」
「神殿に商法って……でもまあ、不吉だってのには同感」
そう言って最後にナタネさんは自分のクッキーに入っていたカードをみんなに見せる。
――大凶。危機迫る。
短くそれだけ書かれたカードは、どこか物々しい雰囲気をまとっているように思えた。




