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王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第1章 王都の塾講師の秘密

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13.実践魔法使いの欠点

 イレーネちゃんが的にこめた炎の魔力を強めたとたん、的の動きが一瞬で加速する。

 そしてある一定の強さを超えると、ぴたりと的が止まった。

 

 宙に浮いた的から、溶けた表面の材質がたらりと地面に向かって落ちる。


「あ。精錬、しちゃった……?」

「そう。炎の魔力が少し強い分には、動力魔法の効果が強まるだけ。でも一定以上多くなると、動力魔法は精錬魔法に変わっちゃうんだったよね。これ、危険だからよく問題に出てくるの。みんなを乗せた車とかが突然溶けだしたら大変でしょう?」


 精錬魔法とはその名の通り、あらゆる材質を溶かして、1ランク上の素材へとグレードアップしてしまう錬金術系の魔法だ。

 こちらも専門家――錬金術師や魔導具師しか使わない、馴染みのない魔法である。

 

 知らない魔法で塾の備品を溶かしてしまった衝撃で、イレーネちゃんは珍しく冷静さを失ってあたふたしていた。


「どんな魔法でもすぐ使えてすごいね、イレーネちゃんは。的は先生があとで修理しておくから、気にしないで!」

「は……はい。ありがとうございます」


 先生が、と言ったが私ではなく、クロウ先生かミリカ先生に頼むことになるだろう。

 彼らも先生なので嘘は言っていない。私の威厳を保つための言葉のあやだ。


 イレーネちゃんの魔法で見事にどろどろになった的を受け取りながら、私は授業を続ける。


「どちらの魔法も初めて使ったんだよね?」

「はい……すみません、加減がわからなくて」

「そんなことないよ。むしろすごい!初めて見る魔法でも、魔法式がわかれば使いこなせる可能性があるってこと。それってすごい才能だと思う」

 

 私の言葉に、イレーネちゃんはほっとしたような顔になった。


 おそらく、イレーネちゃんは実践魔法の完全な感覚派だ。

 だからこそ、使ったことのない魔法のことが理解できない。魔法ではなく数字として見てしまうから。


「今まで、魔法が得意だからこそ、数字で考えたことがなかった。違うかな?」

「そう、かもしれません」

 

「じゃあさ、体で覚えよう! ここには何に使うのかもわからないような魔導具とか備品がたくさんあるし、魔法の空打ちもし放題だから」


 そう言って、私は倉庫から的とは別の備品を取り出した。

 私の手の中を見て、イレーネちゃんは首をかしげる。

 

「コップ?」


 私が倉庫から取り出したのは、魔杯と呼ばれる器だ。

 魔杯は魔力を液体に変えて溜めておける杯であり、目に見えない魔力の流れを具現化してくれる、私のような魔法下手人間には非常にありがたいアイテムだ。

 そして、感覚派であるイレーネちゃんの学習にもきっと役立つ。

 

「このコップに向けて魔法を使うと、魔力が属性ごとにたまっていくの。その比率が、魔法式に出てくる数字と同じだよ」

「なるほど……」

 

 コップを見つめるイレーネちゃんに、私はふと思いついたたとえ話をして、元気づける。

 

「今までのイレーネちゃんにとって、魔法式を解くってことは……何か料理を食べて、その味からソースが大さじ何杯使われてるか当てようとしてる、みたいなことだったんだと思う。魔法式は魔法のレシピなの。レシピがなくても料理ができる人はいるけど、あった方が誰でも同じことができて便利でしょ? レシピを覚えて使いこなすのが魔法理論だって思ったら、ちょっとはできそうな気がしない?」

 

 イレーネちゃんは、はじめ呆然とコップや的を見つめていたが、しばらくすると小さく頷いて私の方を見た。

 

「魔法式を見てると頭がいつもごちゃごちゃしちゃうんです。でも……解決の糸口になるかもしれません」


 そして、コップに向かって魔法を使う。

 イレーネちゃんが放った動力魔法は、魔杯の効果で発動せず、魔力のこもった液体に変わる。

 ぴったり1対1の炎と土の魔力が、二つのコップをすれすれまで満たした。


 やっぱり魔力の扱いはとても上手だ。

 正直私なんて非にならないくらいの精度である。


 惚れ惚れしながらも、私はイレーネちゃんに微笑みかけた。

 

「その調子。他の使ったことがない魔法もこれから演習場で練習していこっか。魔法を使うときの感覚を言語化できたら、魔法理論マスターは近いよ」

 

 見えていなかったイレーネちゃんの課題が、まさか演習場で見つかるとは。

 一段落ついて時計を見ると、90分あった授業時間はもうほとんど終わりかけていた。


 私たちは一段階レベルアップした気分で、演習場から教室に戻ったのだった。

 

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