11.苦手の理由
「じゃあ、最後だ。この的を止めてみろ」
クロウ先生の言葉を、私は全力で非難する。
魔法が苦手で、クロウ先生と何度もこの演習場で練習をしてきた私だからわかる。無理だ。
そして、先生は私が無理だとわかっていて、難題を出したように見えた。この人はときどき人の心がない。
しかし、怒った私を気にも留めず、クロウ先生は尋ねた。
「なんで無理なんだ?」
「だって、止めるってことは先生の使ってる動力魔法に打ち勝つだけの動力魔法をこっちも使わないといけないでしょう。そもそも動力魔法っていう、普段使い慣れない“見えない魔力”だけを当てるだけでも私には難しいのに、その力でクロウ先生を越えろって……自分の方が魔法が上手い自覚があるくせに、意地が悪いですよ!!」
「うん。そうだな」
「そうだなもなんかムカつくしぃ!」
無理やり魔法の無駄撃ちをしてやろうかと思ったところで、クロウ先生は的の動きを自分から止めた。
驚いて、一旦怒りを忘れて目を丸くしてしまった私に、クロウ先生は言う。
「お前はそうやってできない理由を人に説明できる。だから俺もすぐに効果の出るやり方を教えられる……意地が悪いとまでは言わなくていいが」
「え……あ、もしかして」
もしかしてただ人で遊んでいたわけではなくて、それを伝えたくてやっていたのだろうか。
確かに、私はイレーネちゃんにいろんな問題を何度も解説してきたが、なぜそれがわからなかったのか、根本的なことを聞いたことはなかったかもしれない。
ただ、間違えてしまった問題や、浮かんだ疑問を一つずつ潰していくだけ。
それでもその場限りの付け焼き刃の知識は得られるけれど、次にまた同じ疑問に突き当たったときに応用が効かない。
「理論も知らない、魔法も使えないやつはただの勉強不足かもしれない。でも片方はできるのに片方が欠けているのには何か理由があるはずだ。『風属性に比べて水属性の魔法を重く感じてしまう』『慣れていない、視覚で捉えられない魔力の操作が苦手』『コントロールと出力の両立ができない』……それだけ思いつく課題があるなら対応策もいくらでも練れる」
そこまで言ってから、クロウ先生は言葉を切って再び的を動かしはじめた。
「たとえば。動力魔法が見えない魔法なのはこちらにも同じ条件だ。だから、飛ばして当てたかどうかは正直評価に関係ない」
「え。そんなのありですか? 的の進路に前もって動力魔法を置いておくってこと?」
「察しがいいな。それなら時間をかけて魔力を溜められるから、出力も比較的簡単に盛れる」
もはやコントロールを試すという本来の目的からは大きく外れている。
でも、言われてみればクロウ先生から出された課題は「動く的を止めろ」だけ。動力魔法を当ててみろとは言われていない。
発想力も才能というならアリなのか。
言われた通りに、私は的がこのあと通るであろう進行方向目掛けて動力魔法を使う。
じわじわと、反対方向に的を跳ね返すイメージで空中に力を溜めていくと、やがてその場所に差し掛かったターゲットはゆっくりと速度を失い、最後には動きを止めた。
「すご……」
「まあ、今のは俺が問題を出して俺が解法を教えたから解けて当然だけどな。ただ、やみくもに練習するより課題を見つけて根っから対処する方がずっと上達が早いのは確かだ」
満足したように動く的をまた倉庫に仕舞ったクロウ先生は、用は終わりだとばかりに演習場を出ようとする。
その背中に私は叫んで、見られていないけど頭を下げた。
「ありがとうございます! 絶対絶対、イレーネちゃんの授業に活かします!!」
「ああ、そうしてあげてくれ」
振り向かないまま、クロウ先生はやっぱり淡々と答えるのだった。




