10.悩み事の解決策
「――だから、イレーネちゃんの成績がピンチなのは、私が何もしてあげられなかったからで……」
クロウ先生の鋭い視線を誤魔化せるはずもなく。
ロナウドを帰らせてから、私は自分の置かれた状況と悩み事を、泣く泣くクロウ先生の前で吐露していた。
黙っていたかったのは、クロウ先生の前で先週までの自分が「いたって順調です!」とアピールしていたのが恥ずかしかったのもある。
それに、単純にできないところを見せたくないのも。
……いや、魔法が下手くそなところはもうたくさん見られているから、今更恥ずかしさもないのだけれど。
せめて座学の面では、いい先生になれると言ってくれたクロウ先生の言葉に見合う私でいたかった。
話を終えてしょんぼりとしている私に、クロウ先生は少し逡巡してから、突拍子もないことを言った。
「ちょっと、演習場に行くか」
「……演習場?」
「ずっと教室で授業をしてただろ。行き詰まったときは演習場だ」
よくわからない理論で、クロウ先生は有無を言わさず歩き出した。
私は慌ててその後に続く。複雑な道のりを抜けて暗い地下階段を下る、この道はクロウ先生と一緒に何度も来てもらった道なので背を追って歩くのはなんだか馴染み深い。
そして、先生は演習場の扉を開けた。
いつ来ても変わらない魔法の太陽光と、土の匂いがあたりを埋め尽くす。
「俺は最初、お前のできない理由がわからなかった。魔法式は完璧なのに、魔法式通りに魔力を混ぜて打つだけのことができないことが」
「う……」
痛いところを突かれて私は唸る。
でも、クロウ先生の言わんとしていることが大切なことだというのはわかっていたので、黙って聞いた。
「他人だからわからないことはある。お前の生徒……イレーネがどこにつまずいているのかは、イレーネしかわからない」
そう言いながら、クロウ先生は魔法の練習用のグラウンドへと歩みを進める。
ついていくと、クロウ先生は動く的を倉庫から取り出して、私の方に投げた。
「久しぶりにやってみろ。上手くなったか見てやる」
「え、ええ……!?」
学生時代に飽きるほどやらされた、魔法の精度を試す課題だ。
やりたくない。やりたくないが、クロウ先生の手で魔力を込められた的は、私の元に届く前に勝手に動き出す。
宙を規則的に上下するそれに、私は渋々狙いを定めた。
「まずは風魔法」
「……か、風魔法ならなんとか!」
先生の指示に、私は絞り出すように答える。
風魔法は文字通り風や気体を操る魔法であり、竜巻を起こしたり風の刃を生み出したりすることもできる。
比較的まっすぐ飛ぶ魔法が多く、初心者でも操りやすい。
……自分で初心者を名乗る塾の先生ってどうかと思うけど。
「風の刃よ、飛べ!」
私が両手の平を的の方に突き出して放った突風は、ちょっとフラフラしていたがなんとか的の中心少し左を貫いた。
「流石に上達してるな。じゃあ次は水魔法だ」
そう言いながら、クロウ先生は魔力を操作して的の動きを早く、複雑にした。
斜めに動き始める的を前に、私は思わず文句を言う。
「いつも言ってましたよね、水魔法は重いから苦手だって! それなのに動きまで変えるとか、なんの嫌がらせですか!?」
「がんばれがんばれ」
私の主張などまるで聞かない先生の口元には悪い笑みが浮かんでいた。
こういうときだけ表情がわかりやすいのってどうかと思う。……なんて思ってみても何も事態は変わらないので、私は動く的に意識を集中させた。
水魔法が重い、というのは私の直感的な感想でしかないのだが、まっすぐ飛ぶ風魔法に比べて質量のある液体を操るからか、操作がしにくい。
だから私は水魔法のコントロールが一番苦手だった。
「重いと思うなら、その分ターゲットの動きを予想して高いところを狙えばいいんじゃないか?」と魔法のテストとしては本末転倒な提案をしてくれたクロウ先生のおかげで魔法学校のテストは突破できたが、今はそのときより的の動きが早い。
「なんとかなれ! 泡よ、標的を覆え!」
機転を効かせて、同じ場所に複数の小さな泡を列にして飛ばす。
そうすれば一つくらい当たるだろう、という読み通り、最後の方に飛ばした泡が的に当たってパチンと弾けた。
「ちょっとズルだが……まあ今はいいか。発想力も才能だな」
クロウ先生はしてやられた、といった声音で言った。でも、これで終わりではないらしい。
いつまでやるのかと辟易してきた私に、先生はありえない課題を出した。
「じゃあ、最後だ。この的を止めてみろ」
「なっ……無理です! 私にそんなことできないの、知ってるでしょ!」




