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seek one's fate  作者: 六軒さくみ(咲海)


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*再会の瞬間1*

***小さな頃は幸せで愉しくて、未来の不安も憂いもなんにもなくて。

   手を伸ばせば確かにあった幸せも優しさも、あの日の炎が一瞬にして消してしまった。

   優しい時間を共有したルリとルカを捜すため軍に入った。

   あの場所を守りたくて武器を手にした、何が正しいのかも考えた事なくて、

   何が間違っているか解らなくて、自分の気持ちすら日々わからなくなって、

   だから今はこんなに心が重い。  

   ルリ、ルカ、いつでも思い出すのはお前達のことで、

   今でも耳に残っているのは、ルリの「離れたくない」という言葉で、

   あの日以来、地球は哀しい思い出がつきまとうのに、それでもやっぱり地球が好きで***



『その地球で待ち受けるのは、運命の再会と、そして残酷な真実なんだってことに俺は、まだ気付けずにいた』




「どうするよ? このままリバティに向かうか? それともさ、寄っていくか?」  


 機体の整備をしていたアスランの手が止まり瞬間、息を呑む。


「このまま向かう」

「そうか」


 決して祖父を嫌っているわけではないのだが、父の件がある手前、最近のアスランは祖父であるドーマスカーと距離を置くようになっていた。

 それも仕方のないことだ。

 人間というのは、特にまだ少年の域にあるアスランにしてみれば、過剰な期待をかけられれば、プレッシャーを感じ周りの目というものもある。

 確かにアスランは優秀で、なんでもそつなくこなせる人間ではあるが、人並みの感情を持ち合わせ、心だって持っていて祖父とは別人格なのだから、何にでも従うという事に納得が出来るものではないのだ。

 軍人としての命令であめのなら聞けることも、アスラン個人にとってみれば聞けないこともある。 

 父の一件は、アスランの心に祖父への猜疑心を植え付けるのには十分な出来事だったのだ。


「輸送機で送ってもらうか?」

「……それしかないだろうな。ブースターの搭載もここでは無理らしい」

「はあ? だってここ本部だろ?」


 アスランが秀麗な顔に珍しく苦笑いを浮かべた。

「おいおい勘弁してクレよ」とばかりにタイスは閉ざされた空間の天上を見上げて、ため息をつく。 

 無い物は無い。

どんなに文句を言ったところで仕方ないのだ。


「一時間後に輸送機でリバティに向かおう。あちらの艦長には俺から連絡をいれておく。タイス申し訳ないがこの辺りの座標の入力と処理を頼めるか?」

「ああ、お前はどうするんだ」

「輸送機を借りるにも手続きがいるらしい」


今度こそ、タイスは呆れたとばかにどさりとソファに腰を下ろした。

 いかに本部といえど今は戦争の真っ直中で、宇宙では毎日、毎日、帝国軍との戦闘が続いていて、死者だって出ているのに、ここの暢気さと言ったらもう、言葉も出てこない。

 確かに前線ではないが、何から何まで書類、書類ではいい加減叫びたくもなる。

「まったく、オエラいさんは自分たちが前線に立ってないからのんきなもんだよ」という先の言葉をタイスはかろうじて飲み込んだ。




「タイス、悪いがこっちまで来てくれないか?」


 一連の作業を終えて、基地内で与えられた自室のベッドの上。 

 雑誌を広げて時間をつぶしていたタイスに、アスランからの通信が入ったのは、整備ブースでアスランと別れてから優に二時間が経過した頃だった。

 書類の申請に出向いたアスランの戻りが遅く、気になり始めた矢先のタイスにしてみれば、安心すると同時に、アスランの声に怪訝な表情を隠すことは出来なかった。

 一抹の不安と、そこはかとない嫌な予感は感じたものの、自分の同僚であり親友であるアスランを無視することも出来なくて、アスランの指示のあったブリーディングルームに向かった。

 ドアが開くと同時に、敬礼をしたタイスの心に最初に浮かんだのは「やっぱり、こなきゃよかった」という言葉であったが、その心の声を聞き取ったであろうアスランが軽くしかめっ面を造るのが見えて、ため息をつく。

で、事の顛末を聞いたタイスの心の声はやはり「こなきゃよかった」であったのだ。




「コレ、マジかよ」

「らしい」


 アスランの短い言葉の中に珍しく全ての感情が込められていた。

 呆れと、諦めと、苛立ちと。


「なんだってまたリバティはこんなに包囲されるまで、手を打たなかったんだ、これじゃ狙って下さい、やっつけて下さい、沈めて下さいって言ってるとの変わらないじゃないか」

「まさに言ってるんだよ」

「はぁ?」


 思いっきり悪態をついたタイスは、目の前にいた上官と目が合う。

 咄嗟に何か取り繕うかと考えたが、こいういう場に置いて取り繕うとすればするほど、墓穴を掘るものなのだ。

 その事はタイス自身が一番よく分かっている。なんといっても「お前は一言多すぎる」だの「もっと自重しろ」だのと、日頃から口やかましくアスランに言われているのだから。


「バンリティウム少尉の言い分はもっともだ」


 そう答えたのは上官のイースト・オーウェン准将で、彼は連邦政府正規軍地球防衛本部所属の主力戦闘艦エイムズの艦長であると同時に司令官も任されており、今回、孤立したリバティ・ベルの支援部隊の指揮官でアスランやタイスを搬送する任を受けた人なのだとアスランが説明した。


「現在、リバティはこの海域で孤立している」


 イーストの指し示した海域を見たアスランが、自分の胸に手を当てたのをタイスは横目で確認した。

その場所はアトランティス海域で、アスランが故郷だといって憚らない旧ブルーム共和国のある場所からはさほど離れていない場所だった。


「君たちも知っているとおり、旧ブルーム共和国はすでに存在を有せず、今は帝国軍とそしてデュオン家がこの場所にいる」

「つまり、下手な動きをすれば総攻撃を喰らう可能性も否定できないと、かといってこのまま放置も出来ない、こりゃまた、やっかいなことで」


 タイスの開けっぴろげな物言いに、アスランは軽いため息をついて肯定の意を表し、その場にいたイーストは口元に微かな微笑みを浮かべた。


「どちらにしても被害を最小限に抑えるのはほぼ不可能だが、まさか上に不可能ですと断言も出来ない」

「確かにさ、俺たちはエースパイロットなんて言われてるけど人間なんだから、出来ないことは出来ないだろ」

「か、といって見殺しにも出来ない。だからこの際、俺とタイスでリバティと接触し陽動を仕掛けようと思う」 


 あまりにも普通に、あまりにも冷静に、そしていつも通りの口調で語られたので、その内容を理解するのにタイスとしてはかなりの時間を有した。

 理解した後、返す言葉が見つからなかった。 

 アスランは「最小限の犠牲で済ませるために、俺たちが犠牲になろう」と堂々と宣言したのだ。

 タイスがアスランの言葉を正しく理解し、抗議の声を上げようとしたときにはすでに、イーストとアスランとの間で、作戦は成立していた。




 ブリーディングルームを出て、わすが一時間後、タイスとアスランは専用機とともに戦艦エイムズに乗艦し連邦本部を後にしていた。


「で、どこから帝国内に潜入するつもりなんだよ、アスラン」


 ふて腐れた感が拭えないタイスの言葉にアスランが微かに笑う。


「エイムズがここ、リバティの右側の防衛ラインを突き崩している間に、ここから潜入するつもりだ。但し、帝国の前線本部やいろいろと調べたいこともあるから、本当に潜入する」

「待て、本当に潜入って陽動作戦の前にか!」

「ああ、その前に潜入しないと意味がないからな」


 辟易だとばかりタイスがため息をついた。

 宇宙から地球に降下してわずか一日、休暇という休暇もなく、何故こんなにハードな作戦が続いているのか、とばかりにアスランに愚痴をこぼしたい心境をぐっと堪えると、その言葉をコーヒーと一緒に飲み込んだ。



**



「やっぱり気になるか?」

「まあ、ちょっと……」


 戦艦エイムズの展望ルーム。


 予定どおりに航行すれば、あと三時間後にはアスランとタイスは計画どおり数人の人間達とともに今は帝国領となっている、旧ブルームに潜入することになっている。

 最初のその作戦に反対していたタイスであったが、自分たちが配属になるリバティ・ベルの現状と、その他に付随する様々な事実を検証すれば、アスランのとる方法が確かに最小の犠牲で大きな結果を得られるのは確かで、タイスも『ステラ』である以上、その作戦の有効性を理解すれば、いつまでも反対することは出来なかった。 

 アスランとタイスが身につけている紫紺の制服の襟部分と袖口には、ステラの証である刺繍が縫いつけられ、左胸にはその証であるブローチが、艦内のライトを受けて光を放っている。

 エイムズに乗艦した際、その『ステラ証』を見るのが物珍しいのか、珍獣観察宜しくとばかりに、乗務員が立ち替わり入れ替わり二人を見に来ていたことを思えば、二人きりの時間がとても貴重な感じがする。


 連邦の正規軍の内部に『星の一族』と呼ばれる階級がある。

 『ステラ』と呼ばれ「輝く星」の意味を持つこの階級は、士官学校を優秀な成績で卒業しその後、戦場において多大な功績等を残した場合に授与されるいわばエリートの証でもあった。

 現在の連邦政府正規軍内において、エリートと称され花形の部署と呼ばれるのは宇宙艦隊であり、地球ではこの『金のステラ』をつけ、現場を担当する人物は皆無で、だからこそ人々は物珍しがって、二人を珍獣扱いしていたのだ。


「素直に言えば、気になるかな、やっぱり」


 ここ数時間の珍獣騒動を思い浮かべていたタイスの耳に、アスランの小さな呟きが届いた。

アスランに視線を転じれば、いつものように胸に手を当てて遠い目をしている。

 その瞳には険しさも憂いも無く、ただ優しくそして温もりに満ちていて、それを目の当たりにしたタイスにしてみれば、驚いたのは言うまでもない。

 これから生死をかけた作戦に出向く戦士の目ではないのだから。


「そんなにいい子なのか、ルリって子は」

「いい子?」


 しばらく考えて、何を思いだしたのかアスランの口元に柔らかな微笑みが浮かぶ。

 士官学校時代、感情を表に出すことは滅多になくて、出したとしてもそれはホンの些細で、どこか浮世離れしているというか、どことなく現実感のない男。

 それがタイスのアスランに対する評価だったのだがここに来て、その評価は覆り始めている。

 幼なじみの情報が欲しくて軍に入り、幼なじみを捜したくて自分の命を張って前線に残り、その幼なじみを語るとき、これほど柔らかくて優しい笑顔を浮かべる男。

 どれもタイスが知り得ている「アスラン」とはほど遠い。


「いい子と言われると言葉に詰まるけど、お転婆で悪戯好きで苦労した覚えしかないけど、だけど……」


 ふいに切れた言葉を補うように、アスランはその手に首から提げていた指輪を乗せて握りしめる。

 この指輪を握る度に今で鮮やかに耳にこだまするのだ。


『アスラン離れたくない、淋しいのはいや。一緒にいたい、傍にいて』


 泣き顔すらも愛しくて可愛くて、ずっと独り占めをしていたいと思ったあの頃のままのルリが。



「ルリの笑顔が好きだった……」

「明るめの、下手したら金髪に見えそうな髪に深い海の色の、綺麗な蒼い瞳の女の子だろ」

 心底驚いたアスランの表情を見て、タイスの心境と言えばカメラが無い事が悔やまれるであった。

 この表情をもう一人の、宇宙で戦っているもう一人の親友に見せれば、大喜びをするのは間違いナシだ。


「いいな~お前のその表情。アッシュが見たら泣いて喜ぶぞ」

「なんで、ルリを?」

「気にするのはそこかよ」


 アスランに睨まれて居心地の悪くなったタイスは、素直に種明かしをすべく、自分の制服の胸のポケットからクリアカードを取り出す。


『アスランをからかうのは、命をかけるに等しいな、気を付けろよタイス』と、そう言ったのはアッシュだった。 

 アッシュ・エイディアはアスランやタイスと同期であり、そして同じステラでもある。

 静かに読書を好むアスランとアッシュは、折りに付け何かと気の合うところをみせ、気が付けば自然と交友関係を築き上げていた。

 タイスからしてみれば、アスランもアッシュも根本が良く似ている気がする。

そのアッシュが何度か言ったことがあるのだ。 


『アスランは冷静どころかかなりの激情家だ』と。

 その時は、何を言っているのかと思ったものだが、ここ数日のアスランを見ていればアッシュは的確にアスランという人となりを言い当てている。

 まさに、類は友を呼ぶ。なのか。


「…どこで?」

「まあ、ちょっと気になってさ。いろいろとな、昔の記事の写真らしいんだけけどさ、お前が一緒に写ってたから、滅茶苦茶小さいけどさ」


 クリアボートに映し出されていたのは、本当に小さな写真で、手に入れたタイスがかなりの苦労を要してここまで拡大させてのだと思うと、呆れるやらなんやらで、微かに笑いがこみ上げてきた。

 クリアカードをその笑いとともにタイスに返すと、アスランが内ポケットから同じサイズのカードを取り出してタイスに差し出した。 

 カードには、今、アスランに渡した写真があった。

 一人の少女を真ん中に左にアスラン、右にも一人の少年、多分これがルカと呼ばれる人物なのであろう。

 その三人がにこやかに仲むつまじく映し出されていた。


「その写真、俺の誕生会の写真。それが最後の写真なんだ……その一ヶ月後にブルームは攻撃を受けたから」

「真ん中の子がルリ?」

「ああ」


 改めて写真を食い入るように見る。

 そこに映し出されているルリという少女は、アスランの大切な幼なじみは、屈託のないお日様のような笑顔で写っていた。

 大きめの瞳は少女らしい輝きに満ちていて、アスランとルカを心から信頼しているのだろうことがその表情からも伺い知ることが出来る。

 ただの写真なのに、言葉以上の暖かさとか優しさとかを存分に感じることが出来るのだ。

 現状を思えば、その写真の中の時間が、どれほどアスランを支えるのか思い知らされた気がして、タイスの口から静かなため息が零れた。


「見つかるといいな、その子」


 それは、タイスの素直な感想だった。



「アスラン・カヅキ・ローダデイル少尉、ならびにタイス・バンティリウム少尉、これより任務のため、エイムズを降艦したします」




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