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seek one's fate  作者: 六軒さくみ(咲海)


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8/12

*揺れるこころ6*

***突然、告げられ訪れた別れに俺たちの力は無力で、抵抗する術すらも持っていなかった。

   これが最後になるかもなんて、思わなかった。

   ルカ、俺はお前の問いかけに未だに答えは出せないけど、

   ルリが大切で、ルリが大好きで、ルリに逢いたくて、ルリの声を聞きたいのは本当なんだ。

   三人でいた頃が泣きたくなるほど愛しい***




「アスランは、ルリのことどう思ってるの?」


 告げられた言葉の意味がわからない、とばかりにアスランが瞬きする。

 一緒に育って、一緒にルリを守ろうと二人で話して、事実それをルカと一緒に実践しているのだから、今更、問いかけられるようなことでない。

 だからルカの問いかけの意図が今ひとつ理解しかねる。


「ルカ何だよ、突然」

「最近、アスランがおかしいのは気付いてたけど、ルリを前にすると妙に緊張したりしてるし。ルリのキスにも動揺してるし。で、アスランはルリのことどう思ってるの?」


 オカシイと言われたことにちょっと傷つく。いやかなり傷ついた。


「そんなこと大切な幼なじみだよ。気が強いくせに泣き虫だし、寂しがり屋で側にいてやらないと、どこで泣いてるか……心配だし」 


 ルカがわざとらしくため息をついて手にしていたコップを握りしめる。

 本当に鈍いこの幼なじみは自分の気持ちも、ルリの気持ちも気付いてないのだろうか。

 てっきり気づかないふりをしているだけだと思っていたのに、どうやら本当に気付いていないらしい。


 もう信じられないと思う。


 ルリは自分の気持ちを態度にして言葉にして伝えていて、端で見ている誰もがその事実を知り得ている。

 そもそも、学園の女生徒達が最近、ルリにちょっかいをかけなくなったのは、ルリの返り討ちにあったこともあるかもしれないが(おそらくはそれも最大の要因だろうが)どちらかと言えば、アスランのルリに接する態度を見ていて、諦めたからだ。


(僕だって二人の間を邪魔しないように極力気を付けてるのに。あくまでも極力だけど)


「もう、アスラン馬鹿じゃないの。君って頭がよくて優等生のくせに、時々すっごく鈍いよね。僕はそんなことを聞いてるんじゃないの! ルリをちゃんと女の子として見てるってことを聞いてるの」

「好きに決まってるだろ! 嫌いならルリと一緒にいないよ…」

「その好きは、アスランにとって、幼なじみとしての好き? それとも女の子として好き? たとえば、毎日しているおでこのキスや頬のキスの外に、唇にしたいとか、恋人として手を繋いだり、エッチしたいとか、一緒にいたら押し倒したいとかの好き?」 

「─────────────  なっ」


 沈黙。


 ルカの発言の意味を頭の中で確認しているのだろう、しばらくルカを見ていたアスランの顔があっという間に赤く染まる。

 何かを言い返したくても言い返す言葉が思いつかないのか、口を開けては空気を飲み込むという器用な行動を起こす。


(アスラン、まるで水槽の金魚だね)


 失礼極まりない言葉を喉の奥でかみ殺す。 

 圧倒的に不利な状況下に追い込まれているアスランと言えば、耳に残るルカの「エッチしたい」と「押し倒したい」の言葉がぐるぐるダンスを繰り広げている。

 その上、間の悪いことに転じた視線の先には見慣れない美少女が兄のエレクトルと話をしている。

 ルリが正装する姿を、ドレスを着ている姿を見るのは初めてではない。

 ブルーム共和国の上流階級層に所属するカーディナル家もそしてローダデイル家も、最低限のパーティーには参加するし、年に一度はこうして誕生会なども開かれる。

 そうした席は社交の場である以上、正装するのが当然で、それはもれなくルリもルカもアスランだって該当するのだ。

 だからルリの正装したドレス姿などは年に何度かお目にかかっているし、今更とりたてて驚くような事ではないのだが、あそこに立っているルリは本当にルリだろうか。


 ルカに伴われて現れたルリは驚くほど大人びていた。

 ルリの瞳とよく似た蒼いドレスは、ルリが今まで好んで身につけていた大きなフリルや繊細なレースの飾りは一切付いていない、至ってシンプルな創りだったが、不思議とルリにはよく似合っていた。

 ノースリーブから出る左右の腕は細くしなやかで、膝のあたりで歩くたびに揺れる裾から、すらりと伸びた足を高めのヒールに包んでいた。

 ふんわりとカールされた髪をひとつにまとめ、すっきりとしたうなじが、見ほれるほどに綺麗だった。

 つい数時間前に別れたときには確かにアスランの知っているルリだった。

 なのに、今、目の前にいるのは誰だろう。

 黙って立ってる姿は一端の淑女に近い。

 なかば呆然とルリを見ていたアスランはルカに手を出してと言われて何の考えも無しに、腕を差し伸べた。

 その手にルリが自分の手を乗せる。

 その後は殆ど覚えていない。

 耳と頭と目が正しく機動を始めたのは父の挨拶とともに「おめでとう」という声に伴われた乾杯を意味するグラスのはじける音だった。


「本当にルリなのか?」

「女の子に対して失礼だよアスラン、他に誰がいるの?これ…似合わない?」


 自分の姿を見下ろして、ほんの少し哀しそうにルリが呟く。

 それを見て慌てて言い直す。


「そんなこと! すごく似合ってる、から、ちょっと驚いた」

「よかった。アスランに言ってもらう方が、何倍もうれしい」





***空港で、別れてもうじき二年。

   ルリ、ルカ元気だろうか。俺はいま戦争をしている。

   守りたくて武器を手にしたけれど心が揺れる…自分が選んだ事は間違ってる気がして。

   今はただ、逢いたい***





 地球に降下するのは早い。

 降りる場所の天候等によっても変わるが、これだけ科学が進み、技術が進めば、昔は大変だった大気圏突入も今では殆どノーリスクだ。

 隣に座っているアスランは、降下前にタイスが見たままの姿で静かな寝息を立てていた。

 アスランの向こう側には地上の光が見え始め、シャトルは目的地である連邦軍本部があるマゼランの軍事基地へ着陸態勢に入り始めていた。


「おい、アスラン。間もなく着陸だぞ」


 深い眠りについていたであろうアスランは、瞬時に眠りから目覚めると窓の外を見やり、自分の目で外を確認した。


「なあ、オヤジさんまだか?」

「ああ、兄さんもまだ連絡が取れない、何をしているのか」

 深いため息には深い憂いが潜んでいた。



 アスラン・カズキ・ローダデイルは、連邦軍の若きエースパイロットとして注目を浴びている。


 有力なバックボーンもあるから、戦死さえしなければあっという間に出世もするだろう。

 なのにこうまでアスランが憂うのはその家庭環境だ。

 アスランの父方の祖父はザリオルド・ドーマスカーといい、現在は連邦軍のナンバー2に位置している。

 実質的に連邦軍を取り纏めている存在であり権力者の一人だ。


 故郷とも言えるブルーム共和国が火の包まれていくのを何も出来ずに見続けたあの時、コクーンに到着してアスランは自身の父であるエイドリアンに協力を仰いた。

 エイドリアンも四方手を尽くしてルリ達を探したものの見つからず、アスランは父から報告を告げられるたびに絶望と虚脱感の中で生活していた。

 自分に、そして父にも、もう探す術がもうないと知ったとき、アスランは最後の望みをかけて連邦軍に入ることを決めた。

 当時のアスランには戦争の原因であるとかはどうでもよく、ただ幸せだった頃の故国を取りもどしたいという目的のために軍に入り、また軍に入れば一般では手に入らない情報を掴めるかもしれないというささやかな希望もあった。


 士官学校に入学すると同時に、父親のエイドリアンは祖父であるドーマスカーの手により邸に事実上軟禁状態になっていた。

 アスランがその事実を知らさせれたのは、士官学校を卒業し、配属が決まってからだ。

 父に連絡を取ろうとしてもドーマスカーの許可を求められ、また祖父に事情を聞いても「病気」なのだと誤魔化されてしまう。

 あれだけ世界中を跳び回っていた父親が、息子にも会えないほどの病気になるわけがなく、ましてや父親に面会するのに、祖父の許可を得なければならないと言うのもおかしな話で、直ぐにアスランは二人の間に何が起きたのかを察知した。


 エイドリアンとザリオドル親子の確執を知らなかったわけではないが『軟禁』という言葉はひどくアスランを落ち込ませた。


 すでに二年、アスランは父であるエイドリアンと連絡が付かない状態にある。

 そして、そのアスランの兄であるエレクトルともまた連絡が付かない状態だった。

 兄のエレクトルに関しては昔から風来坊的な所があり、また自分と違って要領もいいから、どこがで死んでいるとか、危機的なことになっているとかは想像できないが、兄に連絡が付けば父親が何故、身内によって監禁されているのかの事情くらいは掴めそうな気がするのだ。


 二年前、覚悟を決めて武器を取ったアスランは、出口の見えない戦争と父の行動に心はゆれていた。

 一度は正しいと思えていたはずの道に。




  想い出は美しすぎるって誰が言ってたけど、今、その言葉を実感してる。      

  三人で過ごした時間は、何よりも大切でかけがえなくて、

  あの日々を過ごした場所を守りたくて決めた覚悟は今、こんなにも…揺らいでる




『ルリ、ルカ、逢いたい…』

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