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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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33/34

*待ち受ける現実1*

***夢なんて見ようとは思ってなかった。

   ちゃんと現実をみなくちゃって、思っていた。

   だけど目を背けていたのも事実で***


『今この瞬間にだって、私はまだ、都合のいい夢を見ていた』




「頼むからルリ、おとなしくして」

「退屈なんだもん!」

「退屈なのは、ルリだけだよ」

「じゃあ、退屈じゃなくして、アスラン、構って?」


 これ以上ないほどに可愛らしくふくれっ面を作られても、これ以上ないほどに可愛くおねだりされても、聞けることと聞けないことは確かに存在するのだ。

 この時のアスランはまさにその状態で、どんなにルリが可愛らしく頬をふくらませても、どんなにルリがふて腐れでも、とにかく今は手が離せない状態だった。


「ルリ…俺もルカもこれの提出が明日までなんだよ。だから、お願いルリ。静かにしていて」


 懇願してみたけれどルリは納得していないのは明白で、座っているベッドの上でクッションを抱きしめたまま、アスランに恨みがましい瞳を向けている。

 構ってやりたいのは山々で、ルリの不満もよくわかるのだが、それでも今回ばかりはどうしても聞き分けてもらわないといけない。

 けれどおとなしく家に帰れとか、部屋から追い出そうとは欠片も思っていない辺り、自分はやはりルリに甘いのだと認識する。


「一週間も宿泊学習に行っていて、やっと帰ってきたらアスランもルカも勉強ばっかり」


 宿泊学習からやっと帰ってきたルカにまず抱きついて喜びを表したルリだったが、大量に出された提出期限付きのレポートを前にルカは顔面蒼白の様相で、抱きついたルリの頭を撫でながら「ごめんね」と呟いてその後、部屋に閉じこもってしまった。


 ルリが何度声をかけても振り向くことすらしてくれず、生返事をするだけで、腹に据えかねたルリは一方的にルカに絶交を言い渡すと、荷物を纏めてアスランの家に転がり込んだ。

 いつもならば、そのルリを上手にあしらってくれる姉のランは父親の出張について月に赴いてしまい生憎、今は不在だった。

 ルリがさまざまな、それこそアスランやルカにしてみればくだらないとしか言えない理由で、隣家のローダデイル家に家出して転がり込むのはいつものことで、そしていつの間にか機嫌を直して(その裏にアスランとルクの多大なる努力があるのだが、結局の所は二人がルリを甘やかしているから努力とも言えない)アスランを伴って自宅に戻ることもいつものことだから、自宅に転がり込んで来た事自体は気にもとめないが、今回ばかりは、そのアスランすらもルカと同じ状況にあるから、ルリの機嫌は降下線の一途だった。

 こんな時に悪いことは重なるモノで、ラン同様にルリを甘やかしているアスランの兄のルクも不在で、どうしても構って欲しいと思うルリの攻撃は一重にアスランにのしかかってきた。 

 確かに一週間、ルカとアスランは自宅を留守にしていて、すれ違うようにランが外出してしまったのなら、あの広い自宅にはルリしか残されなくて、淋しいのは当然だった。

 だが今は、構って上げられないのが現実なのだ。


「アスラン…聞いてる?」

「…ルリ、お願いだから静かにして、今これ…」


 ふいに言葉を切ったのは背中に柔らかなモノが押しつけられたからだ。

それが何なのかは頭の何処かで理解していたが、目でも確認しようと振り返ると肩にルリの顔があって、避けようもない視線が絡んで、部屋にはルリとアスランしか居ないのだから、背中の温もりがルリだと分かっていたはずなのに、自分でも思っていなかったほどに驚いた。


「ルリ…?」

「うん?」


 ルリはアスランにおぶさるようにして、アスランの手元を覗き込んでいた。

 それはいつもの行動であったはずなのに、押しつけられた胸がやけに柔らかくて、頬にかかるルリの髪から漂う匂いがやけに甘くて、そして耳にダイレクトに響く声が熱を孕んで、思わずそのまま口付けて押し倒したい衝動に駆られた。 

 衝動を煽っているのはルリで、そしてその衝動を遮ったのは、やはりルリの声だった。


「アスラン、ここ間違えてるよ」

「え?」


 横顔を凝視していたアスランが、ルリの指さす場所を見る。

 モニターに並べられている細かな英数の中の一つを見つけ確認すれば、確かに間違えているのだが、それを指摘したのがルリだと思うとまたもや新たな驚きが襲う。


「早く終わったら遊んでくれるんでしょ?」


 アスランの背に覆い被さったままルリが嬉しそうに呟くのを聞くと、可哀想だと思いつつも「今日は無理だよ」と告げたのだが、怒ったルリがクッションを投げつけて部屋を出て行ってしまった。 

 家に帰るとは思えないから、おおかた兄のルクの部屋(かなり面白くないが)か、ルリが泊まるときに利用しているゲストルームだろうと思い、そのまま課題に没頭してしまった。



 気が付いたら辺りは薄暗くなっていて、机の上のライトだけが明るく照らし、すでに夏も過ぎ去り秋を迎えたひんやりとした風が窓から流れていた。

 昼間の汗ばむ暑さは微塵もなく、没頭していた時には感じなかった冷たさが体を包み、立ち上がってイスにかけてあったシャツを羽織ると、数回、首を軽く左右にひねってコリをほぐす。 

 やっと終わった課題を提出用にまとめて、引きだしていた資料を片付けようと部屋を横切ったとき、机からは死角になる続き部屋のソファの上で、ルリが眠っていた。

 ドアを開けた音にも気づかなかったし、あれだけ騒がしいルリがあの後、静かにしていたのかと思うと、何か不思議な感じがした。 

 クローゼットから毛布を取り出すと、そっとルリに近づいてその体に巻き付けようと思ったのだが、小さなソファの上で窮屈そうに体を丸めている姿を見ると可哀想になりアスランは毛布ベッドに放るとルリを抱き上げた。


(軽い?)


 抱き上げて、まず最初に思ったのはそれだった。

 そして、自分がルリを抱き上げられる力があることに驚いた。

 つい最近まで身長も変わらなかった、体力だってルリの方が断然上だった。

 遊びになるとルリに付いていくのが大変で、何度白旗を揚げたか分からないのだが「自分がルリを抱き上げている」という事実にアスランはひどく驚いた。


 確かに身長はこの一年で急激に伸びて、気が付けばいつの間にかルリの目線が低くなっていた。

 体力もルリよりも気が付けばついていた。

 なによりも、抱き上げられるだけの筋力がつき始めている。

 ルリを抱き上げて歩くことが苦でもなく行えている。

 そっとベッドに下ろして。

 呼吸に併せて上下する胸が柔らかくなっていた。

 微かに開けられた唇はつややかで柔らかい。

 毛布を首までかけたとき、見つめた首筋は白くて、細くて、触れたい衝動に駆られた。

 指先でそっと唇に触れてみれば、自分と同じ唇のはずのそこは、まるで別のモノのようにしっとりとして、無意識のうちに、アスランはその唇に軽いキスをした。 

幼なじみはいつの間にか「女の子」という別の生き物になっていた。



「ルリ」だけは「幼なじみ」で居て欲しい。

「ルリ」だけは「幼なじみ」であって欲しい。

「女の子としてのルリ」ではなく「幼なじみのルリ」で居て欲しい。








「え?」


 大きくもなく、さりとて呟きでもない、多分に呆れを含んだ声がタイスの口から漏れた。

 タイスの目の前には、コーヒーに口を付けるアスランが居て、ブラック故にしかめっ面なのか、それとも親友の呆れた声に対するしかめっ面なのかは今ひとつ分からない。

 が、アスランがコーヒーをブラックで飲むのはいつものことだから、このしかめっ面はタイスの返答にだ。


「…それで…?」

「いや…それだけ」

「つうかさ、可愛いなとか、愛おしいなとか、触りたいとか、押し倒したいとか、そういうこといろいろ思ったんだろ?」


 あからさまに言われて、アスランが再びしかめっ面を作る。

 作られたところでヤバイとかはまったく思わないからタイスはそのままだめ押しの一言を口にすることにした。


「そのままの勢いでエッチしようと思ったら出来たけど、相手があんまりにも純真爛漫で自分を信頼してるから、逆に手を出せなかったってことだろ」

「そうは言ってない!」

「言ってるだろ。お前ね、俺たちは今はもっとだけど、その二年前とやらは、丁度性少年になり始めだよ? そりゃ、いろいろ探検してみたくなるだろ。俺だってその頃は大人の世界に興味津々だったぞ」

「タイス当時、俺たちは一三・四の子供だったんだ!」

「一四歳なら十分にヤレるって」


 アスランが握っていたカップをなお一層、握りしめ、叩きつけるようにテーブルに置いた。


「もういい。お前にこんな相談をした俺が間違ってた」

「おいおい落ち着けよ。挨拶のキスはいくらでも出来たけど、相手が女の子だと認識した途端に、出来なくなったんだろ?」


 しかめっ面のアスランがタイスを見下ろす。

 見下ろされたタイスにしてみれば、最初はお前が持ち出した話だとぞ、と言い返してやりたいのは山々だったが、今は、アスランの恋愛相談に乗ってやっているのだと自分に言い聞かせる。


「今はどう思ってるんだよ。その子のこと。この年になればさ、それなりに複雑になるわけじゃん。好きに性欲はついてくるし。好きじゃなくても性欲はあるし。だけど、そういうのひっくるめて、その子のこと、今はどう思ってるんだよ」

「……今?」

「そ、今。前は幼なじみが突然、女の子になっちゃって戸惑ったんだろ? 性欲も目覚めるけど潔癖なお年頃だからさ。そのルリちゃんを女の子として自分が触れるのは嫌だった、幼なじみで変わらないでいたいって思ってたんだろ?」


 ふと、アスランの頭を数日前のルリが過ぎる。

 あの夏の終わりの日よりも、空港で別れた時よりも確実に「女の子」になっていたルリ。抱きしめた体の柔らかさも、押しつけられた胸の豊かさも、しなやかな首筋も、どれもがアスランの知らないルリだった。 

 幼い頃から一緒にいて、なんでも共有して、自分達の性別など気にしたこともなかった頃には感じなかった戸惑いや衝動を、あの夏の終わりより、あの空港の別れよりも確実に感じていた。


「大切にしたいのは間違いなんだろ? やりたいだけっていうのと、好きの境界線には個人差があると思うけどさ、何度も抱きたい、優しくしたい、大切にしたいずっと一緒にいたいと思うのは、俺なら好きだと認識するよ。逆にさ、ただやりたいだけなら、やることやって自分が悦ければ相手が気持ちよかろーが、傷付こうがどうでもいいし。もっと極端に言えば、一人で処理した方が遙かに気が楽なときもあるしな」


 戦艦内の手狭な部屋のベッドにタイスは腰掛けて、立ち上がったアスランを見上げていた。

なんでこんな話をしているんだろうという疑問が微かに頭を擡げてきて、アスランは急に感じてきた疲れに逆らうことなく、自分もベッドに腰掛けた。


「アスラン…お前さ、今どうしたい? 戦争中だとかそんなことを全部とっぱらって、今、その子と会えたらどうしたい?」

「……今、会えたら?」


 そう呟いた後、あまりにも長い時間、沈黙が続いたので寝ているのではないかとタイスが眉を潜めてアスランを伺えば、アスランは胸にあるであろうものを握りしめて最後に一言だけ唇から言葉を紡いだ。


「今は逢いたい。ずっと一緒にいたい…ルリと」

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