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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*静かなる意志6*

「その操縦桿を握ってしまったら、後戻りが出来なくなる」そう、語りかけられた気がして、ルリは触れていた手を咄嗟に放した。

 だが、ルリの躊躇いも、何もかも嘲笑うかのように作戦は遂行され、辺りが炎に包まれるのは時間の問題だった。

 地上では爆発とともに粉塵が舞い上がり、燃やし尽くせるものをエネルギーに変えて火柱がどん欲に飲み込んでいく。

 ルクと再会した場所も、母の知人達と落ち合った場所も、この二年間の苦しかった想い出の場所を、赤い怪物と化した炎が蹂躙していた。

 再び激しい爆撃が始まると「鋼鉄の鎧」とも「鋼鉄の奴隷」とも呼ばれるルリを乗せた巨人は「立ち上がる時は今だ」と促すように振動を伝えた。


一方で、先ほど聞こえたように「戻れなくなる」と呟いている気もする。

 巨人に意志はなく、そして意志を与えられるのは自分だけなのだが、様々な思いが渦巻いて、ルリは急に息苦しさを感じた。 

 酸素を求めて深呼吸をしてみても、息苦しさは解消されることはなく、ルリはこの空間の空気の濃度が落ちたのかと、腕につけた計測器で確認するも異常は見当たらなかった。

 地上の爆撃は続き、この場所も計画通りに仕掛けられた爆弾が爆発して、あと数分後には火の海と化すはずで、この場を逃げなければ、今度は自分も炎に身を焼かれてしまう。 

 今まで頑張ってきたのは「生きていたい、生きていきたい」という思いに他ならないから、こんな場所で、こんな形で死ぬわけにも行かず、ルリは生きるためにも、逃げるためにも、躊躇いながらもシートに深く腰掛けて、自分の体に合わせてエアーを送り込み固定さると、ベルトをしっかりと体に回した。

 リデリオの暴挙から始まってしまったルリとルクとルカの三人にだけ限定した計画のズレは、普通の兵士達が戦闘機に乗る際に身につけるとされるパイロットスーツを、ルリが身につけられないという結果をもたらした。

 元々ルリは戦闘に参加する予定もなく、ましてや戦闘機に搭乗する予定もなかったので、用意できないのは当然だったのだ。



「とにかく何もするな! 鋼鉄の鎧に保護してもらえばいいんだからな」



 ルクは何度も「何もするな」と強調した。

 体への衝撃はシートが保護してくれる、首への衝撃も同じようにシートが保護してくれるだろうが、素肌に付くであろう傷やら痣やらを保護してくれるものは何もない。

 最大限の措置として、ルリは自分の服の上からアナの服やルクの服まで重ね着をしている状態で、だがそれもたいした役には立つとは思えないが、ルクはないよりはマシとルリの動きにくいという言葉をあえて黙殺した。

 少しの息苦しさから解放されると、今度は急に暑さが襲ってきて、ルリは両腕の袖をまくり上げて、再び深呼吸をした。

 震える腕を伸ばし、座席と操縦桿の位置を調整し固定すると、両足をペダルに乗せて踏み込む位置と遊びの位置を確認後、目の前にあるコンソールに意志のない者に意志を与えるための、鼓動を与えるための呪文を入力していく。



----I libarata it all just now,and,I will give it the intention

----ATEELfromRURI



 そこまで入力すると、しばらくして「WILLfromRUKA」と「WISHfromRUKU」の文字が映し出され今まで薄暗かった空間が徐々に明るくなると同時に、次から次へと自動処理されたデータやシステムが瞬時に表示されては消えていく。

 ルクはこの膨大なデータを見たとき「目で追うことは不可能、追いかけようとすれば目が回る」と言っていたのが、なにも表示されるデータを全て見る必要はない。

 システムや機体に異常が発生していたり、確認が必要な場合は赤で表示され、特に問題のないものはグリーンで良好を示す表示がなされるから、表示される文字では無く、色で判断すればいいだけのことだ。だから、どれほどに膨大にデータ量が表示されても尻込みする必要は全くない。

 ましてや、今ルリが搭乗している機体は、ルリの手によって初めて稼働(厳密には初めてではないが)させているからコンディション異常を示す可能性は殆どない。

 それでも、技術担当者から「決まり事ですから、一応は確認してください、ルリ様」と言われていたので、ルリは言われたとおりの手順で確認作業を始め、終わると同時に視線を上げた。



  ---I libarata it all just now,and,I will give it the intention



 その表示を見つめて、ルカは本日幾度目となる怒りを、吐き出したい罵声を唇を噛みしめることで耐えた。

 強く握りしめていた掌を開きコンソールに「WILLfromRUKA」を入力すると、その瞬間、ルリの機体と共鳴したように感じた。

 ルリが乗っている巨人「光」は本来ならばルクが搭乗するはずで、この一連の作業もルクがする予定だった。

 ルリが搭乗している機体の名前をアティールといい女神ジャスティティアに使える乙女の名前でもある。

 乙女アティールは、女神ジャスティティアから光を守護する役目を授けられ、別名「明けの乙女」とも言われている。


 白い巨人にその名前を名付けたのはダイで、彼はブルームの「夜明け」を信じてこの名前を名付けたのだろうが、よりにもよってその「明けの乙女」にルリが搭乗するなどとは考えていなかったに違いない。

考えていたならば、予想していたならば「巨人」に、この三機にこのような機能をつけるはずがない。 

 考えれば考えるほどに「光があるところにすべてがある」というダイの言葉にすらも腹が立ち、八つ当たりだと分かっていても「バカ! くそオヤジ! 天然ボケ」と、ルカは父親に対して限りない悪態を付いてしまった。





**




「落ち着け!」


 操縦席に響き渡った怒号に、自分のことではないと頭では理解していたはずのタイスですら瞬時に背筋を伸ばす。

 機体の通信モニターに映るアスランの薄紫の瞳はバイザー越しでもはっきりと判るほどに厳しい色を湛えていて、タイスは何故か視線をそらして、親に怒られた子供のように頭を項垂れさせてしまった。


 数分前、作戦司令部から通信で所属不明の機影が確認された事は知らされていたが、自分達の目で耳で確認出来るくらいに接近してしまうと「慌てるな」であるとか「動揺するな」は、所詮無理な話であった。

 確かにここは戦場で、いついかなる時に敵と遭遇するか判らない立場にいるのだから、この程度のことで取り乱すことは、兵士としては失格ではあることには違いないが、突如として現れた未確認の戦闘機を見れば多少の動揺はあるものだ。

 動揺し、混乱し、指示系統すらも冷静さを失いつつある現状では致し方のない事ではあるが、その致し方のない小さなミスが命取り、果ては味方をも全滅させるかもしれない危機を孕んでいるのだから、小隊を率いて尚かつ前線の合流部隊の撤退支援指示をも任せされているアスランの怒号は、発せられるべくして発せられたといっても過言ではない。


 混乱させるのを目的とした敵の作戦である可能性もあるのだが、とにもかくにも新人達には「落ち着いて対処する」

という教官の言葉や、今までの繰り返された訓練の成果などはこの場では全てが無と化して、瞬時に味方の混乱と、自分の率いている部下の動揺を悟ったアスランは、各機に「この場を一旦離れて旋回し、上空でフォーメーションを立て直す」と一方的に命令すると、先頭を切って高度を上げた。

 下から無数に飛んでくる敵味方の区別のないミサイル攻撃をかわしつつ迎撃し、後から続いて高度を上げた味方機の援護まで忘れず、あげく味方の撤退ラインの確保にまで気を使うアスランに気づいたタイスは一種の感動すらも覚えた。


 士官学校時代に「アスランに関しては即戦力として戦場に放り出すことができる」と、教官が笑いながら言っていたが、あながち間違っていないだろう。そして、その感動と称賛を自分なりの言葉で述べようとしていたタイスは、再びアスランの怒号で我に返された。



「お前達はステラ候補だろ。少しは落ち着け!」



 先ほどと同じようにタイスまでもが沈黙し姿勢を正す。

 動揺のあまりに機体をふらつかせていた部下達は、再び響き渡ったアスランの怒号を聞いて、一応の落ち着きを取り戻したものの、映し出されている表情は青ざめて、中には粗相をした者も居た模様で、さすがに気の毒になり、多少のフォローをしてみようとタイスはアスランにとりなす言葉を考えた。

 アスランの下に配属されている部下達は地球戦は初めてであるし、実戦だって初めてに近い。

 なのに、こんな最前線に送り込まれ、しかも所属不明の敵か味方かもわからないような戦闘機と突然、遭遇してしまったのだから、多少の混乱は仕方ないだろう。

 だが、逆を言えばそのような部下を配置してきた上が悪い等と、数限りのない言い訳を頭の中で繰り出してはみたが、この状態では何を言っても無駄であるし、何よりもアスランの言うとおり落ち着くことが先決である。

と思い至ると、タイスは口を噤んだ。



「タイス、俺が先頭につく、タイスは四機を挟んで後ろを頼む、相手が敵か味方かもわからない。ましてや狙いも判らない。ここは様子を見て指示に従い情報収集を優先する。ただし、攻撃をされた場合は迎撃する」

「了解」


 指示を出したアスランの声はタイスまでも震え上がらせた先程の怒声ではなかったが、それでもいつもよりも幾分か堅い。 

 アスランのチェイサーの隣を航行していたタイスのマスタングが速度を落とし後ろに着けると、タイスの目に飛び込んできたのはもちろん四人の部下達が操っている四機なのだが、これがひどい有様だった。

 後ろから見てもふらふらとしていて、これでは「狙ってください」と宣伝しながら飛んでいるものだと珍しくタイスが呆れた、ため息をついた。


「1号機操縦桿平行に、2号機もうすこし足を踏み込め。3号機、自分の速度を確認しろ。4号機出過ぎた。フォーメーションを維持したままこれより旋回し、先ほどの離脱ポイントに戻る。各機ブースターのケージを常時確認するように」


 まるで一端の教官のようにアスランが各機に指示を出すのを目の当たりにするにつけ、こういう状況下で落ち着き払うことの出来る、戦友兼上司兼親友をつくづく感心するとばかりに、タイスは軽く口笛を吹いたのだが、それがアスランに聞こえたらしく「タイス」と一言だけ窘める通信を入れてきた。

 その声色には窘めの他にも様々な意味が込められていて、再び、タイスは背筋を伸ばしてしまった。



 同時刻



 主力部隊が帝国への総攻撃と掃討作戦の作戦実行中に、突然、空から降りそそいだミサイルは、イーストが総指揮官として乗艦している旗艦エイムズや戦艦リバティベル以下三〇に上る艦隊を一挙に混乱の坩堝に陥れ、文字通り蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。 

 帝国内に突如として現れた所属不明機の存在と、不意打ちを付かれた空から降りそそいだミサイルに冷静さを保つことは不可能に近く、迎撃しようにも相手の勢力もわからないままだ。

 イーストは即座にミサイルの迎撃と防衛を指示し、一方では早期の撤退・離脱を命令する。

 モニターに刻一刻と送られてくる映像を見つめたまま、艦長席から立ち上がりマイクを使わずに声を張り上げた。


「何故、ミサイル攻撃の情報を確認できなかった!」

「今、確認していますが、先ほどのミサイル攻撃で司令部との通信に障害が発生して、回線が開けません」

「主力部隊は今どの辺りだ」

「帝国の西側部隊より撤退・離脱を開始しています」

「SS部隊のローダリール少尉につなげ!」

「はい」

「ディック、先ほどのミサイル攻撃による被害の状況の確認と、この海域からの完全離脱の時間を推測して報告させろ。ミサイル攻撃の位置の確認も急がせろ!」

「はい」


 ディックは厳しい顔のまま艦長席を降りていくと、本来の自分の席にすわり急ぎ情報の収集を始めた。

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