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seek one's fate  作者: 六軒さくみ(咲海)


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3/12

*揺れるこころ1*




『ルリ、ルカ。お前達は今、何処にいる?』



***あのとき、空港で別れたあのとき、俺はまだ子供で 助けることも出来なかった。

   今ならこの手で助けてやれるかもしれないのに。

   何かが違うと、心の何処かでは思っているけれど 、胸の奥が軋む

 




地球の南半球を事実上支配下に置いているウォーター帝国が、ブルーム共和国に進軍したために起きた国際連邦と帝国の間の戦争は、既に開戦から二年後が経過していた。


────NC252年。

地球軌道上、国際連邦正規軍、移動軍事衛星内。

地球と帝国の戦火が始まって二年。



「アスラン・カヅキ・ローダデイルならびに、タイス・バンリティウムの両二名、本日付をもって准尉から少尉に任命。また、本日付をもって、国際連邦正規軍地球遊撃部隊戦艦リバティ・ベルへの転属を命令する。尚、ローダデイル少尉担当のチェイサー、バンティリウム少尉担当のマスタングは、今後も各自の担当機であるため、地球艦隊に転属の際には、それらを持参。以上」と、表示されたデスプレイを、アスランは見ているのか、見ていないのか。

自分のことであるにも拘わらず、どこか他人事のような顔をしていた。


「このまま地球に降下しろってさ、随分と無茶を言ってくれるよ」

「そのための二日間の休暇だったんだ。仕方ないだろ」


 どこかうわの空だったアスランが、タイスが独り言のように呟いた言葉に反応した。

 タイスとアスランが知り合ってからわずか二年。

 アカデミーが一年、そして戦場を共に駆けて背中を預けてから約一年。

 随分とお互いを『信頼』するようになていた。

 だから、タイスにしてみれば、そのアスランと一緒の転属ならば悪い話しではないと思うし、もともと地球で生まれ育ったので、やはり無重力間での戦闘よりは、地球の重力の効いた場所での戦闘の方がはるかに「向いている」と思っている。

 タイスにとっては儲けの幸い的な転属なのだが、この二年間で『同期』から『戦友兼親友』になった男には、憂う原因にしかなっていないらしい。


(確かに、それなりの理由を知ってはいるが)


 休日の度にアスランは地球に降下していることは有名で、地球に『恋人』がいるのではという公然の噂も流れるほどで、タイスとしてはこの秘密主義な親友も、地球への転属を喜ぶのではないかと、家庭の事情を差し引いても、喜ぶ事ではないかと思っていたのだが。


 地球降下のための専用シャトルが用意されている格納ブロックの作業風景を、ガラス越しに見るともなしに見やるアスランの憂い顔は、ここ数ヶ月でよく見るようになった。

 よく「ふけるぞ」「俺より年下に見えないぞ」と冗談を言うことがあるが、あながちそれも冗談ではなくなってきている。

 ただでさえ、一部では無表情で感情欠陥者などと陰口まで言われているのに。

だが、その一方で、その憂い顔もアスランの秀麗な顔を損ねることはなく「そこが魅力なの」と一部の女性が騒いでいるのも知っている。

 その女性達が「公然」の恋人を噂しているのをこの男は知っているのか、いないのか。

「聞いてみた方が早いか」と判断すると、タイスは切り出した。

 その辺りに関してはタイスに尻込みをするとか、遠慮が働くであるとか、配慮がある方ではない。


「……なぁアスラン、お前またこの二日間の休暇に地球に降りてたんだって? なんだよ、休みの度に地球に行くのは、やっはりかわいい彼女でも地球にいるのか?」

「………?  やっぱり?」


 何のことだか判らないとばかりに、アスランが瞬きしながら首をかしげる。

それを見たタイスが「お前は自分の噂を知らないのか?」と心配になる。


「お前さ、もしかして自分の噂を知らないのか?」

「だから、……何の?」


 人の色恋沙汰に関する噂話や与太話に対しては、興味がないのか一切乗ってこないアスランが、その手に関して天然というより「鈍い」と思っていた親友が、これほど「鈍い」という事実にタイスは軽い目眩を覚えた。

 良い噂であろうと、悪い噂であろうと、とにかく自分に関することが気になるのは人間だろうに、アスランのその手のことに一切興味を示したことがない。


(この間、お前に間接的に探りを入れてきた秘書官だっていたし、面と向かって恋人のことを聞いてきた通信士だったいたし、さりげなくアプローチしてる子だっていたじゃないか!)


 そう、そして唐突に思い出す。

 あの時、アスランは『この戦時下に君たちは、何をくだらないことを言っているんだ』と、空調が完全にコントロールされた戦艦内の空気が一挙に底冷えするほどの冷たさ答えた。

 質問をしてきた女性乗務員がその冷然さに顔を引きつらせながらも立ち去ることなく踏ん張ったのは、賞賛に値したものだ。


 そもそも作戦中の戦艦で、交戦でもなければすることがない人間も確実にいる。

 狭い空間の中で共同擬似的生活をすれば、親近感も生まれるし、連帯感も生まれる。

気になる男がいれば、アプローチだってするのが普通の人間だ。

 軍内、作戦中の艦内であるこを差し引いてみたって、恋愛を禁止されたからといって恋愛をしない人間なんて存在もしない。

 多少の娯楽が必要なときもあるのだ。

 確かにその娯楽のやり玉に挙がった人間にしてみれば、迷惑この上ない事ではあるが、月に一度の休暇で地球に降下すれば誰もが気になり聞きたくもなる。

 ましてやアスランの場合は軍の実力者が後ろ盾であり、将来も約束されている。

 家柄が良く、地位も名誉もこの先、確実に約束されることは間違いがなくて、顔もヨケりゃ頭もいい。

 女性達にしてみれば、永遠の憧れである『白馬に乗った王子様』であり理想の『お婿さん』アスランの場合は『戦闘機に乗った王子様』だが、それが服を着て歩いているようなものだから、仕方ないといえば仕方ない。


「自分のことなのに、まさか知らなかったとはね。有名だぞ。地球に愛しい恋人がいて、逢いに行ってるんだって」

「どこからそんな話しになるんだ……?」

「違うのか?」

「……そんなんじゃ、ないよ。幼なじみを探してる。帝国がブルームを攻撃した日に空港で別れた幼なじみなんだ……あの時、俺はまだ子供で助けることも出来なかった。燃え上がる空港をシャトルの中から見ることしか出来なかった」


 タイスから見たアスランという人間は、確かに悩みの多い奴で、なんでもかんでも内に込めては自分で解決も出来る男。

 だから、何事かを誰かに相談するときは大体、自分の中で解決した後なのだが、相談してくれることは十分うれしく、安心して背中を預けて戦える人間だった。


「あの後、すぐに開戦になって連絡の手段もなくなった。ブルームは事実上その主権がなくなってしまっている。もし困っているなら、もし泣いているなら、今なら、この手で助けてやれるかもしれないのに。軍に入れば何かしら情報を探れると思ったんだけど」

「見つからないのか?」


 深いため息とともに静かに頷く。

 その秀麗な顔に悲しみともつかない感情を浮かべて。

 確かにタイスと出逢う前に友もいただろうし親友と呼べものもいたと思うが、アスランにこれほどの「顔」をさせる「幼なじみ」がいたことに驚いた。


 タイスとアスランが出逢ったのは丁度二年前。

 連邦政府の月にある士官学校で、最初は挨拶程度の間柄で、人と一緒にいることが苦手なのか、アスランは大抵の自由時間を一人で読書をしていることが多かった。

 人に嫌われているかと思えばそうではなく、周りの相談事や、講習、補習などにも厭な一つせずに付き合うだけの人付き合いの良さもあり、同期からは人望もあった。

 取っつきにくいタイプでもないから話しかける生徒もいて話しかければ会話にものる。

 ただ、進んで人と交わろうとか、馬鹿をやろうというタイプではなかった。


全課程において優秀な成績で卒業が決まったときも、それを自慢するとか鼻にかけるとか、そういう素振りは微塵もなく、ただ与えられたことをこなしている、良くできた人形のような奴だった。

 静かで慎ましやかで、そして穏やかで。

 こんな奴が何故戦争に参加しようと思ったのか、タイスにしてみれば謎だったのだ。


 配属が決まり与えられた専用機が、連邦が開発した最新鋭機であり、いくら成績が良くステラ候補に選ばれたかといっても学校を卒業したての新人に「何故だ?」と思っていた矢先、連邦政府の高官が、アスランの父方の祖父だと判明した。

 だから、それが入隊の理由かとも思っていた。

 けれども、それだけのバックボーンがあるのなら前線にいる必要はないはずで、前線にいる理由を知ったときには驚いたものだが、今日聞いた話はもっと驚いた。


『軍に入れば、何かしら情報を探れると、思ったんだけど』


(おいおい、勘弁してくれよ。幼なじみを捜すためだけに、この男は前線に立っているのか? 自分の命を張っているのか?感情欠落者なんて言い出したのは何処のどいつだよ………ああ、悪い、俺だったわ)

「この二年間、探してるけど……見つからないんだ。生きているのか死んでいるのかすらわからない。それでも諦められないんだ!」 


 最後の言葉に熱がこもる。


 ふっとアスランに視線を戻すと、彼は自分の胸に手を当てていた。

 この姿は学校時代から良く見る姿だ。

 滅多に表情の崩さないアスランが唯一、口元に、その瞳に、柔らかさと痛みを表すときだ。

 服の下に隠された場所にあるのは、アスランが命より大切なお守りだと言っていたものだ。

 シンプルなプラチナのチェーンに繋がっていたのは、これまたシンプルなプラチナの指輪だった。


 一見すれば結婚指輪。


 最初それを見た時「婚約者でもいるのか?」と聞いた。

 だが、それに対して「お守り」だと言うから、てっきり母親の形見だと思っていた。

 母親が幼い頃に死亡したと聞いていたから。

 なのにそのその質問には寂しそうに笑うだけだった。

 タイスが自分の間違いに気付いたのは最近だ。

 アスランは胸に手を当てるときに必ず呟くからだ。


『ルリ、泣いてないか?ルカ、無事か?』と。


「お前の探しているその幼なじみって、ルリとルカ?」

「どうして名前?」


 鳩が豆鉄砲を喰らう顔とはコレか。

 とばかりな顔をしたアスランの滅多に拝めない表情を見て「ちょっと俺様いい気分よ」とは口に出さずタイスは苦笑いを浮かべた。


「だってお前いつも胸に手を当てて名前、呼んでるじゃん。ルリ、ルカってさ、気づいてないのか?」


 タイスに指摘されて、アスランは気づいてなかったとでも言うように、ちょっと困った顔をして、そしてふっと寂しそうに微笑んだ。




 ルカ元気か? 

 ルリ泣いてないか? 

 寂しくないか



『逢えなくて、俺は寂しい』


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