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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*静かなる意志2*

***ルリ、どうか無事で***


『今はそれしか願えないけど。祈ることしか出来ないけど。

 だけど、想いは本物なんだよ、ルリ。ルカ』




 与えられたブースで着替えて、ふっと横を見ると、タイスの戦友はいつものように胸に手を当てていた。 

 心配事があるとき、何かを考えるとき、そしてルリとルカを思うときに胸に手を当てることが癖になっているアスランは、出撃前もいつも同じように胸に手を当てていた、まるで神聖な儀式のように。 

 首から下げられているネックレスに通されたシンプルな指輪を宝物だと言っていた。

 一度として詳しくは聞かないまでも、それが母親の形見ではなく、ルリやルカに関連するものなのだろうと、ここ数日で分かった。

 そして、アスランにはもう一つ癖がある。

 やはり胸に手を当てる仕草なのだが、こちらは心臓を触る。

 アカデミー時代の入浴で初めてそれを見たとき、タイスは言葉を失った。

 アスランの左胸に大きく残る傷跡に。

 理由を聞いたのだが、指輪同様に笑って応えてはくれなかった。

 おそらくは事故かなにかだろうが、とにかく目立つ大きな傷で、時折、その辺りを服の上からさすっていたら、古傷が痛むのかと聞いたのだが、聞かれたアスランは驚いたような顔をした後「癖なんだ、昔からの」と寂しそうに呟くだけで。



「アスラン……」

「大丈夫だ、行ける」


 その言葉を疑うことはないけれど、現在は帝国がいるとはいえ自分の祖国を、大切な幼なじみがいるその場所を攻撃するアスランの心境を思えば、何を言えばいいのか、タイスにも思いつかなかった。 

 攻撃対象を告げられたとき、一瞬だけ激しい動揺を見せたアスランはその後、その動揺を必死に押し込めている。

もし自分がその立場に立たされたとしてどのように反応するのかを考えて、タイスは改めてアスランの痛みをそれとなく理解した。

 大切な幼なじみが住んでいる場所を攻撃する。

 それは自分の手で殺すことになるかも知れない危険を含んでいる。


「すべてをぶちまけて、攻撃の混乱に乗じて助け出すことは出来ないか」とも持ち出してみたが、タイスのその提案にアスランは表情を引き締め、考える時間すらも置かずに「却下だ」と告げた。

「無理だよ」とか「出来ない」ではなく「却下だ」と告げたのだ。

 それは友としての言葉ではなく、部隊を率いる人間としての言葉だった。

 


「タイス、俺も考えた。だが、俺の個人的な理由で他に負担はかけられない。俺には俺のやらなければならないことがある」



 それはアスラン自身に言い聞かせる言葉でもあった。




**




「ルリとルカはまだ見付からないの?」


 赤い絨毯の上に置かれた王座に腰掛け、美しい足を組んだ女性が足元でひざまずく男に下問した。


「はい。ルリ様は殿下のお屋敷から出た後、行方が分かりません。ルカ様もその直後お屋敷から姿を消し、今のところ不明です」

「不明なのではなくて、逃げられた、の間違いじゃないのかしら」


 美しい口唇から発せられるのは冷たい響きだ。

 下問された彼は、冷や汗を必死に拭いながら、どう返答しようか頭の中を整理するも、何をどう取り繕っても、ルリとルカが不明であることは事実で変えようがない。

 顔を上げれば、「女帝と、”両神”とまで称される二人の男が控えている。


「ダイを餌に使いましょう、ルリとルカは父親を見殺しに出来ないはずです。二年前、月からここに来たのですから。今回も父親を殺すと言えば、出てくるのでは?」


 控えていた男が女帝に進言する。

その言葉が天の声にも聞こえて、ひざまずいていた男は禿げ上がった頭を笑顔で上げるが、そこには女帝の冷たい視線。


「一度成功してからと言って二度目も成功すると思う?ルリとルカを甘く見ない事ね。アレもデュオンの血を引く者なのよ。それに、リデリオの事があったとしても、これほど手際よくルリとルカが姿を消したと言うことは、内通者や協力者がいるということでしょう。あの二人だけでこれほどの事が出来るはずがないわ……」


 ただひたすら禿げ上がった頭を下げている男を見つめたまま女帝がしばし黙考する。

 リデリオの一件以来、どこかで狂い始めた歯車がある。

 両横に控えている二人の男のうちの、黒髪を持つ細身の男の一人に手で合図を送ると、彼は静かに女帝の前に跪く。


「……各責任者を一時間後に王城に呼びなさい。それからダイの身柄を公爵に」

「…公爵に、ですか?」

「ええ。それから、ルルの居場所を突き止めて。あの双子がここまで用意周到に逃げ出したのは、間違いなくルルが手を貸したからよ。ルルを探せばあの双子の居場所も突き止められるわ。それから黄昏が知らせてきた情報に間違いはないのね?」

「はい」


 女帝はドレスの裾を優雅に払いつつ、身を翻して王座の後ろにある扉に向かった。

 その後ろ姿は見惚れるほどに美しかったが、彼は何か予感を察知して慌てて女帝を呼び止める。


「あの! フラーミング陛下、わたくしは何をすればよろしいのでしようか」


 声に立ち止まった女帝は、振り返ると蔑みに満ちた視線を彼に向けた後、艶やかに笑う。

「何もせずともよい。そなたはもう用済み。二度とわたくしの目の前に姿を見せないことがそなたの出来ることです。アンリ、その男の処遇はお前に任せます」

「はい。殿下の事は如何なさいますか」

「あの能なし男はまだ利用価値があるから、生け捕りにしておきなさい。女と一緒に牢屋にでも入れておけば文句は言わないでしょ。それからルリやルカの監視をしていた人間の中に協力者がいたはずよ。見付からない民政委員とも連携している節があるから、徹底的に調べて、少しでも怪しい人間はすぐに捕まえなさい。逆らうなら射殺してもかまわないわ」


 アンリと呼ばれた男は、命令に対する返事のかわりに静かに頭を下げることで顕し、それが合図だったかのように扉の前に控えていた衛兵が恭しく頭を下げながら扉を開く。

 扉が閉まる瞬間、女帝の背後から荒々しい足音と男の悲痛な悲鳴が聞こえてきた。


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