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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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22/34

*それぞれの想い3*

作戦開始6時間前



「それで、ルリは無事なのか?」

「ええ、大丈夫よ。ちょっと放心状態だけど、さっき無理矢理に眠らせたところ。三時間程度で薬は切れるから心配はいらないわ」

「…三時間か、本当に大丈夫なのか」

「失礼ね、ルク。私はこう見えても医者なのよ」


「あ、そうだったな」と思い出しように呟き、ほんの少し歪んだ画像の通信相手が豪快に笑う。

 画像は歪んでいるのに声だけは鮮明で、その鮮明な笑い声を聞いていたら、何故かプライドを傷つけられた感じを受けたアナは気を取り直す意味も含めて、咳払いを一つ。


「それよりもルク、あなたの弟がステラですって? 私そんなこと聞いてなかったわ。報告書にもそんな記述ひとつもなかったわよ」

「……」

「ちょっと! ルクもしかして知ってたの?」

「……まあ、なんとなくそうかなって、思ってたんだけどな」


 ルクの答えに目をつり上げたアナを見てルクは自分の首の後ろに手を当てる。

 自分にとって不味ことや何かを考えるとき、そして不利なときなどに良く見せるルクの癖の一つだ。

 それを見てアナが冷たい視線でルクを見つめる。


「あなたどうするの? 想定外よ、ステラだなんて」

「と、俺に言われてもな。俺とアスランは別人格で互いの人生もあるんだし」

「そりゃそうだけど、ルリ様への影響が強すぎるのよ」

「何が言いたいのかは分かる。だけど今はそんな事より当初の計画だ。アスランの事に関しては俺からルリに話すよ。そっちはお前に一任する。以上」

 

 言いたいことだけ早口に告げると、この話はこれで終わりとばかりに、ルクは強引に通信を切断してしまった。

 まだまだ言い足りなかったアナは、再び通信をつなげようとするが向こうから拒否されてしまい苛立ちげに、手にしていたインカムを投げつける。


「まったくもう! 男ってどうしてこう、都合が悪くなると逃げるのかしら!」

「トゥアナ様、王城の方の準備は整いました。ダイ様の居場所も確認済みです。各工作員にも同じように伝達しています、今のところ計画が漏れている様子もありません」


 持って行き場のない苛立ちを何度か足で地面にぶつけていたアナは、部下の一人から報告を聞くと、自分に今は作戦中と言い聞かせて心を落ち着かせる。


「ダイ様の救出は当初の予定通り本体である解放軍に一任します。他の有力者の救出も解放軍に一任します。ルカ様の救出はフェニールの部隊に任せるから、アナタはそちらに合流して。それから邸は跡形もなく吹き飛ばしちゃって頂戴。特に地下の研究所」

「はい」


 部下の後ろ姿が見えなくなると、アナは再びため息をついた。




作戦開始5時間前




「ルリは無事なの?」


 声は震えていて、顔色は真っ青だ。

 双子であることを差し引いても、ルカは妹のルリを溺愛している。

 それこそ、片時も離れないという言葉がピタリと当てはまるほどに。

 軟禁状態のルカと違って、ある程度の自由が与えられた(といっても、この邸のうちを自由に歩けるというだけではあるが)ルリだが、進んでルカの傍を離れることはなかった。

 四六時中、それこそ寝るとき以外は殆ど、ルカの傍らにいた。

 だから今朝方、突然現れた数人の人間達にルリが強引に連れ出されたと知ったときには、ひどく取り乱した。

 いつでも鷹揚に構え、動じないルカには珍しいことで、しかもその男達がリデリオの部下だと知ると、今度は今まで見たこともないほどに激怒した。

 ルカもリデリオの悪評は聞いている。よもやルリがそう簡単にリデリオにやり込められると思っていなかったが、今のルリはアスランのことで動揺して、いつものルリではないのだ。

 万が一の事もあるかも知れないと思うと、いても立ってもいられなく、そして自分達に動揺を与える、ここにはいない幼なじみのアスランにすら怒りの矛先が向く。

 今すぐ助けに行きたい衝動を抑えるのにひどく苦労を要し、ここで自分が動くことで今後起こす計画の総てをダメにしてしまう可能性があると思うと、呪いの言葉が出てくるのは仕方のないことだった。


「ルリは?」

「大丈夫です、今はトゥアナ様とご一緒にいらっしゃいます。計画は予定通りです」

「……無事って、どういう意味で無事なの?」


 声に込められている微かな絶望感に気づくと、フェニールは笑顔を見せる。


「ルカ様の心配されているようなことは何一つありません。ただ……」


 濁す言葉にルカの表情が再び硬くなる。


「はっきり言って、何があったの」


 こういう時のルカには「従わなければならない」という何かを感じさせる。

 普段は鷹揚で、朗らかな人物なのだがこと妹のことに関すると人格が一変することもしばしばだ。

 そしてこんな感じでヒンヤリとした空気を纏う。

 口調は丁寧でも「絶対的な命令」だ、とばかりの空気を纏うのだ。


「私もはっきりと聞いたわけではございませんが、部隊長がルリ様の救出にいた時、ルリ様はリデリオを殺す寸前であったと……」

「……殺す寸前?」


 何か思い当たる節があるのかルカはその後、妹の名前を呟くと押し黙ってしまった。




 作戦開始3時間前




 いつも目を覚まして飛び込んで来るのは、ドレープも見事な赤いカーテン、そして天上に描かれた絵。


 意識が覚醒するのと同時に、監視役でもあり、世話役でもある数人の女性達が、一苦労しながらその赤いカーテンを横に寄せて、部屋中に光を取り入れる。

 起きあがることが億劫になりそうな程にスプリングの効いたベッドで体を起こせば、別の女性がクローゼットから服を取り出して、ベッドの上に並べていく。

 戦火の中とは思えない贅沢な暮らしだった。

 そんないつもの生活の夢を見て、目を覚ましたルリが横たえられていたのは、それこそ土の上に無造作かつ申し訳なさそうな程度に置かれていた簡素なパイプベッドの上だった。

 マットレスなどおいてあるはずもなく薄い板の上に、これまた薄いシーツを敷いてあるだけでの代物で、毛布にしても洗濯は施されているようであったが使い回された古びたものだった。 

 辺りを見回せば、そこは今まで暮らしていた豪華な、けれど監視が張りめぐらされた邸とは、ほど遠い緑のテントの中だった。ほんの少しだけ記憶が混乱したものの、すぐにそこが何処であるのか、理解した。

 仄かな明かりを頼りにテントから出るとすでに辺りは暗闇が支配していて、至る所に貼られた、似たようなテントからは微かな明かりが漏れている。



 瓦礫の山。



 テントの張られていない場所には瓦礫が放置され、上空から見ただけでは、瓦礫の山に埋もれてそこに大量のテントがあるなどとは分からない。

 このテントで生活をしているのはブルーム共和国に住んでいた人間達で、戦争が始まってからは家を追われた「難民」達である。  


 帝国は彼らに対する救済は一切行わず、月やコクーン政府の難民の人道支援をも突っぱねている。

 ここにいる人間達の口から現状が漏れることを恐れて、帝国はここにいる人間達の出国を禁止し、逆らうと躊躇わず銃殺されてしまう。

 難民として出国することも出来ず、行ける場所はなく、こうして一つの集落となって生活している。

 水も食料の供給すらも与えられないにも関わらず、ここの人達の生活が成り立っているのは、ブルームが生活資源に豊富な国であったことの恩恵を受けているからだ。


 二年前まで、いまルリが立っている場所はブルームの最高機関があった場所で、そこには国民に一定期間は供給できるだけの非常食が備蓄されていた。

 備蓄されていた食糧を考えるに、ブルーム政府はいずれこうした事態が起こりえることを考えていたという節もある。

 帝国がブルームの総てを配下においたとき、帝国軍隊にも供給するために支配下に置こうとしたが、ブルーム国民は激しく反発した。

 国を出ることを許されず、難民として他国に渡ることも許されない。

にもかかわらず食料まで取り上げることは何事だ、とばかりに国民達は憤り、それこそ一致団結して、誉められたことではないが、徹底抗戦の無差別テロ活動を起こしたのだ。

 帝国は取り上げるのではなく供給制にするのだと何度も説明したが、誰一人その説明に、詭弁に納得する者はなく、徹底抗戦の無差別テロは日々悪化し、多大な犠牲が生じた。

 それでも譲れないもののために個々で戦い始めた国民達が、徐々に団結をはじめ、軍隊のように統制がはかられるようになると、帝国軍は手を焼くようになり、同時期に帝国軍は連邦軍とも交戦状態に入り、今までのようにブルーム国内に対する抑圧を維持できなくなった。

 事実上、帝国が手を引く形で今のような状態になった。



 月から帝国側に来て半年。



 最初は不安と言いしれぬ恐怖に、ただ怯えていたルリとルカも、半年が過ぎれば自分達の置かれた境遇や現状を知り、悟るくらいの柔軟性を持ち合わせていた。

 ルリに至っては泣き虫な割には以外と肝の座りがよく、そしてルカの楽天的な性格は、こんな時にこそ生かされていて、とにかく自分達の与えられた現状でなんとかしようと思い立った。

 ルカは得意の情報収集能力を駆使して、現在のブルーム国内の状況や帝国内部の動きを知り、そして帝国軍と対等に戦うことの出来る国民達を、そのころ彼らは自分たちを「ブルーム解放戦線軍」と名乗っていて、その存在を知った。

 無差別に攻撃をしていた国民達が、徐々に秩序を持って作戦を組んで戦っていることに気が付くと、ルリとルカは、それを指揮している人間に興味を持った。

 戦争を放棄し武器を排除し最低限の防衛の施設しか持ち得なかった「楽園」と呼ばれたブルームに、災害時のための食料が備蓄されていたことには驚かないが、武器があったことには驚いた。

 だからこそ尚更、指揮している人間に逢いたいと思ったのだ。 

 武器の調達方法、作戦の組み方、帝国軍に尻尾を掴ませないその遣り方は、もしかしたら、ルリとルカの光になるかもしれない。

 信じられる味方は一人もいない状況下の中で、やれることはもちろん限られていた。

 子供であるルリとルカに出来ることなど、本当にたかが知れていたのだ。

 それでも諦めることは出来ないと何度も、何度も励まし合った。

 特にルリは「アスランに逢いたい、逢えるまでは絶対に諦めたくない」と、言い続けた。

 そんな時に、表向きはルリの護衛としてだが監視役として現れた人物は、二人にある人間の名前を告げた。



 その名前を言われなければ信じなかったかも知れない。



 言われても最初は彼女をルリもルカも信じなかった。

 だけど彼女は、ルリとルカ、そしてその人物しか知らないことを知っていた。

 何より味方のいない自分達に初めて味方と呼べる人物が出来るかも知れない。

 悩んだのはほんの数分で、二人は答えを出した。



「もし信じてそれが罠なら潔く天国に行ってもいい」



 国内の解放戦線隊を指揮していたのは、ルリ達の大切な幼なじみアスランの兄であるエレクトルで、彼はブルームが攻撃を受けた直後から月のとある人物の援助を受けて、ブルーム共和国の旧自衛軍や高官、国内に留まっていた人間達に声をかけて、二年の年月をかけて「ブルーム共和国の開放戦線軍」を組織した。

 もちろんブルーム自体がすでに国として存在しているかと問われれば難しい所ではあるが、帝国の最大のミスはブルームの有力者の大半を逃してしまったことだ。

 八民政委員のうちダイを抜かせば七人。

 七人のうち三人は帝国側に身柄を押さえられ、一名は死亡してしまったが、残った人物はルクの手を借りて国外に脱出し、帝国から祖国を取り戻すための下準備などに奔走した。

そしてそれらの人達とともに国内で政治を支えていた数多の人達も奔走した。

 資金調達や帝国内部にいる反帝国貴族、他の有力者達。

 秘密裏の努力はこの二年で実を結び始めている。

 すべてが順調に進んでいるように見えたのに、アスランの出現が変えた。



「ルリ様…」


 暗闇の廃墟の中で佇んでいたルリの背中にアナが声をかけた。

 この小さな背は、頼りない肩はこれから予想も付かない重荷を背負うことになるかもしれないのだ。

 ルリが「ルリとしてのすべての人」と公言したその彼アスランと、戦うことになる事態も予想されるのだから。


「……犠牲も出さずに作戦が遂行できると思う?」

「ほぼ無理でしょう。作戦区域内から一般市民を非難はさせましたが限界はあります。総ての人を救済することは神様にだって不可能です。だからと言って、斬り捨ててよいのかと言われたら困りますが」

「……でもこれを逃してしまったら、ブルームは二度と戻らないかもしれない……時期を逸したらここにいる難民達は遅かれ早かれ生きてはいけない……ということでしょう? 私も頭では分かってるの。だけど心はついていってくれない、心のどこかで拒絶するの。軟禁の身とは言え、私はここで生活をしていた人達に比べれば予想も出来ないほどのいい暮らしだった。暖かい部屋に柔らかなベッドに、好き嫌いを言えるほどの食事……有り余るほどの贅沢品。一年前、ここに来たときのショックは忘れられない……」

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